第21話ランバージャック編 時に親切は残酷になる
ゴルキチは、ひたすら木を伐採し「森の女王」を数匹狩ることが出来たものの、稀にくる横取りもあり進みはよくない。
一息入れようと、自室からリビングに移動し、コーヒーを淹れていると弟の響也(きょうや)がちょうど一息入れにリビングに来たところだった。
響也は兄の竜二から見ても良くできた男で、勉強とスポーツはそこそこなものの、謙虚な性格と人当たりのよさが好感が持てる。
「休憩か?」
今年高校三年生になる弟のことだから、きっと勉強してたんだろうと竜二は、コーヒーを弟の分まで淹れる。
「うん。兄さん。兄さんはドラゴンバスターかな?」
「ああ、なかなかタフなのがあって一回休憩だ」
「へえ、どんなのなの?」
竜二はかいつまんで、伐採のことと、ボスモンスターのことを弟に聞かせるのだった。嫌な顔一つせず聞いてくれる弟に、どっちが兄かわからないなと竜二は苦笑する。
「なるほどね。友達にさ、ドラゴンバスターやってる奴がいるから、少しだけなら手伝えると思うよ。後で手伝いに向かわせるよ」
「友達にやってる人いるのかー。俺も会社の先輩が、いや何でもない」
それは昨日、木下からラインで聞いたよと口には出さずに、響也はアタフタする兄を見て、思わずニヤついてしまった。
響也は息抜きに兄さんとゲームするかと考え、兄の淹れてくれたコーヒーを持ち自室へと戻っていく。
竜二は竜二で、ゴルキチでログインし、再度伐採を再開する。伐採していると、とんでもないプレイヤーがゴルキチに声をかけてきた!
「こんにちは。ゴルキチさん、話は聞いてます」
腰には「不壊」の効果が付与された、漆黒の三日月刀ーーソウルシーカー。背中には大型のカイトシールドと呼ばれるオーソドックスな盾。職業はグラディエーターのため、防具は軽装の皮鎧を着ている。
そう、このプレイヤーはドラゴンバスターオンラインでもトップクラスのプレイヤースキルを持つ傭兵、グルードだった。
弟がまさかグルードさんと知り合いだと!グルードさん高校生なのかな?まあ、そんなことはどうでもいいが、緊張するんだけど。心の中で呟くも、せっかく来てくれたのに追い返すのもよろしくない。
「まさか、グルードさんが来るとかビックリですよ」
「森の女王が出る前で待ってますので、パーティ組みましょうか」
気さくにグルードはパーティ申請をして来たので、ゴルキチは戸惑いながらもパーティに加入する。何気に久しぶりのパーティプレイだ。
伐採し、待機していたグルードが森の女王に即挑む。パーティを組んでいるものは、同じエリアにいるとボスエリアに一緒に移動する。そのため、グルードが森の女王に挑むと、ゴルキチもボスエリアに移動する。
グルードはペアでの動きにも慣れているようで、的確にゴルキチをサポートしてくれる。余りのサポートスキルに楽しすぎじゃないかとさえゴルキチが思ってしまうほどだ。
こうして、順調に狩っていくものの、なかなか髪染めは出ない。目的のアイテムは出ないものの、ゴルキチはグルードとチャットしながら和気藹々と、森の女王を狩ることを満喫できているので不満は全くない。
ゴルキチはついつい、髪染めをしゅてるんに渡すことも話してしまう。
これに気を回したグルードのおかげで、事態はとんでもない方向へ流れていく。
翌日のことだった。ゴルキチはここ最近日課になっている木の伐採をやっているところ、またアレが来た。
「こんちー」
金髪ツインテールに、ゴシック衣装。黒いヒールにレースのついた薄紫のニーハイソックスの少女に声をかけられる。アレことしゅてるんがまたやって来たのだった。
「どうもです。しゅてるんさん。まだ出てないんですよー」
「いいのよん。ゴルキチちゃん。ちょっとお願いごとがあってねね。もし実現できるなら、先にアイテム渡しちゃうのの」
相変わらず、精神力をガリガリ削る喋り方でしゅてるんは何か提案してくる。すごくすごく嫌な予感がするのだが......ゴルキチは冷や汗をかくが、聞くしかない。
「な、なんでしょうか?」
「えとねえとね。堕落した馬王を倒すのが大変でね。グルードちゃんもゴルキチちゃんのために手伝ってくれるみたいなんだけど、リベールたんにも手伝って欲しいのの」
つまり、アイテムを渡すからリベールにも堕落した馬王を倒して欲しいと。グルードさんが俺のために手伝ってくれるのは有難いが、有難いんだけど、アイテム貰って討伐するってことは......
竜二は考えるも、予想通りの言葉がしゅてるんから......
「せっかくだから、リベールたんにはアイテムを装備して討伐してほしいなあ。服も一緒にねね」
うあああああ、やっぱりかああああ。頭を抱えるゴルキチの中の人竜二。せっかくグルードさんがゴルキチのために手伝ってくれるのだ。無下には出来ない。出来ないんだけどアレ装備して戦うのか。
「い、一週間待ってください。それで出なかったら、リベールさんを説得してみます」
「わかったた」
両手を振ってバイバイのモーションを取り、しゅてるんは去っていった。
俺の精神のためにも必ず出すんだ!心に誓う竜二であった。
その日から一週間、仕事から帰ると、寸暇も惜しんで「森の女王」を狩りつつ、リベール用の「堕落した馬王」専用マクロの製作も行う。
ただでさえリベールを使うと精神力が削られる上、ニーハイソックス(レア品)装備必須な上、しゅてるんと会話までしなければならない。
レアアイテムでゴルキチとリベールのアリバイを作るとか何て浅はかな考えだったんだ......竜二は後悔するももう後の祭りで、「森の女王」から髪染めが出ることを祈るしかなかった。
――魔女帽子こと木下茜
受験勉強が一息ついた茜は、さっそくパソコンを立ち上げる。パソコンが立ち上がるまでの間にスマートフォンをチェックしていると、冴木響也からメッセージが届いていた。
<兄さんと狩りにいったんだ>
おお?ゴルキチさんにバラしたのかな?それなら一緒に遊べるーと、茜は呑気に考えつつ返信する。
<ええ、バラしたのー?>
<いや、兄さんが髪染め集めてるっていうからさ、俺の友達と説明してグルードとゴルキチでパーティ組んだんだよ>
<ゴルキチさん、まだ髪染め集めてるの?って出てないのかな。でもその、髪ないじゃない?>
言いづらいことだったが、ゴルキチ本人じゃないので思い切ってメッセージを送る茜だった。
<んー。どうもしゅてるんさんと取引したいみたいだね。だから、しゅてるんさんに聞いてみたんだ>
<ほうほう>
冴木響也が茜に説明するには、ゴルキチさんが木こりを楽しんでいたところしゅてるんさんと出会って、しゅてるんさんから髪染めの取引を持ちかけられたらしい。
ゴルキチさんはしゅてるんさんから持ちかけられた取引アイテムが、リベールさんへのプレゼントにいいと思って、しゅてるんさんと取引の約束をしたそうだ。
確かに、あのアイテムは可愛い。しゅてるんさんが狂信的に集める気持ちも少し分かる茜だった。リベールさんが付けたらきっと素敵に違いない。
妄想に浸る茜であった。
話は続きがあり、響也ことグルードは、ゴルキチが髪染めを出せないことも懸念し、しゅてるんと交渉までしたそうだ。内容は、自分ともしリベールがしゅてるんの「堕落した馬王」狩りに手伝うならば、ゴルキチにアイテム譲ってあげてくれないかと。
しゅてるんとしては、響也の提案のほうがよかった模様で、嬉々として引き受けてくれたそうだ。
響也の行動力にビックリする茜なのであった。まさか、兄馬鹿?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます