第5話 ファーマー編 復帰する竜二
竜二がドラゴンバスターオンラインを去ってからもう二ヶ月が経とうとしていた。
なるべくドラゴンバスターオンラインには触れないようにしていたのだが、スマートフォンでネットサーフィンを行っている時に気になる情報が目に入る。
"ドラゴンバスターオンライン大型アップデート!狩りだけじゃないドラゴンバスターだ!"
むむ。気になる!元々ドラゴンバスターオンラインは嫌いになって辞めた訳ではない。狩りは楽しかったし、結局手付かずだったが、家を自由にカスタマイズできるフリー建築も魅力的だった。
当時余り見なかったが、フリー建築と家具類は、それだけで一つのゲームと言われてもおかしくないほどの作り込みがされていたそうだ。
それゆえ家専と呼ばれる、家のカスタマイズだけを行うプレイヤーも多数いたほどだ。
少し興味を惹かれた竜二はドラゴンバスターオンライン公式サイトを閲覧してみると、今回の大型アップデートはゲームシステムを大幅に変更するものだった。
目玉は、新スキルの大幅な追加と職業システムの実装。
これまで、全てのスキルを覚えることが出来たが、職業システム導入に伴い職業によって取れるスキルが変更になる。
その分大幅にスキル数が増える。スキルの覚え方はこれまで通り、多少のお金をNPCに支払うだけのため、職業は手軽に変更できる。
生活型と狩りの融合と謳ってはいたものの、どうしても狩り一辺倒だったため、多数の非戦闘職が追加されている。
狩りの現場に行けば、悪夢を思い出すかもしれないが、非戦闘職で戦闘職が集まらないような所に居るなら楽しめるかもしれない。
職業について考え始めた竜二はもうドラゴンバスターオンラインの虜になりつつあったのだ。
ボス狩りしなければ、あの忌々しいチャットを聞かずに済むかもしれない。ジルコニアもダメだ。人が集まりすぎる。
郊外で楽しめる非戦闘職はないだろうか?
大工、縫製屋、加冶屋、羊飼い...次々と職業に目を通していく竜二はついに理想の職業を見つける。
その名はファーマーいわゆる農家であった。ファーマーは1600年ごろのフランス田舎町をイメージしたトロンと言う村周辺に農場を立てることが出来るらしい。
トロンは見る限り、ファーマー以外には使い勝手の悪そうな村のため、戦闘職は来ないだろう。
これだ!
竜二はゴルキチでログインし、トロンに移動する。
トロンは古ぼけた木造の家が疎らに建つ村で、家畜小屋や畑を運営するNPCたちが複数いた。
のどかな風景が非常に細かなグラフィックで再現されており、水車の回る音や時折響く石臼の音、川のせせらぎ、牛のノンビリとした鳴き声。
どれも竜二を魅了するには十分で、ゴルキチを早速ファーマーにすることにした。
新人ファーマー・ゴルキチの朝は早い。購入した畑を耕し、種を植える。水を撒いてると羊飼いのプレイヤーが羊と犬を連れて放牧しに行くところが遠目に見える。水遣りが終わると次は花の世話だ。
色とりどりの花の色と形に癒されながら水遣りをする。終われば害虫がいないかチェックだ。
悪くない。悪くないぞ、このスローライフ。せわしない都会の零細企業の仕事に忙殺された後、このスローライフは格別だ。
親しくなったファーマーの方や毎日顔を合わせる羊飼いの少年。彼らとたわいのない話をするのも格別だ。
しかし、ノンビリし過ぎを許さないドラゴンバスターオンラインでは、害虫ならぬ害植物が稀に出現する。
その名はキラープラント。緑色の蔦のお化けのようなボスモンスターで、なかなかの巨体を誇る。その体躯は4メートルを超え、振るわれる蔦の一撃はなかなか強烈なものがある。
そう、キラープラントはただのモンスターではなく、ボスモンスターなのである。通常のボスモンスターとの違いは、誰かが討伐すると消えるというだけだ。
とはいえ、ボス難易度はたったの2。それでもファーマーには辛いボスではある。そもそも、ファーマーはボスと戦うことはない。
キラープラント退治は主にゴルキチの役目に自然となっていった。
元々ソロでボス難易度9まで討伐したことのあるゴルキチにとってキラープラントを退治するなど容易いことだった。「農具」スキルでクワを装備し、「農薬」スキルで毒薬を振りかける。
ファーマーも一応戦えるのだ。ドラゴンバスターオンラインでも「どの職業でもボス討伐できる!」と書いてあり、あくまで一応だが、ボスを倒すことは出来る。
ファーマーの場合、クワの攻撃力はそこそこかもしれないが、防具が布しか装備出来ないため、ボス討伐は過酷だ。難易度3くらいが精々だと思われる。
「ありがとうございます。ゴルキチさん!」
麦わら帽子の人好きをしそうな顔の男はゴルキチに労いの言葉をかける。
「いえいえ、ルバーンさん。キラープラントは任せて下さい」
「助かりますよー」
ゴルキチこと竜二は、最初ファーマーで分からないことがあればいろいろ教えてくれた親切な人であり、ファーマーの先輩だ。彼の畑の素晴らしさに少しでも追いつきたいと竜二は常々思っている。
こうして、ファーマー暮らしをすること一ヶ月。竜二がリベールを引退させてからもう三ヶ月が過ぎようとしている。心も穏やかになってきたので、ふと気まぐれに昔の黒歴史を覗いてみる事にした。
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[王命再び]少女騎士リベール その128ぺったん
ここはリベールさんのカムバックをゆっくり待つスレッドです。
351.名無しのバスター
大型アップデートが来たな。リベールさんがどの職業になるか妄想しようか。
354.名無しのドラゴン
フェンサーかなあ。槍使っていたし。
355.名無しのジャッカル
意外に鈍器使いになるかもしれないぞw
358.魔法少女
>>355
お姉様が鈍器なんて下品な武器使わないwww
フェンサー以外考えられないわ
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うわあああああ!!!
リベールの職業妄想とかしてる。こんな調子で続いているのか。
未だに続いていることに、恐怖しか感じないがリベールはもう眠りについたのだ。安らかに。アーメン。
この調子じゃ、半年後でも続いてそうだ。こういうものは見なかった事にして、今後も見ないと心に誓う竜二だった。
それから少し経ったある日のこと、麦わら帽子の人好きする顔の男...ルパーンが笑顔モーションをしながら手を振っている。ゴルキチは農作業の手を止め、ルパーンの近くまで歩いて行った。
「ゴルキチさん、驚きの装備が発表されましたよ!」
すごい食いつきでルパーンはまくし立てる。
「ど、どんな装備なんです...?」
あまりの勢いに冷や汗を流しながら、ゴルキチは応じた。
「今日発表された、ハードボイルドシリーズの革ジャンですよ!」
「わ、分かりました。後で見てみますんで食いつかないで...」
「あ、ああすいません。つい」
ログアウト後、竜二はルパーンの教えてくれた装備を探しに公式サイトへアクセスしてみると、トップページにデカデカと「ハードボイルドシリーズ第一弾 革ジャン」とあった。
この見た目は...ほ、欲しい!ルパーンが興奮していた理由が分かる。このデザインはかつて憧れた俳優の着ていたものと同じデザインだ。タイアップでもしたのか、革ジャンなら服なのでファーマーでも一応装備できるし、どうやったら手に入るんだ?
竜二は革ジャンの入手方法を調べはじめたのだった...
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