第8話 セイラー編 イベント告知

 運営に黒い気持ちを抱き、そのままの勢いでリベールを突撃させた竜二は革ジャンの暴落という目的は達成したものの、黒い気持ちが晴れた途端、やってしまったことを思い出し頭を抱えた。


 何故だ。あの時の俺は何故あんなことを!

 今更悔やんでも仕方なかったが、やってしまったものは仕方ない。ファーマーの皆さんともリベールでそれなりに交流してしまったので、噂はいつも聞くだろう。

 せっかくのスローライフが台無しになってしまった...


 スローライフで分かったが、運営に腹が立ったとは言えドラゴンバスターオンラインの新しい魅力を知ったのは確かだ。狩り以外でも十分以上に楽しめるのは、新鮮な驚きではあった。

 以前のように、完全引退しようと言う気持ちは今はない。無いのだが、竜二の今のメンタルではこの先楽しむことは出来ないだろう。


 少なくとも、リベールの噂を聞いたくらいでは何とも思わないくらいのメンタルを持たねば......


 竜二は名残惜しかったものの、一旦ファーマーから別の職業に転職することに決めたのだった。


 彼が次に選んだ職業はセイラーだった。セイラーとは、自分の船を持つ海の男だ。「操船」スキルや「釣り」スキルを持つ。

 海を航海していることも多いので自宅にいる時以外は、誰にも出会わないことも多いが、海にもボスモンスターがいるので、その周辺海域はプレイヤーがそこそこ居ることもある。


 懐かしのジルコニアの街にゴルキチは来ていた。レンガが敷き詰めた波止場には、木製の桟橋が架かっている。桟橋は多くの船が停泊出来るようジルコニアにある広場並の広さがある。

 ゴルキチはスループと呼ばれる小型の二本マストの帆船を購入し、この船で航海することにした。


 船のカスタマイズは多岐に渡り、目立つものでは帆のカスタマイズがあり、ドクロマークを入れたり、色を付けたりすることができたりする。他には、船室に家具を置いたり、船員NPCを雇ったりなどなど。

 船員はカスタマイズ要素とはいえ雇うのは必須になる。竜二の帆船である小型の帆船スループと言えども、船員を最低二人は雇わなければ船は動かない。

 思った以上にカスタマイズ性が高く、竜二は嬉しい驚きを感じた。


 とにかく出航だ!


 「俺は海を渡る渡り鳥さ」


 なんて言ってみたいな。と心で言葉を紡ぎゴルキチを乗せた船は大海原へ繰り出すのだった。


 港から十分離れたところで、竜二はもう一人のキャラクターを船室から出す。

 茶髪の長い髪を後ろでアップにした髪型に、怜悧な顔つきの少女は薄いブルーのセーラー服、頭にはセーラー帽を被っている。

 その少女の名前はリベール。竜二の持つキャラクターの一人だ。


 竜二はリベールへの鬱屈した気持ちを少しでも解消しようと、誰もプレイヤーがいない航海中はゴルキチで見える位置に置いておこうと長い長い思案の後に決めた。

 後ろから、ブルーのセーラー服の少女を見ている分には平気だ。こうして少しづつ拒否感を慣らして行こうと思う。最もボス狩りをさせるつもりは毛頭無いが。


 屈強な浅黒い肌を持つスキンヘッドのゴルキチをどのような服にするか暫く悩んだ竜二は、胸の大きく開いた白いシャツに、中央で少し膨らんだカーキ色の幅広ズボン、腰には大きめのカーキ色の帯を巻き、帯にはカットラスを装備している姿を選んだ。

 平たく言うと、下っ端より少し偉いくらいの海賊風スタイルだ。頭にバンダナを巻くか悩んだが、せっかくのスキンヘッドなので頭は出すことにしたのだ。


 釣りでもして、ゆっくりと掛かるのを待つかと釣り糸を垂らしたところ、10秒も経たないうちにヒットし、釣り上げてみると古ぼけたタルが釣りあがった...


 タルか...まあ、こういうこともあるよな。次だ、次。


バケツ

絵画の切れ端

またタル...


 何だこれはー!

 魚が一匹も釣れない!何てことだ。

 もう一度だ!やけくそになり、さらに釣竿を投げる。


"クラーケンを釣り上げました。ボスエリアに移動します"


 システムメッセージが出ると、ゴルキチはボスエリアにワープする。

 船上でボスエリアに突入した場合、船上か水中で戦うことが出来る。セイラーは戦闘職と非戦闘職の中間くらいの位置付けではあるが、こと水中となると他の戦闘職より優秀なくらい水中戦が得意な職業だ。

 セイラーの水中戦では二つの有用スキルがある。「高速水泳」は水中速度が通常の1.3倍に「息継不要」は文字通り息継が必要無くなる。


 せっかくだから、水中戦を行ってみるか。クラーケンの難易度は3だ。防具は服のみで裸と同じだけど。

 クラーケンは巨大なイカで、色も形もダイオウイカにソックリだ。足の攻撃を喰らうと吸盤に張り付かれ、剥がすのが厄介だ。他には、泳ぐために噴射する水流も巨大のため引っかかると吹き飛ばされた上にダメージをもらう。


 ゴルキチは船上より、海へ飛び込みクラーケンに接近していく。地上と変わらない速度で繰り出して来る足を急潜水することで交わしさらにクラーケンに接近しいくゴルキチ。ようやくクラーケンまでたどり着いたその時に、突然視界が真っ暗に!

 クラーケンの墨だと気が付くも、ジェット水流で吹き飛ばされてしまうゴルキチ。

 水中戦はなかなか手ごわいな。慣れるまで大変だぞ。久々の狩りに心が沸き立つゴルキチであった。


 なんとか倒せたものの、難易度3の割りに強かった。自身の水中戦プレイヤースキルが低いのが原因だろうけど。

 これはなかなか楽しい航海になりそうだとほくそ笑み、この日はログアウトした竜二なのであった。


 翌日、公式サイトでイベントの案内が出ていたため、どんな内容かと竜二がチェックしてみると参加しなければ...それもリベールで!と強迫観念に取られるイベント内容だったのだ。


"夏の公式イベント!準備期間は明日より二週間。その後一ヶ月に渡りイベントが開催されます"


 詳しくはこうだ。

 イベントは準備帰還として最初の二週間で、「縫製」スキルで水着を作成できるように、水着のレシピを街のNPCが販売を開始します。イベントが開始しますと、「釣り」スキルで「法螺貝」を釣り上げてください。あるエリアで「法螺貝」を使用すると、「大海龍」が出現するぞ!

 「大海龍」を倒すと、イベントポイントが最大で4ポイント入ります。パーティで「大海龍」を討伐した場合には人数分でポイントが分割されます。端数はカウントされませんのでご注意ください。その他にもイベント期間中に海のボスモンスターを倒すとまれに「ビーチ家具引換チケット」が手に入ります。

 皆様どうぞ、夏のイベントをお楽しみください。


※「大海龍」、「ビーチ家具チケット」につきまして

水着での戦闘が必須となります。「大海龍」以外のボスモンスターは水着以外でも挑戦できますが、「ビーチ家具チケット」はドロップしません。


※賞品につきまして

イベントポイント上位三十名様には「スタイル変更チケット」をプレゼントいたします。「スタイル変更チケット」は身長と顔を除くキャラクターの容姿を変更できます。

「スタイル変更チケット」は取得したキャラクターでのみ使用することができます。


 重要なのはここだ。

「スタイル変更チケット」は身長と顔を除くキャラクターの容姿を変更できます。


 つまり、ぺったんで目立ってしまったリベールのスタイルを変更することが出来るんだ!おぞましい某専用スレッドにもぺったんぺったん書いているので、リベールが目立つ原因の大きな要素はこれだろう。

 難点は高額の販売をさせない対策だと思うが、取得したキャラクターでしか使用することができないということだ。

 なので、リベールで参加する必要がある......心が持つだろうか俺。

 幸いにも準備期間が開始すれば「大海龍」は練習モードで戦えるらしいからマクロは作れる。


 背に腹は変えられない、もし途中で心が折れたら諦めよう...ハア。


嫌な予感しかしねえ BY作者

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