第18話ベルセルク編 知らぬはリベールだけ

 「暴帝」のボスエリアは特殊な構造になっている。乾燥した荒れた大地が、高い崖に囲まれているのだ。通常のボスエリアにある4つのエリアは無く、体制を立て直す逃げ場はない。


 リベールは静かに常闇の斧を正眼に構え、右にステップを踏む。リベールが前方を見ると「暴帝」が口を開け、閉じるところだった。

 見えないが、リベールの先ほどまでいた位置にいると、「暴帝」の顎に捕らえられ下手すれば一発アウトだ。

 その範囲極悪に尽きる。最大射程は、横幅8メートル程ある「暴帝」の体一つ分。これが見えない噛み付きの攻撃範囲......

 暴帝が口を閉じた後、リベールの体が強く緑に光り、ボンヤリとした湯気が上がり始める。

 これこそが、ベルセルク特有のスキル「バーサーク」!


 「バーサーク」のスキル効果は単純に過ぎる。ただ攻撃力を上げ、防御力を下げる。制限時間は攻撃を喰らうまで。


 「喰らうものか」とリベールは独語する。

 見えない攻撃の最大射程外に常に出れば安全?

 そんなことはしない。してはならない。時間はたった10分しかないのだ。ランダムに変わる射程距離を見極め、髪の毛一本の隙間を抜け、斧を叩き込む。


 これでこそリベール。幾多の試行錯誤の末、全てのパターンを見極めたからこそできる動きだ。

射程距離がランダム?そんなことはない!あるのは膨大なパターンだけだ!

 リベールは駆けると、斧を上段に振りかぶり、暴帝の腹へ一発!抜ける反動で一回転。さらに一発!

 鋭い爪が飛んでくるが、二回目の攻撃で流れた体の上を通過する。

 両手斧は高い攻撃力とリーチを確保するかわりに攻撃後の隙が大きい。しかし、リベールはそれさえも利用する。


 この回避には、観戦者から歓声が上がる。


「リベール!」

「半端ねえ。まさに精密機械」

「リベールたんー!きゃー!」


 変なのが混じってる!現在リベールに面と向かって「リベールたん」と呼ぶのはただ一人。赤髪のテイラーだけだ。

 先輩何やってんだよ!ツッコミを入れたい竜二だったが今は叶わない。



 暴帝の口に赤黒い光が蓄積していく。高難度ボスにありがちなブレスだが、このブレスはプログラムの正常と不具合の境界線を飛び越える攻撃だ。もちろん不具合側に。

 なんと、ブレスの外側全方位に例の見えない攻撃の判定がある......

 見えてようが見えてまいが、攻撃範囲を見極めれば問題はない。

 リベールは暴帝の足元へ駆け、常闇の斧を切り上げるとその場で高くジャンプする!

 リベールの動きに合わせて暴帝は向きを変えるが、口の真下ではブレスが当たりようがない。リベールは悠々と斧を振り下ろし、着地する。

 着地地点は暴帝の足と足の中央だ。


 見えない攻撃を全て回避しきるリベールにさすがの暴帝といえども手が出なかった。


 10分間攻撃を続けリベールの暴帝挑戦時間はそのまま終わるかに見えたが、ちょうど暴帝の体力を削りきり暴帝は倒れるのだった。


 一度に20パーセント削ったリベールに観衆は歓声をあげて迎え入れる。


「リベール殿、噂に違わぬ手腕恐れ入りました」


 近衛騎士チーズポテトが敬服しリベールを迎え入れた。

 リベールは敬礼し、彼に応じるのだった。


「私だけの功績ではありません。皆が一丸となった結果です」


「次は一時間後になりますが、よろしくお願いします」


「もちろんです。チーズポテト殿のハルバートも拝見させてください」


「もちろんですとも。ハルバートの扱いには少しばかり自信がありますゆえ」


「楽しみです」


 リベールは再度敬礼し、チーズポテトはそれに礼で答えたのだった。




 翌日、再び集結した「暴帝」狩り集団。リベールが来てみると、チーズポテトが待ち構えていた。


「チーズポテト殿、どうしました?」


「リベール殿。貴殿の腕を見込んでお願いしたいことがあるんです」


「な、なんでしょうか」


 少しだけ後ずさるリベール。い、嫌な予感がものすごくするんだが......リベールの悪い予感は大概ヒットする。

 チーズポテトは咳払いをするモーションを行った後、プレゼントボックスを手に掲げる。プレゼントボックスは、イベントの景品などで貰えるアイテムが入っていることが多く、プレイヤーの職人でも作成可能なものだ。

 白い四角い箱に赤いリボンがかかっており、中央で綺麗にリボン結びされている。


「実はですね。これを装備していただきたいのですよ」


 チーズポテトはリベールにプレゼントボックスを差し出すと、リベールはプレゼントボックスを早速開封する......


 えええ、これって。絶句するリベールを知ってか知らずか、チーズポテトはさらに言葉を続ける。


「昨日、対暴龍戦でノーダーメージだったのはリベール殿だけなのですよ。それでですね。その装備を付けていただきたいのです」


プレゼントボックスには、ビキニに似たヒョウ柄の上下と、ヒョウ柄の猫耳に尻尾――パンサー女装備が入っていた。よく一日で取れたもんだと感心するも、すぐそうじゃない!そうじゃない!と思い直すリベール。


「パンサー装備なんですが、検証の結果「レイドボス」を誘引する効果があると分かったのですよ。パンプキンブラザーズから暴帝を遠ざけつつ、私たちの思う位置に誘導できる優れた装備なんです。ただ......」


「ただ?」


もうどうにでもなれ!と達観の境地にあるリベールは問い返す。


「パンサー装備は服扱いでして、防御力が低すぎるんですよ。そこでリベール殿なら問題ないと思いまして」


 なるほど!そういうことか!そういうことなら仕方ない!ってダメだ。この装備はダメだ。リベールの中の人である竜二は、パソコンの前で絶叫する。


「申し訳ないんですが、装備していただけますか?」


 困ったようにチーズポテトはリベールに懇願するものの、「これはダメだ、これはダメだ」と心の中で連呼するリベール。


「パンプキンブラザーズに取られるわけにはいかないんですよ。どうか」


 そうだ。チート行為を許すわけにはいかないんだ。仕方ない。最大でも二週間の我慢だ。やるしかないか。

 意を決してリベールはパンサー装備女を装備すると、もちろんぺったんがものすごく目立つ。


「かたじけないリベール殿」


「いえ、目的の為には仕方ないことですにゃん」


にゃん?なんだこれ?


「......」


 チーズポテトの中の人はきっと爆笑して、キーボードが触れないんだろうなーと竜二は遠い目をしていた。

そう、パンサー装備女を装備したキャラクターはチャットの発言の最後に「にゃん」が付いてしまうのだ!


 こうして、「にゃん」「にゃん」言いながら、騎士っぽい口調で喋るリベールは目立ちに目立った。竜二はヤケクソでイベント最後までこなしたが、実は二日目のパンサー装備装備から2時間後に必要なくなっていたのだ。

 パンプキンブラザーズのチート行為に運営が対処し、彼ら全員キャラクターを抹消されていた。

 竜二以外は翌日までに、パンプキンブラザーズ消滅の情報を知っていたが、誰もリベールに伝えなかったので、彼女はイベント最後まで羞恥心に苛まれながら誘引役をこなした......


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[暴帝にゃん]少女騎士リベール その192ぺったん


<スペック>

名前:リベール

性別:女

職業:ベルセルク

特徴:身長低め、茶髪アップに黒目の怜悧な顔、ぺったん

装備:武器 レア度9常闇の斧 レア度2 パンサー装備女 

出没場所:「暴帝」討伐だにゃん!


124.名無しのドラゴン

パンサー装備www


128.名無しの魔法少女

可愛いwwwにゃんwww


131.ぺったんマスター

にゃんwwwあかん悶え死ぬww


134.名無しのジャッカル

まさか、パンサー装備にこんな効果があるなんてw


138.名無しのテイラー

にゃんw


352.名無しのバスター

パンプキンブラザーズがバンされたのに、続行するリベールたんw


354.名無しのジャッカル

誰か知らせてあげろよ


358.名無しのドラゴン

そのままのほうが面白いw

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