第9話 セイラー編 水着
あっという間に月日は流れ、ついにイベント準備期間初日を迎える。
「法螺貝」の釣り上げはゴルキチに行わせ、「法螺貝」を全てリベールに使わせる。水中戦闘とのことなので、とりあえずリベールの職業はセイラーのままで試してみよう。
ドラゴンバスターオンラインは、本イベントの水着のように男女で分かれているものについては、自分の性別の装備しか持つことが出来ない。
さらに面倒なことに、イベントを盛り上げるためか水着はテイラー(縫製屋)さんにサイズ調整してもらう必要があるのだ。
リベールをイベントに参加させるためには、水着を買いに行かないといけない。
かなりメンタルが削られる予感が、というか確信があるが行くしかない。
非常に非常に気が進まない竜二ではあったが、リベールでログインしジルコニアの街に向かうことにした。
港街ジルコニアは、1600年ごろのリスボンをイメージしたレンガ造りが美しい景観を持つ、ドラゴンバスターオンライン最大の都市だ。特に中央広場には多くのプレイヤーによるバザーが立ち並ぶ。
ジルコニア広場に、薄いブルーのセーラー帽にセーラー服の少女が恐る恐るといった感じで訪れた。彼女の黒い切れ長の瞳は不安を如実に示している。
広場には水着姿のテイラーだろう男女のプレイヤーが、多くのバザーを開催している。テイラーからすると、降ってわいた服販売イベントなのだ。水着だけど。水着をテイラー生産品としたのは、運営の生産職に対する配慮だろう。
そんなわけで、テイラーたちはこぞって水着販売に力を入れている。ドラゴンバスターオンラインでは、服のデザインを細かく設定でき、そういったデザインが好きなものが多く生産職で遊んでいた。
そのため立ち並ぶバザーには、生産者ごとに個性的なデザインの水着が所狭しとと並んでいるのだった。
最も人が密集しているのは、広場中央の噴水付近で、バザーと買い物客で大変な賑わいとなっていた。
セーラー服の少女は広場を一瞥し、一歩踏み出すが思いとどまり、再び広場全体を見渡す。
なるべく人が少ないところを......
「リベールねえさ......リベールさんじゃないですか!」
トラ柄のビキニに先細りした長い三角形の魔女風帽子を被った少女がセーラー服の少女――リベールに声をかける。
リベール自身はこのトラ柄魔法少女に覚えはないが、実は数度自宅前で話をしている。
「水着買いに来たんですか?知り合いがやってるバザーあるんですよ!よければどうですか?」
「こういうことは詳しくなくてね。お言葉に甘えさせて貰えるかい?」
魔女帽子の少女に案内されたバザーは、立てかけられた木製の板に色とりどりの女性用水着が並べられている。
中央の背もたれのない椅子には、水着姿の鮮やかな赤い髪が特徴的な女子が腰かけている。しかし、この女子、派手である。目元には星型のメイク。耳にはピアスやらが多数。爪は黒く塗られていた。
赤い髪の女子と魔女帽子の少女は、
「お客さんになんとリベールお姉様が!」
「えええ、セーラー服も超グッドよ」
と言葉を交わし合った後、リベールを手招きした。
若干引き気味なリベールに気づきもせず、赤い髪の女子は頭をぺこりと下げて挨拶する。
「リベールたん!まさか会えるなんて!どんな水着がよいの?よいの?」
興奮して言葉が繰り返しになっている赤毛の女子にタジタジのリベール。
「あ、ああ。私はそういうのは余り詳しくなくてね。出来れば、派手ではないものを選んでくれないか?」
じゃあこれで、と差し出されたものは、白と赤のストライプのパンツに肩紐がない白のブラだった。これならまだ目立たないかとリベールはサイズ調整をお願いすると、赤毛の女子の手元が光り、リベールの水着のサイズ調整は一瞬で完了する。
水着を手に持ったリベールに、期待の目を寄せる二人に、いたたまれなくなったリベールは装備を水着に変更する。
「きゃー」
二人の声が重なった。リベールはその場で一回転し、首を傾けるモーションを行う。
「あ、あのだな、その、あ」
はっきりと言えず口ごもってしまうリベールに、魔女帽子が察した顔で問いかける。
「ひょっとして、サイズを気にしてる?」
「あ、あの、......うん。もう少し何とかならないだろうか」
これでは、ぺったんが目立ち過ぎる。何とかできないのか!と竜二は心の中で絶叫する。
「リベールさんの中の人は狙って言ってるのか......」
「いや、そうだとしてもこれは悶えるわ!」
恥ずかしさを演技したわけではないが、女二人は勘違いして何やら悶えている。
「ごめんね。リベールたん、システム的にどうにもならないの」
「そ、そうか。へ、変なことを聞いてすまない」
「リベールさん、大海竜討伐の王命が出てるの?」
いつの間にか敬語口調がなくなった魔女帽子。
「い、いや、大海龍は確かに討伐するつもりだが、王命ではない。個人的なことだが、すまない理由は教えられない」
竜二は上手く隠したつもりではあったが女子二人はすぐに察し、また悶え出した。
これ以上ここにいてはマズイと、リベールはセーラー服に装備を戻しそそくさとバザーを後にした。
その頃掲示板では......
**************************************************************
[王命ではない]少女騎士リベール その154ぺったん
<スペック>
名前:リベール
性別:女
職業:セイラー
特徴:身長低め、茶髪アップに黒目の怜悧な顔、ぺったん
装備:武器不明 レア度2 セーラー帽子、セーラー服
出没場所:「大海龍」に来ると思われる
3.名無しの魔法少女
リベールお姉様、もう可愛いったらなんの。
4.名無しのバスター
詳しく!
5.ぺったんマスター
詳しく!
8.名無しの魔法少女
今日、水着を買いに行っていたの。ずっと恥ずかしそうにしていて(想像)、フレンドのテイラーがビキニ選んだのね。
9.名無しのドラゴン
ほうほう。それで。
10.ぺったんマスター
水着のデザインを詳しく!
11.名無しの魔法少女
>>10
水着は、白と赤のストライプのパンツに、上は肩紐がないタイプのブラ。
で、水着着た後にさ、モジモジしてるの!きゃーー
13.名無しのジャッカル
ほう
15.ぺったんマスター
ストライプは横か?縦か?
16.名無しのバスター
それでそれで?
17.名無しの魔法少女
>>10 横縞パン
水着装備したら、「あの、その」とか言ってるの。胸気にしてた!
18.ぺったんマスター
それは悶える!分かってやってたとしても悶えてしまう!
19.名無しのバスター
貧乳を恥ずかしがる少女か。中の人www
25.名無しのテイラー
胸のサイズは偽れないのが分かったら、シュンとしてたwww
あと、大海龍は王命じゃなく討伐するけど、個人的なことで秘密だってさwww
30.ぺったんマスター
やばい!萌える!悶える!この気持ちを何とかしてくれ!!
32.名無しのバスター
バレバレの秘密www
35.名無しのジャッカル
秘密www
38.ぺったんマスター
これは何としても、リベールたんのために「スタイル変更チケット」の入手を阻止しなければ。協力者求む
39.名無しのバスター
>>38
必死すぎwwでも面白そうだから協力する
**************************************************************
暗雲立ち込める、「スタイル変更チケット」を果たしてリベールは手に入れることができるのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます