第19話ランバージャック編 弟

 パンサー装備で酷い目にあったから、人が少ないところに潜ろうと思う。もう黙々と僻地で何かしよう。

 竜二が職業一覧を見た結果、興味深い職業を発見する。もちろん非戦闘職だ。その名もランバージャック。日本語にすると木こり。


 ドラゴンバスターの木こりは、ファーマーと同じく非戦闘職といえども戦闘が発生する。森林エリアは幾つかあるのだが、「妖魔の森」「堕落の森」「馬王の森」などで木を一定数以上伐採するとボスが出てくるシステムがある。

 これらは、誰でも挑むことができるが出現させるには木を伐採しなければならない。木を切ることは斧を装備していれば伐採することは一応できるが、木こりに比べると5倍以上の時間がかかる。


 ここで出るボスが少し問題で、「誰でも」挑むことができるため、出現させるために頑張って伐採した人が必ずボスに挑めるわけではない。しかもボスは一度挑むと消えてしまう。

 ボスが出る森の中でも一番面倒(難易度が高いわけではない)と言われる「馬王の森」は、4つのエリアでそれぞれ伐採を行い難易度4ボスを討伐し、「馬王の鍵」を4つ集める必要がある。

 「馬王の鍵」を安置する切り株があるので、そこに鍵を置くとようやく難易度9「堕落した馬王」と戦うことができるのだ。


 もちろん、ここに至るまでに横取り可能である。ただ、「馬王の森」は現在しゅてるんというプレイヤーがほぼ独占しているため、彼女に了解を取らないと「堕落した馬王」に挑むのは難しいのが現状だ。

 「堕落した馬王」は一応レアアイテムを出すものの、たいしたアイテムではないので竜二は全く興味が沸かなかった。


 試しに、「妖精の森」にでも一度行ってみるか。まずはランバージャックに転職だ!

 竜二はゴルキチでログインを行い、転職案内所に向かうのだった。


――魔女帽子こと木下茜

 木下梢の妹である茜は、都内に通う高校生だ。今年受験生にも関わらず彼女は息抜きと称しドラゴンバスターオンラインを楽しんでいる。

 先日姉の会社の後輩にドラゴンバスターオンラインのプレイヤーがいると教えてもらい、元より彼のことを知っていた彼女は姉を羨んだ。


「ゴルキチさんやジャッカルさんみたいなプレイヤーだったらいいのに......」


 はあと長い息を吐きながら、学校へ続く長い一本道を彼女は進む。


 彼女の中でプレイヤーは三種類に分けられる。男の子、男子、男の人だ。

 男の子は、自分の本名をプレイヤー名にするようなお子様のこと。こういったプレイヤーは大概は小学生で、足りないプレイヤースキルに寄生とやりたい放題ではあるが、本人に悪いという自覚はない。はたから見てる分にはおもしろいけど、自分のパーティにいたらたまらない。

 次は高校の知り合いにいるような男子。男子は他の漫画やゲームにいる彼らがクールだと思うキャラクター名や、何やらカッコいいと彼らが思う名前をつける。やたら気取った態度で、一緒にいて疲れる。

 最後に男の人。上記に当てはまらないまともなプレイヤーのことを指す。たまに何かに狂信的なプレイヤーもいるが、そういったプレイヤーは得てしてマナーはとてもいい。

 最近有名な変わった人は、ある森に自分の名前がついてしまったプレイヤーとか。


 始業15分前に教室に入ると隣の席には男の子が既に登校していた。

 短く髪を切った好男子で、目立つことはないけど、落ち着いた雰囲気が好印象な人と茜は分析していた。


 その男の子は、スマートフォンでドラゴンバスターオンラインの公式サイトを閲覧している。


「冴木くん、それやるの?」


 つい、声が出てしまった。


「んー。少しやるよ。それってドラゴンバスターのことだよね?」


 おお!ここにもプレイヤーが。冴木くんが男子プレイヤーじゃなかったらいいなー。少し興味が出て来た茜も生粋のネットゲーマーなのだろう。

 同じゲームをやる者同士で語り合いたいというのは、ほとんどのネットゲーマーに共通する意識だ。

 だから茜は、学校の男子プレイヤーとも少しだけ交流を持ったことがあるものの、男子プレイヤーはお断りだ。


「そうそう。冴木くんはどんなキャラクターなの?」


 少し身を乗り出してしまったことに気がつき、羞恥しつつも佇まいを正す茜に冴木は見て見ぬふりをしつつ、苦笑する。


「ここではちょっと名前は出せないかな。後からラインで送っていいかな?」


「バレたらまずいキャラクターなの?」


 不思議に思い口に出る茜に、再度冴木は苦笑し。


「いや、兄さんにだけは知られたくないんだよ」


「兄さんって?」


 兄がいたのか、冴木くん。どんな人なんだろう?話が繋がらないことにますます不思議になる茜だった。


「兄さんもドラゴンバスターやってるんだよ」


「お兄さんに知られたくないって......」


「いや、話せば長くなるんだけど、俺のプレイヤー名を知られると兄さん落ち込むだろうから」


「いろいろあるのね。後でラインよろしくね!」


 深く考えないことに決めた茜は、冴木との約束を取り付けたのだった。


 その晩、茜は姉の梢と今日のことを話していると、スマートフォンから着信音が鳴る。見てみると冴木君からのメッセージだった。


<俺のキャラクター名はグルードなんだ。ゲーム内外でも言わないようにしてくれないか?>


「ええええええ!!」


 あまりの事実に茜は大声をあげてしまう。茜の声に梢はとっさに耳を塞ぐ。


「ど、どうしたの?」


 まだ耳を塞ぎながら、茜に問いかける梢。


「さっき話したクラスメートの冴木くんなんだけど、プレイヤー名がグルードだって......」


 秘密にしておいてくれと言われてから1分もたたずにバラしてしまう茜だったが、「秘密ね」と茜が念を押すと梢は「茜と違って私はしゃべらないわよ」と答えられてしまった。


<グルードって、あのシールドマスターって言われてる?>


 茜は冴木にメッセージを送り返すと、そうだと返ってくる。やはり、グラディエーターのグルードだ。この前お月見ついでに観戦した、超級の腕前を持つプレイヤー。それが冴木くんだったんだ。


<ビックリ!私のプレイヤー名はイチゴね。魔法使いやってるの>


<イチゴね。了解。兄さんのプレイヤー名はゴルキチだから、本当に本当に注意してくれよ>


 ゴルキチ!ってあの姉さんの後輩のゴルキチさん!確か名前は竜二さんだったっけ?


「姉さん、冴木くんのお兄さんってゴルキチさんなんだって!」


「ほんと世間は狭いわね。ビックリだわ、竜二くんの弟くんがグルードくんだったなんて」


 姉から名前を確認できた茜はさっそく冴木くんにメッセージを送る。


<ゴルキチさんって竜二さんであってる?うちの姉さんの後輩みたいで>


<何だって!世間は狭いな。やっぱずっと秘密にしてて正解だよ>


 冴木くんも驚いているようだ。あたしもビックリしたよ。茜は心底そう思うのだった。


<兄さんさ、ドラゴンバスターでトッププレイヤーになりたかったみたいで。弟が傭兵やってるって知ったら悲しんじゃうだろ。だからさ、秘密は守ってくれよ>


 しつこく念を押してくる冴木に、了解と返答する茜なのだった。


※また一つ地雷が巻かれる。BY作者

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