第11話 プレゼント編 あるプレイヤーのお話

 ダメだった......竜二はため息をつく。「法螺貝」が予定外過ぎたぞ。五人で釣りをしていたのに「法螺貝」の供給が間に合わなかった。ランキングの確認は中間発表の一度きりのため、後半に向けて「法螺貝」を溜め込んでいたプレイヤーの数も多かったのも敗因だろう。


 スマートフォンのソーシャルゲームでは、週間イベントなどでランキング上位者にアイテムプレゼントということが常々行われているが、あれも終了日前から一気にポイントが伸びてくる。リベールの特性上一日六時間と決めているのと、イベント終盤だからといって時間が取れない社会人の辛さも敗因か。


 今回結局「スタイル変更チケット」を手に入れることはできながったが、リベールへの忌避感が少し減ったのは幸いだった。釣りを手伝ってくれたジャッカル他の人たちとゴルキチ・リベールとの共有は一つのことへ向かって皆で走る一体感を感じさせてくれ一時リベールでログインすることが自然な動作でできるようになっていた時もあったほどだ。

 さすがに、常日ごろからリベールでログインし、挨拶したりパーティプレイしたりは心が持たないが。


 とにかく、竜二は今回のイベントでドラゴンバスターオンラインをより楽しめる精神状態になったことは確かだ。今後少しくらいならジルコニアの街に出るくらいはできるかもしれない。

 イベント以来彼ら三人には会っていないが、一度改めてお礼を言わないとなあ、と竜二は思案する。別の話ではあるが、ゴルキチはリベールの協力者立場であったので、イベント終了時他の皆と一緒にリベールから礼はされている。

 自分で自分にお礼とか......


 ドラゴンバスターオンラインには、フレンドシステムという便利なシステムが実装されている。これは、気に入った相手同士がお互いにフレンド登録しておくことでメッセージを送れる機能である。 メッセージ機能またはメール機能と言われる機能を使い、メッセージを送ることで送られた側はいつでもそのメッセージを確認することができる。


 今回のイベントをきっかけに、ゴルキチは彼ら三人とフレンド登録をしているので、会おうと思えばいつでも会うことができる。

 例えば、メッセージをジャッカルに送信し、ジャッカルがメッセージを確認した際に返信をゴルキチに送る。受け取ったゴルキチはすぐにテル機能でジャッカルとチャットをすれば会話することができるといった具合だ。

 また、フレンド登録した相手同士は、今ログインしているかオフラインなのかを確認することができる。


 リベールもフレンド登録を三人から頼まれはしたものの、国の事情があるため王に確認すると言って誤魔化していた。イベント後もリベールとして会話するには竜二にとってハードルが高すぎたから......


 彼ら三人にはお礼がしたいが、何があるだろう。リベールはマクロ狩りしかできないキャラクターだ。ならばボス狩りでレアアイテムをプレゼントしてはどうだろう。

 以前取った「黄金獅子」などの素材はまだまだ在庫が大量にあるものの、在庫から出すのはなんとなく気が引ける。


 何かいいものはないかと、ドラゴンバスター攻略WIKIを眺める竜二だったが結局難易度10「天空王」を数匹狩ってこれをお礼にすることにした。「天空王」はトラウマが激しいが一応最高難度のボスモンスターであり、素材はそれなりに希少だ。

 以前倒した時と、今とでは職業が導入されていてこのままマクロが使えないため微調整が必要だがすぐに完成するだろう。


 ドラゴンバスターオンラインの戦闘職は使える武器か特徴的なスキルのどちらかが売りとなっている。例えば、ソードマンは剣全般を扱うことができる職業だ。リベールは死化粧の槍を使用するつもりだったので、刺突武器が扱えるフェンサーを選ぶことにした。

 特徴的なスキルを持つ職業――グラディエーターやベルセルクも魅力的ではあったが、マクロの調整に時間がかかりそうなので今回はパスだ。今回はというか、積極的にボス狩りをするつもりは無いので、フェンサーも「天空王」狩りの間だけのつもりだ。


 

――ある女性プレイヤー

 彼女はある零細企業に勤めるウェブデザイナーだ。元々デザインに関わる仕事がしたく就職活動をしていたが、芳しい結果が得られず拾ってくれたのが現在勤める零細企業のウェブデザイナーだった。

 ウェブのことは入社当初全くわからなかったが、親切な先輩方とそれなりの長時間労働のおかげで今ではウェブデザインを一人で任されるまでになった。

 スポーツジムに週二回通うくらいで、特にこれといった趣味はなかった彼女に、高校生三年生の妹があるゲームを進めてくれたことが転機となる。


 受験生でネットゲームに興じている妹を心配し、妹の部屋へ行ったのがきっかけだったがパソコンのディスプレイに映る美麗で雄大な大自然に引き込まれた。画面に引き込まれてしまった彼女は妹に小言を言いに来たことも忘れ、じっと妹の隣で彼女が操作するキャラクターを見てみると、大きな犬型のモンスタ―に妹の魔法?の炎が走り、滑らかな動きで犬のモンスターが回避する。

 これがゲームの動きなの?というのが彼女の最初の感想だった。

 妹は彼女が見ているのに気が付くとすぐにゲームをやめ、姉をニヤニヤ見ている。


「姉さん、ゲームなんかって言ってなかったっけー?」


「う、」


 口ごもる姉に妹はニヤニヤを崩さず、マウスを操作しある動画を画面に映す。


 白銀のプレートメイルに、鮮やかな藍色のスカート。それを覆うようなスカイブルーのプレートに身を包んだ騎士風の少女は、身の丈に見合わない禍々しい真紅の槍を背に抱え、歩を進めている。

 周辺を多くのプレイヤーが囲み、少女騎士の動きを固唾を飲んで見守っている。

 少女は祭壇のような場所まで歩を進めるとその姿を消す。


 画面が切り替わり、巨大な金色に輝く大きな翼を持った龍が少女を威嚇し、雄大な空へと飛び上がる。少女は怜悧な顔をそのままに、真紅の槍を構え静かに静かに佇む。彼女から感じる空気は平時と変わらぬ、一滴の水の波紋さえない静寂だった。

 強力な威力を持つであろう金色龍の攻撃を全て間一髪で交わし、的確に槍を突いていく。

 その姿は水の流れのよう。金色龍の動きは苛烈ではあるが、彼女の周囲のみ静寂が支配していた。


――美しい


 彼女の動きに姉はただそう感じた。流麗で静寂。


 最後に真紅の槍から赤い光が発され少女を包み込む。まるで槍が彼女の血を吸っているかのようだ。赤く舞い散るエフェクトを全身から発しながら、金色龍に最後の攻撃を敢行する少女。

 龍が倒れ、赤い光が舞う。槍を掲げた彼女の姿は消失する。


 圧巻だった。龍の苛烈な動き、少女の流麗な動きのどちらも姉を魅了した。


「どう?」


 妹の声。


「美しい。彼女もゲームのプレイヤーさんなの?」


「そうだよ。あたし彼女のファンなの」


 尻尾があったらきっとフリフリしているだろう態度で妹が答える。姉は妹が少女騎士のファンになるのも分かる気がした。


「やってみたいけど、ゲームが苦手だし、こんな操作できないわよ」


「姉さん、大丈夫。このゲームはね。狩り以外でもたくさん楽しめるの」


 妹に公式サイトなるものを紹介された姉は、自室に戻るとさっそくスマートフォンからゲームの公式サイトを閲覧する。ゲームの名前はドラゴンバスターオンライン。狩り以外に力を入れているゲームらしく、様々な職業の紹介がされていた。

 姉が特に興味を持ったのは、自由自在にカスタマイズできるフリー建築。好きなデザインで服が作成できるテイラーという職業だった。


 もう迷いはない。週末パソコンを一台購入し、彼女はドラゴンバスターオンラインの住人となっていた。


 それからというもの、ジム通いは続けてはいるが帰宅してからの楽しみができた。自分の好きな服のデザインをすることは本当に楽しい。妹ともゲーム内で様々な冒険に出ることだってできる。もっとも姉は狩りはほとんどしなかったが。

 今年の夏は「大海龍」討伐イベントという大型イベントがあり、なんと討伐には水着が必須だった。水着はテイラーが作成し、調整を行うそうだ。これにはテイラーは歓喜した。自分のデザインをアピールし着てもらえるのだ。姉もこの期待を逃してはならぬとデザインした水着をバザーに並べる。


 そこへ妹が、とんでもない人物を連れて来た!

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