第10話 セイラー編 リベール対ぺったん同盟

「山」

「川」

「貧乳」

「ぺったん」


 ガラリと倉庫のドアが開く。薄暗い茅葺き屋根の倉庫には、二十人ほどのプレイヤーが黒いマスクを被って集合している。隠している演出だが、頭の上にプレイヤー名が出ているので全く隠せてはいない......

 彼らはある目的のために集合した愉快な集団だ。明日に控えたイベントの最終確認を行うためここに集合したのだ。


「まず、リベールたんが獲得するであろうポイントの確認だ」


 リベールは、一日六時間のログイン時間を今までほぼ超えたことはない。「大海龍」をソロで討伐した場合のポイントは四ポイントだ。


「傭兵の練習モードでの討伐タイムはどれくらいになる?」


 傭兵とは、ドラゴンバスターオンラインで最高峰のプレイヤースキルを持つ人たちの略称である。時には最高の装備を借り受けてボス狩りすることからそう言う名前が付いている。


「グルードさんが15分20秒。チーズポテトさんが14分52秒。とだいたい15分くらいだな」


「ならリベールたんもそれくらいでクリアしてくるだろう。再度試算しよう」


 リベールは恐らく武器性能は劣るが、草刈鎌での討伐タイムを見る限り傭兵とさほど違いのあるタイムにはならないだろう。一回あたり15分で計算すると、1時間に四匹。6時間では24匹だが、休憩や装備のメンテナンスも入るのでおそらく一日二十匹程度だろう。

 20匹を30日繰り返すと、600匹となり、ポイントはソロなので2400ポイントだ。


「つまり、およそ2400ポイント稼ぐということだな。我々が2400ポイント以上稼げばいいわけだ」


「超廃人達は3000ポイントは超えてくるはずだが、旨みのない今回のイベントに参加する超廃人は多くて30人、少なくて20人程度だろう」


「なら、我々のうち10人が2500ポイント稼げば阻止できるわけだ」


「ブラボー。ブラボー」


 この日のために彼らは、「大海龍」対策を頑張って来た。

 「大海龍」は巨大な銀色の蛇に近いボスモンスターで、背には金色のタテガミ、頭には大きな二本の角を持つ非常に巨大なモンスターだ。そのサイズは20メートル超にもなる。

 「大海龍」は水中戦という手ごわさと大放電が厄介だ。大放電は「大海龍」の広範囲に大ダメージが入る攻撃で、今回は水着のため食らうと盾を構えていなければ即死だ。ただ、大放電前のモーションが大きいので読みやすい。


 全員が盾を持って戦ってもよかったが、そうなると長引いてしまい、パーティメンバーの誰かが死亡してしまってはポイントが減ってしまう。そこでパーティに一人ファーマーを入れることにした。 ファーマーの「かかし」スキルは自分にターゲットが来ていなければ「未発見」状態に「大海龍」を戻すことができる。


 これはかつて、ファーマーの「一揆」の際に使われた手の改造版だ。ファーマーは普段盾を構えたプレイヤーの後ろから、レンジの長いクワで攻撃し、大放電のモーションを見れば「かかし」のスキル使用準備を行い大放電直前でスキルを使用し、大放電をキャンセルする。

 こうすることで、大放電時に逃げずに、尚且つ大放電モーション中は無防備のため、モーション中と「初期状態」後の硬直全てで攻撃できるチャンスとなる。


 この作戦はファーマーを入れることによる全体攻撃力の減少以上にダメージが稼げることが分かり、尚且つ安定して「大海龍」を倒せるようになったのだ。

 幸いだったのは、運営側の調整だった。水着という防御力が無いに等しい装備を考慮し、難易度9ボスとは言え、大放電、角による突進、尻尾の薙ぎ払い以外の攻撃は食らってもそれほどダメージを受けない。

 また、この三つの攻撃は喰らえば即死なものの、事前モーションが非常に大きいので慣れたプレイヤーなら容易に回避できる。


「我々の討伐タイムはおよそ6分少々か。2500匹倒すには15000分となる」


「250時間か...一日8時間超!」


「週末はもっと頑張るとして何とかなりそうだな。時間がないメンバーはパーティが揃わないポイントを稼ぐメンバーを助けてやってくれ」


「了解した」


「では、解散。明日から頑張るぞ!ぺったんのために」


「イエス!ぺったんマスター!」


 こうして愉快な者たちの会議は終了した。


 竜二の預かり知らぬところで、ぺったん信奉者たちの暗躍は準備を終えていたのだった。


 一方の竜二はというと、イベント開始二日前にようやくリベールのマクロの作成を終え、準備万端になっていた。イベント前日には万が一にも関係性を疑われないために、リベールとゴルキチを別のスループ船に乗せログアウトした。


 そしていよいよイベントがはじまるのだった。


 イベント初日は、多くの誤算から始まる。


タル

タル

バケツ

絵画の切れ端


 釣れねえ!なんだこれは!「法螺貝」がなかなか釣れない!マクロで痛い目に会う前の竜二であれば、キャラクターをフル動員してマクロで釣っただろうが今はリベールのボスマクロ以外は使っていない。

 釣り程度ならゴルキチとリベール同時操作でも問題はないので、リベールが狩りに行っている間に次の「法螺貝」をゴルキチで取れる程度に思っていたのだが......


 余りに釣れないので、一旦リベールをジルコニアの港へ戻すと、彼女を待っている三人の人物に出会う。


「リベール殿、ご協力しましょう」

「リベールたん、釣り一緒にやろー」

「リベールさん、手伝うよ!」


 ジャッカル、赤毛の女子、魔女帽子が協力を申し出てくれたのだった。このメンバーにしれっとゴルキチも紛れ込ませ5人で釣りをひたすら行うことになったのだった。

 こうして集めた「法螺貝」を全てリベールに渡し、「大海龍」狩りが始まる。


 時を同じくして、ぺったん同好会も釣りに苦戦していたが、彼らは数が多いためすぐ「法螺貝」が取得できる。といっても彼らも厳しいことには変わりない。いくら人数が多いといってもリベールの四倍の「大海龍」を討伐しなければならないのだ。

 できる限りのメンバーを動員して、釣りと「大海龍」狩りに精を出すのだった。

 もちろん、並み居る廃人達も多数のアカウントを使い「法螺貝」を釣りながら、高い金額で他のプレイヤーから「法螺貝」を買い取っていく。


 イベントは当初から泥仕合の様相を見せ始めていた。


 「法螺貝」に多少手間取ったものの、協力者のお陰でようやく「大海龍」へ挑戦できたリベールは、「大海龍」の棲息する大渦を訪れていた。

 大渦は、大海原の目印も何もない海の只中にある。ただ太陽の光と波の音が周囲にあるのみだが、大型船のサイズ以上の大渦が濁流独特の不気味な轟音を立てている。

 イベント初日ということもあり、多くのプレイヤーの船が大渦を取り囲み、普段何もないこの空間も俄かに賑わいを見せている。

 プレイヤーの中にはゲーム内で有名な廃人、傭兵プレイヤーも幾人か含まれている。


 リベールの船が到着すると、彼女を見ようと沢山の人が歓声をあげる。

 リベールはギリギリまで水着を着るのを戸惑っていたものの、此処まで来たなら開き直るしかない。運営の高笑いする姿を恨みながらも、「法螺貝」を取り出し、アイテムを使用する。

 リベールは「法螺貝」を口に咥え、思いっきり息を吸い込んだリベールが息を吐き出すとブォォンと重低音が響き、ボスエリアへと移動する。


 「大海龍」は白銀の巨大な蛇のようなモンスターで、背中に黄金のタテガミと頭に二本の大きな螺旋状の角を持つ。

 そのサイズは圧巻で、20メートルを超える巨大な蛇だ。

 リベールは、レア度8紅蓮のトライデントを静かに構え、「大海龍」を待ち構えた。


 紅蓮のトライデントは、セイラーが装備できる装備の一つで、長柄の槍状の武器ではあるが、先端部分が三俣に分かれ、それぞれは鋭い刃になっている。槍と違い斬り払うことは出来ず、突き専用の武器だ。また、名前が示す通り炎属性を帯びており、突き刺した傷口を焼くことが出来る。


 「大海龍」がまず取った行動は、大きく息を吸い込むことだった。大量の海水が引き込まれていく。

 リベールは吸い込む水流の流れに乗り、一気に距離をつめる。


 いよいよ、「大海龍」の水流の渦が吐き出される!


 リベールは、軽くトライデントを海龍の鼻先に突き刺し、その勢いで大きく前方へ一回転すると、海龍の角と角の間に潜り込む。口から吐き出される水流は幾ら角度を変えても自身の角へは到達しない。

 吐き出すと止まらない海龍の水流を眼下に、リベールは何度も何度もトライデントを繰り出す。

 残念なことに、どれだけ無防備であってもトライデントでは海龍の角を傷付けることは出来ないため、リベールは頭蓋をひたすら突くのだった。


 海龍はようやく、水流を吐き終わると小賢しい小さな敵に怒り心頭だった。

 ならば、これを食らうがいい!

 海龍の角が光り、バチバチと帯電して行く。


 大放電だ!


 海龍を中心とした全方位攻撃が大放電だ。威力も凄まじく喰らうと即死のため、モーションを見るとすぐ海龍から離れないと射程外に逃げることは叶わない。


 だが、リベールは逃走しない。

 全方位攻撃?そんなものはない。

 全方位攻撃を持つボスモンスターは他にもいるが、必ず隙間がある。

 「大海龍」の場合は此処だ!


 リベールは海龍の後頭部から生え始める黄金のタテガミに向かう。

 頭からタテガミに入り、2歩。


 大放電が来る!


 大放電到達後、0.3秒後半歩右、0.5秒後半歩左。

 そして、大放電はリベールをすり抜ける。


 「大海龍」の二つの攻撃を封殺したリベールにとって、もはや「大海龍」は取るに足らない相手であった。


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[王命ではない]少女騎士リベール その158ぺったん


<スペック>

名前:リベール

性別:女

職業:セイラー

特徴:身長低め、茶髪アップに黒目の怜悧な顔、ぺったん

装備:武器 レア度8紅蓮のトライデント レア度2 縞パン水着

出没場所:「大海龍」に来ると思われる


4.名無しのドラゴン

ここまで「法螺貝」が出ないとは、しかしリベールたんも出てないはずだ!


6.ぺったんマスター

やれる俺たちはやれる。


184.名無しのジャッカル

中間発表来たぞ!


185.名無しのドラゴン

リベールたんが28位、阻止組がすぐ下に付けてる。いい試合っぷりじゃないか。


186.ぺったんマスター

追い抜くのだ!追い抜くのだ!


188.名無しのジャッカル

しかし、ポイント発表が中間発表の一度だけだから、リベールたんとの差が分からないな。


189.ぺったんマスター

大丈夫だ、リベールたんが何ポイントか計測している。


381.名無しのドラゴン

いよいよ、今日で終わりだが......やられた!


388.名無しのジャッカル

リベールたん、法螺貝貯めてたーーー!!抜かれるぞ。


389.ぺったんマスター

む、無念......

**************************************************************


 結果発表。

 リベール52位、ぺったん同盟は53位から62位だった......

 中間発表の結果を見て、「法螺貝」を買い集めた連中の手によってあっさりと抜かれていたのだった。


※ですよねー。BY作者

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