第3話 過去編 紅亀少女
一週間リベールを稼働することで、レア度8の装備を難なく手に入れた竜二は、ゴルキチでさっそく難易度7のモンスターに挑み、一週間で全てを倒しきった。もちろんその間はリベールが「紅亀」を倒し続けている。
次はレア度9の装備だが、段違いにお高い。ドラゴンバスターオンラインでは装備が消耗品のため、実質トップ装備であるレア度9の装備は交換需要も含め物凄い価格だった。
レア度より一つ高い難易度のボスを倒す場合、パーティの最大数である四人で挑み、それなりのプレイヤースキルのある者が集まれば倒すことは難しくない。
つまり、竜二の現在の装備でもパーティさえ組めば、難易度9ボスまでなら何とかなる。パーティの場合、人数分取れる素材は少なくなるが、レア度9装備を作る足がけにはよいと思う。
思うのだが、竜二にはこだわりがあった。難易度8までのボスはソロで突破する。
試しに今の装備で、難易度8ボスに挑戦してみるか!
竜二はゴルキチでログインし、さっそく難易度8ボス「影龍」に挑戦してみることにした。「影龍」は一撃が大きいものの、攻撃パターンが多少読みやすい。
他の人はどんな感じで挑んでるのだろうと思い、観戦モードで覗いて見ることにした。
ドラゴンバスターオンラインでは、ボス戦は人気コンテンツのため、ボス待ちが発生しないよう、ボスのシンボルをクリックするとボスエリアと呼ばれる専用エリアに飛ばされる。
ボスエリアは挑んだパーティごとに分けられており、ボス待ちが起こらない。また、ボス戦の様子を観戦することもできる。竜二ことゴルキチが今やっているように。
ゴルキチが観戦しているのは、ソロで挑んでいる人だ。プレイヤー名はジャッカル。長いオールバックの髪は後ろで無造作に跳ねており、太めの筋肉質な体の上から、特徴的な丸い肩当を付けていて、銃弾を模したベルトを両肩からクロスするように二本巻いている。
極め付けは、首に巻いた狐の毛皮だ。ゴルキチは某世紀末覇者にこんなやついたなあとジャッカルの容姿に感心していた。
得てして見た目に拘るプレイヤーは、プレイヤースキルが高い。装備性能を落としてでもボスに挑めるのだから。
それにしてもこいつ、上手いな。バトルアックスと呼ばれる重量級の斧を適確に振り回し、無理せず影龍の攻撃を回避している。見た目とは裏腹に冒険をしないタイプみたいで、堅実に無理せずダメージを稼いでいる。
どうやら観戦者に気がついたらしく、ジャッカルはバトルアックスを構え直し、シャウトする。
「長生きするには自分より強い男と戦わないことだー」
ダメだジャッカル!それは。とゴルキチは心の中で叫ぶのと、時を同じくして、「影龍」のブレスがジャッカルに炸裂し、追い討ちの熱いパンチを喰らい倒されてしまった。
「ひでぶ!!」
ジャッカルは最後まで芸が細かった。
討伐失敗でボスエリアから出てくるジャッカルにゴルキチは声をかける。
「ジャッカルさん、お上手ですね。参考になりました」
「いやあ、恥ずかしいところを」
と照れるモーションをするジャッカルに、ゴルキチは「いえいえ」とかえす。
最後はチャットに気を取られてやられてしまったとはいえ、ジャッカルのプレイヤースキルは確かなものだ。俺も見習わないと。
「ジャッカルさん、その防具レア7じゃないですか。それでいってるんですか?」
「いずれ、難易度10に挑むじゃないですか。今からその練習ですよ。武器はレア8ですけど」
確かにジャッカルの言うことは一理ある。難易度10に挑む時にはレア度9の装備で行くことになる。ボス難易度は上がるが、装備性能は上がらないのだ。
難易度8ボスまでは、一つ上のレア度がある装備を準備できるが、難易度9からはそうはいかない。ソロはレア度より一つ低いボス難易度が適正と言われているが、難易度9からはそうはいかないのか。
だからこそ、ゴルキチは難易度8ボスまではソロと考えていたが、ジャッカルの言葉を聞いて考えを改める。行けるところまでソロで行こう。ならば、今のレア度8装備で難易度8ボスは倒せないとな。
「なるほど。俺も見習って頑張ってみようかな」
「さすがに、紅亀少女のように裸で行こうとは思わないですけどね」
紅亀と言う言葉で少しドキりとするゴルキチこと竜二。
「紅亀少女って何ですか?」
「防具無しで紅亀をひたすら狩っているネタキャラですよ。掲示板でも少し話題になってますよ」
目立ち過ぎたか?無いとは思うがマクロとバレるとマズイ。紅亀は引き際かなあ。
「ほうほう。後で掲示板見てみます」
平静を装うゴルキチだったが、文字を打ち込む竜二の手は若干震えていた。
「いやあ、俺は紅亀少女のプレイヤースキルに注目してるんですよ。ネタだと言われながらもダメージ受けてないですよ」
当然だ!マクロだからな。ミスなんぞ無いのだ。
その後、竜二は掲示板が気になりながらもゴルキチで難易度8のボスにしばらく挑み、何度かあと一歩まで追い詰めることが出来た。やり込めば何とかなりそうというのが彼の感想だ。
気にしない気にしないと心に唱えながら、ベッドに潜り込むも気になって眠れない竜二は仕方なしに、ドラゴンバスターオンラインについて書かれた掲示板を見てみる。
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[裸エプロン]紅亀少女 その3
紅亀少女ことリベールさんをウォッチするスレッドです。
<スペック>
名前:リベール
性別:女
特徴:身長低め、茶髪アップに黒目の怜悧な顔、ぺったん
装備:レア度4 紅槍 防具無し
出没場所:紅亀のみ毎日六時間くらい延々と狩っている。家に売り子有り。もちろん紅亀素材のみだ!
16.名無しのバスター
今日も元気に狩っていたぞ。しかしストイックだな紅亀ちゃんは。
24.名無しのドラゴン
>>16
何気に紅亀討伐数トップじゃないか?ここまで無心に狩り続けられると逆に尊敬するわ。
25.名無しのバスター
家専からしたら、鼈甲の安定供給は助かる。紅亀ちゃんのお店安めだしさ
※家専とは、狩りに出ずひたすら家のカスタマイズに命を燃やすデザイナー達である。
28.名無しのバスター
ぺったんだと!?
29.名無しのバスター
ぺったん?
30.ぺったんマスター
中の人わかってる。
31.名無しのバスター
ぺったんって何?
32.ぺったんマスター
オッパイぺったん。装備無しの貫頭衣だからすぐ分かるよ
この後おっぱい談義が続く...
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マクロを疑う書き込みが全くないのは、安心したが。キャラクター作成の時に胸を盛るの忘れたんだよ!作成完了ボタンを押した後気がついたんだけど、渾身の出来だった顔を作り直せる自信が無かったからそのままだったんだ。
リベールに変な業を負わせてしまった。
このまま話題になるのは良くないな。マクロがバレるかもしれない。
翌日から竜二はリベールを引っ込め、次のマクロ制作に入る。レア度9装備の為に「紅亀」は卒業する予定だったので丁度よい。
作成中は「紅亀」から完全に引き上げる予定だったが、マクロ製作中以外の時間にはキッチリ、リベールを稼働することに思い直す。注目を集めたくないが、稼げるんだ。
予定通り次は難易度8「死霊騎士」用マクロ作品を行い始める竜二。練習モードを起動して「死霊騎士」を選択する。「死霊騎士」は剣による攻撃と、稀に盾を振り回してくる技巧を駆使するボスだ。
剣より槍の方がレンジが長いので、剣の外側から攻撃を当てようとするものの、迅雷疾風とも言える踏み出しから、距離を詰められ切り払われてしまった。
ならば、ゼロ距離から張り付いてみるか。
竜二は鉄の爪と呼ばれる近接格闘用の武器をリベールに装備させ、「死霊騎士」に張り付いてみると、ステップで距離を離して来るものの槍よりはまだ芽があることを知る。油断すると、盾で殴られ吹き飛ばされるが......
多少苦労したものの、今度は一週間でマクロを完成させ、実践投入できるようになった。
今回の装備はレア度6 ドラゴンクローという格闘用武器に、防具を無しでも良かったが目立つことを考慮し、白銀の鎧に藍色のスカートを装備させた。
これならぺったんと言われまい。
リベールはこの日より難易度8「死霊騎士」を切っては捨て切っては捨て、討伐数を伸ばしていく。
ゴルキチもリベールの集めた資金でレア度9装備を買い揃え、竜二の上達もあり、難易度9ボスをソロで討伐したのだ。
この頃竜二はトップが見えてきたと実感し始め、難易度10ボスに挑戦するが、これまでと隔絶した強さにレア度9装備では不可能と判断。これをレア度9で行くには超越したプレイヤースキルが必要と思われた。
レア度10装備は、難易度10ボスから低確率でドロップする素材を使い作成される。ただし、この作成は出来上がる装備のレア度が8から10のランダムで、特殊効果も有用かものから、マイナスのものまで様々だ。
だから、数を倒さないといけない。数を。
数を倒すならマクロだ!リベール用の装備を作ろう。
そうなるとさらなる資金が必要だ。「死霊騎士」をもっと狩らねばならぬ。
リベールで「死霊騎士」を討伐し始めて二週間たつ頃から、やたらと話しかけられるようになった。多くは賞賛の声で、彼女を応援するものだった。
リベールが自宅で売り子の商品整理をしているときに、見た顔が訪れる。かの世紀末プレイヤー、ジャッカルだった。
「こんにちは、リベールさん!死霊騎士の討伐凄いですよ!」
この時、竜二は迷った素で答えると竜二とバレるかもしれない。
そこで竜二は閃く!そうだ、ロールプレイキャラってことにしよう。
ロールプレイキャラとは、キャラクターの設定を行い、そのキャラクターになり切ってプレイするスタイルだ。ロールプレイキャラは、ドラゴンバスターオンラインにもそれなりに存在する。
「大したことはないよ。王命だからな」
とっさに考えたため、変な騎士キャラクターになってしまった!
「ほう、王命ですか。王は死霊騎士に頭を悩まされてるのですかな?」
ジャッカルも乗ってきたー!なんかわからないキャラになってるー!
「ああ、王は死霊騎士の跋扈に頭を悩まされておられる。私が全て滅しますと王にお約束したのだ」
「なるほど、それで死霊騎士を討伐されてるのですな。本日は死霊騎士の盾を買わせていただきますぞ」
しかしノリがいいなジャッカル!竜二は頭を抱えながら悲鳴を上げる。ロールプレイはちょっと恥ずかしい。
これ以降リベールは変な騎士ロールプレイをするキャラとなった...
この特異なキャラと同じボスばかりを狩ることでリベールはさらに有名になって行く。竜二の思いとは裏腹に。
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