第2話 過去編 鉱山マクロ
ドラゴンバスターオンラインはサービスを開始して間もないが、既に何人もの鉱山マクロキャラクターが運営側に発見され、アカウント消去(垢バン)されていた。彼ら運営は自動マクロ(BOTとも言われる)の逮捕に並々ならぬ情熱をかけドラゴンバスターオンラインの平和を守っていたのだ。
捕まった奴らは浅はか過ぎる。24時間同じ動きをしていたら、ただ捕まるだけだろう。こういうやつらのお陰で俺は動きやすくなるんだ。
クククと竜二は口角を少し上げた彼なりのニヒルな笑みを浮かべて、間抜けな自動マクロどもをあざ笑うのだった。
だいたい、24時間稼働させること自体が怪しまれる原因だ。どんだけ時間がある者でも24時間は動けないだろ。そういう分かりやすいやつはすぐ捕まる。
竜二は六キャラクターをローテーションさせ、鉱山マクロを実行することにした。同時に六キャラクターで採掘した方が圧倒的に資源の取得量は多いものの、リスクは高いと彼は判断する。
次に運営側のもう一つの手段も潰さなければならない。運営は自動マクロのようなキャラクターを発見すると、声をかける。その呼びかけに応えられなかったら、プレイヤーが画面の前におらず、離席して自動操作していると判断される。
運営側としては、人力のため非常に手間がかかるが、マクロの撲滅には有効な手段ではある。
この「呼びかけ」を回避することは非常に手間だった。竜二が取った対策はこうだ。スマートフォンから、マクロの停止が実行できるようにプログラムとアプリを作成し、他のプレイヤー・運営側に関わらず、呼びかけられるとマクロを自動停止する。
さらに、スマートフォンから、文字入力を行いゲーム内のキャラクターがチャットできるようにした。
竜二のマクロは運営はおろか、他のプレイヤーにも全く疑われることなく稼働し、日夜鉱石を集め続ける。
竜二は自身のマクロを自画自賛しつつ、笑いが止まらない。
一方、一度大規模に取り締まったにも関わらず、鉱山マクロは後を絶たず、運営と自動マクロのいたちごっこが今も続いている。
鉱山で取れる鉱石は、単純作業でありながらそれなりに需要のある人気アイテムだったことが、鉱山マクロを流行らせる原因となっていた。
鉱山で取れる鉱石は、鉄とミスリルの二種類あり、それぞれ色が12種類ある。装備を作成する際に、使用した色に応じて装備に色を付けることができ、違う色の鉱石を混ぜることで、別の色を作り出すことができる。
このシステムのお陰で、プレイヤーは自分が気に入った色の装備を作ることが出来る。
また、装備には耐久度という値が設定されていて、使うとすぐに耐久度が減っていく。耐久度が減った装備は鉱石を元に作ったものであれば鉱石で修理することができる。
ただし、ネットゲームにありがちではあるが、修理しても耐久度の最大値はどんどん減少していく。こうすることによって、武器の流通を促すわけだ。
竜二は集めた鉱石をどうやって捌くか思案していた。ドラゴンバスターオンラインで、物を売る手段はいくつか用意されている。まずNPCに売る手段。いわゆる買取相場よりかなり安く、売れば売るほど売値が落ちていくため、利益は非常に低い。落ちた売値は時間と共に回復するが、元々安い買取価格なので微妙だ。利点はいつでもお金に変えれること。
次にキャラクターを街中に立たせてバザーで売る手段。キャラクターが持てる分の鉱石しか売れないが、好きな値段で売ることができる。
もう一つが、自分の家を店にして売る手段。売り子NPCを雇う必要はあるが、幾らでも好きな値段で売ることができる。しかしながら、家が作成できるエリアは郊外に限定されており、街から近い便利なエリアほど、既に家が建てられており、建てるとすれば僻地になる。僻地になると当然訪れる人は少なくなる。
「バザーで稼ぐか」
竜二はハゲ頭の筋肉隆々なメインキャラクターであるゴルキチでログインすると、港町ジルコニアという街の門まで移動する。
ドラゴンバスターオンラインは広大な世界が用意されていて、一つの大きな大陸にいくつかの島があり、今後のアップデートで追加されていく予定になっている。
ゴルキチが訪れたジルコニアはプレイヤーが最も多く集まる港町で、1600年ごろのポルトガルの都市リスボンをイメージしたもので、レンガで建てられた住宅に、石畳、レンガの階段と古き良きリスボンがよく表現されていた。
入り口の門をくぐると、大きな石畳の道があり、左右にはレンガ造りの建物が並ぶ。建物はNPCショップになっており、狭いエリアに集中しているので使い勝手が良い。
道を進んだ先は中央に噴水がある広場になっており、広場の近くには銀行と冒険者の宿がある。
広場には所狭しととバザーを出したプレイヤーが腰をかけ様々なアイテムを販売している。それを見るプレイヤーも多く非常に賑やかだ。
ゴルキチは、冒険者の宿の宝箱から持てるだけの鉱石を取り出し、バザーをセットする。バザーには何を売っているのか一目で分かるように一言コメントが付けれる。
バザーの一言コメントに「鉱石販売」と書き込み、キャラクター自身をクリックした時に、キャラクターアピールという項目があり、そこに「鉱石まだまだあります」と記載しておいた。
広場にはプレイヤーのシャウトが飛び交い、何を売っているのかを引っ切り無しにアピールしている。
ドラゴンバスターオンラインのチャットシステムはオーソドックスなもので、近くの人と会話するセイ(Say)、広範囲にチャットが届くシャウト、特定人物だけに聞こえるテル、パーティ内に聞こえるパーティチャット、ギルド内だけに聞こえるギルドチャットといった感じだ。
バザーの商品をアピールするなら、広範囲に聞こえるシャウトが適している。
よし、俺もシャウトするか!
「鉱石売ります!大量販売もご相談下さい!」
相場より二割ほど安くしたお陰か、バザーの鉱石はものの10分ほどで売り切れる。売り切れたらまた補充し、再度バザーでと何度か繰り返すと、あっという間に家を建てる資金が貯まったのだった。
たまった資金で、一番安い藁葺き屋根の小さな家を建てるゴルキチ。家はデザインから行うフリー建築モードと運営側が準備したノーマル建築モードがある。フリー建築は魅力的だが、やたらお金がかかる上に時間も非常に取られる。
狩りに集中したいゴルキチはぐっと我慢し、藁葺き屋根の家を眺めると、案外小さく簡素なこの城も良い気がしてきて、少しの満足を得ることができた。
これからは、バザーと藁葺き屋根の売り子で資金を稼ぐことにしよう。
ようやく資金繰りに目処が立った竜二は、装備の制作に取り掛かる。装備にはレア度が設定されていて、基本レア度が高い方が威力は高い。装備によっては特殊効果が付くものがあるので、一概にレア度が高いからといって強いわけでもないのだが......
レア度は1から10まで設定されているが、通常作成できるのは9までだ。10については難易度10のボスから取れるレア素材を使い、生産するのだが、レア度8から10までランダムで選ばれる上に、特殊効果もランダムに付く。レア10はまさに廃人仕様となっていた。
まずは、ミスリルで作れる武器と防具にするか。武器は両手剣、防具は重量標準で動きを確かめよう。
両手剣は最もオーソドックスな武器といわれ、一撃の大きな叩きつけと斬りはらい、斬りあげなど使いやすいが、重量もあるので威力も高い武器だ。その分動作が遅くはなる。防具の重量は軽くするほど、防御力が落ちる変わりに、動作が速くなる。
竜二はゴルキチでログインし、平原、森林などで、雑魚モンスターを狩り操作性を確かめる。悪くない動きだと自己満足。
その後難易度6のボスまでは、マクロで集めた資金で素材を購入し、装備をレア7まで上げてから挑み、全てソロで撃破した。基本ソロで行くなら、ボス難易度より高いレア度の装備が必要と言われているので、竜二の腕は悪くはない。
今後楽に狩る為には、さらにレア度の高い装備がいるが、素材が非常に高い。
パーティを組めば難易度7くらいなら行くことは出来るが、ここまでソロでやってきて今更パーティも悔しい。難易度9ならば、パーティも仕方ないが、難易度8まではなんとかソロで行きたいところだ。
竜二が資金繰りで注目したのは2つのボスモンスターだ。
一つ目は難易度4「紅亀」だ。「紅亀」は非常に硬く高い耐久を誇るボスで、動きは速くないが、弱点が狭い。難易度の割には倒すのが面倒なボスではあるが、「紅亀」が出すレア素材は上位武器の基礎素材としてよく使われる。
また、通常剥ぎ取れる紅べっ甲と言われるアイテムは、家具やアクセサリーに需要があり、常に供給不足だ。
もう一つは難易度8「死霊騎士」だ。ボスの中でも最も軽量なボスであり、体長は2.2メートルだが、片手剣と盾を装備し、扱いに長ける。攻撃すれば剣に弾かれ、剣をくぐり抜けても盾で防がれる。
攻撃力は軽量の為に難易度8にしては低いものの、技巧によった厄介なボスである。しかしながら、「死霊騎士」は自らの剣と盾を稀にドロップする。この装備は素材いらずで、そのまま使える割にレア7だ。これを少し強化すればレア8武器になると言う優れもののため、高い金額で取り引きされている。
話は変わるが、TASと言うものをご存知だろうか?レトロゲームは行動パターンが乱数という値で決まっており、その乱数を制御して、モンスターの動きを調整し完璧な行動をもってモンスターを倒すプログラムのことだ。TAS画像というものも動画サイトに多数上がっている。
竜二は、マクロで「紅亀」は倒せないものかと思案する。TASの現代版だ!出来ないことはないはずだ。
ちょうど、ボスモンスターとの練習モードも実装されたことだし、そこでマクロを組み上げるぞ。
練習モードはプレイヤーの多くの要望によって実装されたシステムで、戦闘を行えば、装備が摩耗するところが、練習モードではそういったペナルティはない。
しかしながら、練習モードでいくらボスを倒しても素材は取れない。
さっそくリベールでログインすると、彼女用のレア5武器を作成する。防具は無しでいい。当たらなければどうということはない。防具無しはスピードが最高だしな。
意気込んで練習モードを使い、マクロを作り始めるものの、作業は困難を極める。レトロゲームと違い乱数調整なぞ出来ないから当然のことだった。
しかし、竜二は腐らず、一つ一つ「紅亀」の動作を分析し、一ヶ月近くかかったが、マクロを完成させる。
一ヶ月あれば、目的の装備作れたんじゃない?という突っ込みは決してしてはいけない。
いよいよ、実戦投入だ!リベールを「紅亀」に挑ませる。防具無し、武器は槍だけというスタイルで見事「紅亀」を無傷で倒して見せた。タイムもソロとしては最速に近い。
大いに満足した竜二は一日六時間リベールを稼働することにした。怪しまれないよう、二匹狩ると休憩を挟み、十匹を狩ると武器の修理を行う。もちろんチャットを受ければスマートフォンから返信する仕組みもバッチリ組み込んでいる。
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