第4話 過去編 一人歩きするマクロ

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[王命により]少女騎士リベールたん その15ぺったん


<スペック>

名前:リベール

性別:女

特徴:身長低め、茶髪アップに黒目の怜悧な顔、ぺったん

装備:レア度6 ドラゴンクロー レア度4 白銀プレート 藍色スカート

出没場所:死霊騎士のみ毎日六時間くらい延々と狩っている。



15.名無しのドラゴン

今日も安定の「死霊騎士」討伐だったな。なんのかんので、リベールたんのプレイヤースキル高いよな


18.名無しのバスター

ネタで「死霊騎士」に張り付きとか笑えない...キャラクター情報によると、レア度7の装備だろ。恐ろしいわ。


22.名無しのドラゴン

淡々と狩り続け、俺らが数えた限り200はやってるな。王命はそろそろ終わるか?


23.名無しのバスター

次の王命とはいかに?


24.ぺったんマスター

お前らのせいで、リベールさんが鎧着ちゃったじゃないか


30.愛好家

>>24

おかげで観察できないよな。

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 なんてスレッドが裏で盛り上がっていることも知らずに竜二は、ゴルキチで難易度10ボスをやるために次のマクロに取り掛かる。

 次は難易度10ボスだが、同じやつを狩るとマズイのか。ならば「黄金獅子」と「覇王龍」をやるか。この二体ならソロクリア者もいるし大丈夫だろ。

 難易度10ボスは同じ難易度でも強さは様々で、最強と言われ、未だソロクリア者を出さない「天空王」から、比較的楽だとされる「黄金獅子」や「不死王」まで様々だった。


 マクロを作り始めたものの、さすが難易度10ボスは次元が違う。竜二がレア度9装備での討伐を諦めたその強さは伊達ではなく、マクロ制作は困難を極める。

 その間にも、リベールで「死霊騎士」を倒したり、ゴルキチで難易度10「黄金獅子」に挑戦したりしていた。

 ここで、ゴルキチが「黄金獅子」を倒せていれば竜二の悲劇は起こらなかったかもしれない。


 ダメだ。あれこれ武器を変えても進まない。マクロ制作を投げそうになる竜二だったが、「天空王」を夢見て日夜マクロ制作に励んだ。

 一ヶ月半たつ頃、ようやく「黄金獅子」「覇王龍」のマクロが完成した。

 装備はレア度9 死化粧の槍に、防具は前回と見た目は同じだが、レア度を8に上げた。


 さて、実演だ!見ていろ。


 様々なプレイヤーが苦心し、一部超絶なプレイヤースキルを持つものだけが狩れる「覇王龍」と「黄金獅子」。レア度9武器ならさらにクリアできる人数は限られる。


 竜二はリベールでログインする。いつも自宅にログインするのだが、決まった時間にログインするので、稀にリベールに会いに来る人がいる。


 今日は杖を持ったミニスカートを履いた魔法使いの少女が待っていた。


「こんにちは?今日も王命ですか?」


 リベールのロールプレイは広がっているらしく、これくらいではもはや驚かない竜二だった。


「ああ。今日は新たな王命がくだった。必ずや果たしてみせる!」


 恥ずかしくなったので、魔法使いの少女を置き去りにさて、そそくさと「覇王龍」へと向かうリベール。


 「覇王龍」の住処は、火山の奥地だ。山麓の麓から既に溶岩の赤色と熱で揺らぐ空気がリベールを歓迎する。

 リベールは時折話しかけてくる騎士風のプレイヤーに挨拶を返しつつ、火山を進む。


 「覇王龍」は巨大な火龍で地上での身のこなしは左程鋭くはない。真価を発揮するのは空中で、飛び上がりプレイヤーの裏から来る急襲は驚異だ。

 地上では身のこなしは鋭くないとは言え、広範囲なブレスを吐く、地面に衝突したブレスは暫く消えず、触れるとダメージを食らう。


 リベールは死化粧の槍を構え、「覇王龍」のブレスを待つ。


 次の瞬間、ブレスがリベールを襲うが一歩半斜め右に移動してブレスをかわすリベール。外から見るとブレスを食らっているように見えるが、この位置はキャラクター一個分だけ空白なのだ。

 そのまま駆けるリベールに、「覇王龍」の鉤爪が襲いかかるが、今度は半歩下がりながら、槍を突き出す!

 紙一重で鉤爪を交わしたリベールの槍は、鉤爪と鉤爪の間に突き刺さる。

 この位置はちょうど硬度が低く、ダメージがよく通る。


 最後は死化粧の槍の特殊効果「死化粧」を発動させる。「死化粧」は攻撃力が上がるが、少しづつヒットポイントが減っていくという、使えないと言われる特殊効果だが、攻撃力の上昇率は1.5倍と絶大ではある。

 あるのだが、こういった武器にありがちな死ぬ直前のヒットポイントで減りが止まるのではなく、そのまま死んでしまうというネタっぷりだ。


 死化粧を発動したリベールは、赤く舞い散る光を発しながら、最後の攻撃を敢行する。その姿は、死化粧でありながらも壮絶な美があった。

 ヒットポイントが残り一割になる頃、ついに「覇王龍」は倒れる。


 外から見ると壮絶な戦いであったものの、竜二の心には何ら波風を立てない。マクロによる予定調和。全てが計算につぐ計算の結果だ。


 よし、次は「黄金獅子」だ。「黄金獅子」は「黄金モード」を発動すると、ドラゴンバスターオンライン最強の火力を誇る。またスピードも「黄金モード」時限定であるが、スピードスターと言われるボス並になる。

 しかし、そんなものは問題ない。「黄金モード」まで持っていくには「黄金獅子」を瀕死にして初めて発動する。

 ここに至るまでのマクロ作成がどれほど大変だったか。


 この日、少女騎士リベールは「覇王龍」と「黄金獅子」をそれぞれ十匹討伐した。

 マクロの完成に喜ぶ竜二ではあったが、世間は彼の思う方向と違う動きを見せていた...


 次の日も変わらずマクロを稼働させる竜二。リベールへの応援、観戦は日を追うごとに増えていく...


 一週間が過ぎる頃、ある程度素材が集まった竜二はゴルキチ用のレア度10装備を目指して作成してみたが、思ったものはやはりなかなかできない。

 納得いくレア度10ではなかったが、一応の装備でマクロ作成で散々研究した「黄金獅子」は数十回の挑戦で奇跡的に倒すことができる。

 これで、俺も名前が通るようになっただろうか?やはり、「天空王」を倒さないと認められないだろうか?


 気になった竜二は、掲示板でゴルキチの名前を探してみる。


リベール


リベール、リベール、リベール!!


 専用スレッドは元より、超絶プレイヤースキルを持つと言う傭兵並のリストにも、「天空王」スレッドにも、ボス狩り総合スレッドにも、リベール、リベール、リベールだ!


 ゴルキチの名前は何処にもない。

 何処にもないのだ。

 竜二は愕然とした。ただのマクロがほとんどのスレッドに顔を出し、認めてほしいゴルキチの名前が何処にもない。


 なぜた!なぜこうなったんだ!


 翌日リベールでログインすると、何時ものように数人のプレイヤーがリベールを待っていた。


「次の王命は天空王なんじゃないですか?」


「騎士リベール!騎士リベール!」


 ダメだ居た堪れない。賞賛と「天空王」撃破への期待の目。何処へ行ってもそれは起こる。

 耐えれなくなった竜二は、ゴルキチにキャラクターを変える。


 しかし、街へ行こうが、ボスを狩りに行こうが、リベールの名を呼ぶ声が聞こえる。


うあああああ!!


 竜二は思わず、ログアウトし、パソコンの電源を切った。

 一人歩きするリベールの賞賛と期待に彼は恐怖する。

 これを終わらせることは出来るか?この恐怖を何とか出来ないか?


 思い付かない!ここまで来てしまえばもう戻らない。リベールは有名になり過ぎた。

 このままゲームを辞めよう。ドラゴンバスターオンラインは確かに素晴らしいゲームだが、こうなってはもうどうにも出来ない。


 塞いだまま三日過ぎるが、気になって夜も眠れない竜二は、掲示板を覗いてしまった。


 覗いてしまったのだ。


リベール!リベール!リベール!


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[王命はんぱねえ]少女騎士リベールたん その52ぺったん


<スペック>

名前:リベール

性別:女

特徴:身長低め、茶髪アップに黒目の怜悧な顔、ぺったん

装備:レア度9 死化粧の槍 レア度8 白銀プレート改 藍色スカート改 スカートガード改

出没場所:覇王龍と黄金獅子を毎日六時間くらい延々と狩っている。


186.名無しのドラゴン

リベールさんの死化粧痺れる!何度見ても素晴らしい。


201.魔法少女

どこまでもロールプレイを崩さないスタイルは素敵。


222.名無しのジャッカル

まさか、ネタ特殊効果「死化粧」を使う人がいたなんて...


241.名無しのバスター

残りヒットポイント一割で毎回倒しきる。あれはバケモンだ。


254.名無しのジャッカル

しかし、王様は鬼畜だよなwww


255.名無しの騎士

王命が過酷すぎるwww


562.ぺったんマスター

リベールたんが三日来ない!旅行かなあ?


566.名無しのドラゴン

いや、天空王の王命を受けたんだよ!


567.名無しのジャッカル

ついにか!


568.ぺったんマスター

ハアハア、リベールたん!ぺったんぺったん...


590.名無しのバスター

>>568

お前はそればっかだなww


591.魔法少女

リベール姉さまが、天空王の王命を受けるの楽しみ!


594.名無しのジャッカル

あの鬼畜王のことだから、そろそろ来るぞ!

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 これはダメだ。このまま引退すると、俺の心が病んでしまう。

 リベールで「天空王」を撃破しよう。

 マクロを作ろう。

 竜二は「天空王」のマクロを作り始め、今度はたった五日で作り上げてしまう。先の「覇王龍」で既にノウハウが出来上がってしまっていた。


 竜二はリベールでログインすると、待ち人に軽く挨拶を交わした後、港町ジルコニアの広場へと移動する。


「皆よ!最後の王命がくだった!」


 広場でシャウトするリベール。やるなら知らされるだけ知らせないと。


「最後の敵は「天空王」だ!皆の無念、この私が払う!」


 一瞬静まり返る群衆だったが、誰かが、


「リベール!」


 とシャウトすると、釣られるように多数の歓声が上がる。


「リベール!リベール!」

「王命を果たせ!リベール!」


 あまりの歓声にサーバーが重たくなる勢いだ。


「では、行ってくる!」


 白銀のプレートメイルに、鮮やかな藍色のスカート。それを覆うようなスカイブルーのプレートに身を包んだ騎士風の少女は、身の丈に見合わない禍々しい真紅の槍--「死化粧の槍」を背に抱え、歩を進めている。

 煌びやかな鎧をまとった騎士達は、彼女に道を開けるよう左右に位置をずらす。


「リベール!」


 歓声が響く。この一言が開始の合図となり、騎士達は口々にその名を呼ぶ。


「リベール!リベール!リベール!」


 少女騎士--リベールは、これから難度10の中でも最難関である「天空王」に挑む。天空王をソロ(一人)で倒したものは未だ現れていない。

 しかし、彼女の歩みは自然そのものだった。これから天空王に挑むというのに、一切の動揺は彼女から感じられなかった。背の巨大な真紅の槍に手をかけ、槍を構える。


 彼女の姿は搔き消え、天空王の座すエリアへと移動していった。

 騎士達はこぞって、彼女の戦いを見守り息を飲む。


 一撃でも喰らおうものなら、死亡直前の威力を持つ天空王の一撃一撃を全て紙一重でかわし、的確に機械のような正確さを持って、天空王に真紅の槍を突き刺していく。


 ついに、槍の特殊効果「死化粧」が発動すると、観客は歓声を上げる!

 「死化粧」の赤い吹雪のエフェクトが彼女を包み、天空王へ「死化粧」が舞う!

 ほどなく天空王は倒れ、万雷の歓声が彼女を包み込んだ。


 ボスエリアから出てきた彼女は宣言する。


「最後の王命を果した私は、王都へ帰還し王へ報告に向かう。王命はもう出ないだろう」


 最後にそう言い残し、リベールはログアウトした。


 終わった。これで安眠できる。

 もう二度とマクロは嫌だ。半年前の俺をぶん殴りたい。


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[王命を果した]少女騎士リベールたん その64


418.名無しのドラゴン

リベールさん、引退?


421.名無しのバスター

王命がもう無いって言ってたからそうかもしれない。


422.ぺったんマスター

俺はもうダメかもしれん、リベールーーー。


423.名無しのジャッカル

リベールさんが戻るまで、スレッド維持するぞ!


424.ぺったんマスター

もちろんだ、同志よ。


425.名無しのドラゴン

>>424

一緒にするな!


426.名無しのジャッカル

>>424

一緒にするな!


以後一緒にするなレスが続く......

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竜二の心が休まる日は来るのだろうか。

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