第20話ランバージャック編 こんちー
「妖魔の森」はボスが出現する森の中では人気が低い。ここは難易度8「森の女王」が出るのだが、森の女王は髪の毛の色を自由に帰れる「髪染め」を出すものの、素材自体の品質がレア7相当のため「髪染め」目的の者しか訪れない状況だった。
ただ、「髪染め」の出現率はなんと1パーセントと廃人達が検証しており、そうそう出るものではない。しかもある程度伐採しないと出現しないこともあり、不人気に拍車をかけていた。
ゴルキチにとって、逆に不人気なことは幸いだった。幾つかのボスが出現する森を巡ってみたものの、「馬王の森」以外ではここが一番人が少なかった。
「馬王の森」へ行くとすぐに例の人と遭遇したのだが......あれは危険だとすぐ感じ早々に立ち去ることにした。
危険というのは、森のモンスターが強いというわけではなく、森の主と言われるプレイヤーのぶっとび過ぎた発言に、引いてしまっただけに過ぎない。森の主の名誉のために言っておくが、決してマナーの無い暴言を吐いたわけでは無い。
ランバージャックこと木こりに転職したゴルキチは、手斧と言われる伐採用の斧を握りしめ、さっそく手当たり次第木を伐採し始める。
斧を持ち木をクリックすると自動的に斧を振るうモーションになり、木を切り始める。木を切り終わると丸太が手に入る。丸太を手に入れる為には通常五回木を切る動作をしなければならないところを、木こりなら何と二回で丸太が手に入る。
ある程度丸太を手に入れると、その木からは丸太が取れなくなってしまう。
そうなれば、次の木を伐採しに行くのだ。
木からはたまに琥珀が取れたり、蜂蜜が取れたりとゴルキチは楽しみながら木を切って行く。
「妖魔の森」では、丸太が1000本エリア内で取得されると、難易度8「森の女王」が登場する。
ようやく、1000本だ!ボスを見に行こう。
ゴルキチは丸太1000本をようやく刈り取ったので「森の女王」に挑むことにする。ゴルキチが1000本集めるまでに他のプレイヤーが丸太を集めた形跡はない。なぜなら、ゴルキチは今丸太を1000本持っているからだ。
「森の女王」はすぐに発見することができた。出来たのだが、誰かが既に挑んでいる。ドラゴンバスターは出現したボスに誰でも挑めるため、こういった横取り行為は可能ではあるが、マナーの良くない行動である。
また伐採すればいいと気持ちを切り替えるゴルキチだったが、一応プレイヤー名をチェックしておく。
ゆうと
獅子王激覇
あー、これは触れてはいけないプレイヤーの類だと、ゴルキチはそっと観戦モードを閉じる。
しかし何だあの名前は!一人ならまだ分かる。それぞれ多数いるからな。ただ、二種類揃ってパーティ組んでるとか、誰かのサブアカウントだろうか。
ゆうとという、平仮名本名の名前は、小学生プレイヤーがよく付ける名前の一つで、子供だけに遠慮もなく、ゲームシステムを理解しようとしない。無茶な要求をする上、自分ではボス討伐できない者が多い。
次に獅子王なんとかは、思春期に特有の右手が疼くプレイヤーで、チャットでも発言がいちいち痛々しい。
俺は何も見てない、何も見てないんだ。と心に言い聞かせるゴルキチは、その場を何事もなかったと言い聞かせながら立ち去った。
再度1000本丸太を取得し、再び「森の女王」の元へ辿り着いたゴルキチが見たものは......
ゆうと
獅子王激覇
ミカサ・アッ
増えてる!何だこれは!ネタか!トリプルリーチか!
ミカサじゃなくて、なんでミカサ・アッなんだ!ここは魔境か!
逆になんか楽しくなって来たぞ。ゴルキチは別の楽しみを見出し、再度伐採に向かうのだった。
次はどう来る?楽しくなって来て、伐採にも力が入るゴルキチに声がかかる。
「こんちー」
金髪ツインテールに、ゴシック衣装。黒いヒールにレースのついた薄紫のニーハイソックスの少女に声をかけられる。やばい人に捕まった。ゴルキチは頭を抱える。
「どうもです。しゅてるんさん」
黒っぽいゴシック衣装の少女こそ、「馬王の森」の主ことしゅてるんであった。ではなぜしゅてるんが、「馬王の森」にこだわっているのかと言うと、本当に本当に下らない理由だった。
「ここはアレ出ないですよ」
念のためしゅてるんに確認するゴルキチであった。
「わかってるよん。ゴルキチちゃん、髪染め持ってたら譲ってほしいのの」
この喋り方は、ゴルキチの精神力を激しく削る。髪染めが出るどころか一度も「森の女王」倒してないよん。
「いや、まだはじめたばかりでして、なかなかボスにも挑めてませんし」
「森ボスは横取りあるから二人か、一人なら二アカウントでやらないとよ」
「確かに横取り来ますねー。まあ余り気にしてませんけど」
むしろ、横取りを楽しんでいたとはさすがに言えない。
「髪染め取れたら、教えて欲しいのの。お礼にとっておきをプレゼントするよん」
「いや、俺男キャラクターなんで、装備できないですよ」
「じゃあじゃあ、リベールたんにプレゼントしたらどうかなな?ゴルキチちゃんこの前、リベールたんの家つくってたじゃない。プレゼントしたらリベールたん大喜びよ」
ゴルキチは思案する。変に情報通だなあ。確かにしゅてるんさんの集めてるアレは「馬王の森」でしか取れない上、出現率が0.05パーセントと狂気の域にある。しかも、色が15種類もある。しゅてるんは全色揃えるまで、森に籠るそうだ。
見た目はともかく超レアものだ。
いや、待てよ。ゴルキチからリベールにアレを渡したので、少し仲良くなったと演出すれば、リベールとゴルキチを同時に出したり、ゴルキチからリベールを呼び出すフリをしたりと便利になるかもしれない。
「分かりました。頑張って取りますよ。取れたら馬王の森に行きますね」
「ほおい。よろしくねん」
さあ、伐採するか!
しかし、「森の女王」を再び出したものの、まだ奴らがいる。
一人減っていたが......
まだ挑戦していないのか、彼らは「森の女王」前にいる。
「たおせないからてつだって」
ゆうとと言うプレイヤーが、ゴルキチにチャットを飛ばす。
「ふ、木こりなんて雑魚が来ても変わらないさ。なあに俺の友人がもうすぐ来る。雑魚はほっておこう」
気取った態度で獅子王とかいうプレイヤーは、ゴルキチが雑魚だと言い切る。
いや、出したの俺なんだけど。この二人演出じゃなくて、本当にお子様プレイヤーなのか?なかなかお目にかかれないぞ。少しゴルキチは感動していた。
黙るゴルキチに満足したのか、獅子王は腕を組むポーズを取りフフフと不敵に笑っている。
「獅子王!あんた横取りしてないでしょうね?」
とそこへ見知った魔女帽子がやって来た。どうも獅子王と魔女帽子は知り合いらしい。
「横取りとは失礼な。森の女王は我らが捕らえたのだ」
「もしかして、森の女王の出し方知らないんじゃないでしょうね。あんたたち斧持ってないけど」
「まってたらでてくるんだよ」
ゆうとが魔女帽子に答える。
「やっぱり!ダメよ横取りは!帰るわよ。獅子王!あとそこのゆうとってのも」
二人を叱りつけ、魔女帽子はこちらを向くと少し驚いた様子でゴルキチに声をかける。
「ゴルキチさんが出してたんだ。ごめんね。この子たちが迷惑かけて」
ぺこりと頭を下げる魔女帽子に、ゴルキチはいやいやと答える。「実は楽しんでました!」とは返せない。ゴルキチは大人なのだ。
「いや、気にしてないからいいよ」
「ごめんね。ゴルキチさん、じゃあ」
二人を引き連れて立ち去る魔女帽子は、ゴルキチさん髪の毛ないのに髪染め使えるのかな、とか考えていた。
※すんごく濃いキャラでましたー BY作者
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