ネトゲをマクロで俺つえええしたかっただけなんだ......(勘違いギャグ)

うみ

第1話 過去編 ここから全ては始まった

 白銀のプレートメイルに、鮮やかな藍色のスカート。それを覆うようなスカイブルーのプレートに身を包んだ騎士風の少女は、身の丈に見合わない禍々しい真紅の槍を背に抱え、歩を進めている。

 煌びやかな鎧をまとった騎士達は、彼女に道を開けるよう左右に位置をずらす。


「リベール!」


 歓声が響く。この一言が開始の合図となり、騎士達は口々にその名を呼ぶ。


「リベール!リベール!リベール!」


 少女騎士――リベールは、これから難度10の中でも最難関である「天空王」に挑む。天空王をソロ(一人)で倒したものは未だ現れていない。しかし、彼女の歩みは自然そのものだった。

 これから天空王に挑むというのに、一切の動揺は彼女から感じられなかった。背の巨大な真紅の槍に手をかけ、槍を構える。

 彼女の姿は搔き消え、天空王の座すエリアへと移動していった。

 騎士達はこぞって、彼女の戦いを見守り息を飲む。

 一撃でも喰らおうものなら、死亡直前の威力を持つ天空王の一撃一撃を全て紙一重でかわし、的確に機械のような正確さを持って、天空王に真紅の槍を突き刺していく。

 ほどなく天空王は倒れ、万雷の歓声が彼女を包み込んだ。


 ダメージなんて喰らうわけがない。機械のような正確さ?当たり前だ。長時間に戦闘が及んでもミスの一つも無い。そらそうだ。

 だって、リベールはマクロで動いてるんだもの。


 数日前のことを思い出し、青年は自室でため息をつく。リベールのことは思い出したくない。

 五台綺麗に並んだパソコンを眺め、青年は再び大きな息を吐いた。

 青年――竜二は子供の頃からゲームが好きで、様々なゲームをやり込んだ。特に好きだったのはアクションRPGと呼ばれるゲームの中でも、ボス狩りに高いアクション性が求められるものだ。

 ゲーム好きが高じて、ネットゲームにはまったのも、もう数年前のことだ。


 ネットゲームとは、パソコンやスマートフォンをネットワークに繋げ、大人数が同時にアクセスし、同じフィールドでゲームをやるものだ。

 コンシューマーゲームと言われる一人で遊ぶゲームと違い、ネットゲームはレベル上げ一つ取っても膨大な時間を要する。休日に一日中やり続けても、高レベルともなると一つもレベルが上がらないこともあるほどだ。

 半年前、そんな竜二の好みにミラクルヒットしたオンラインゲームがリリースされた。ゲーム名はドラゴンバスターオンライン。

 アクションゲームの大手と生活型ほのぼのRPGゲーム大手がタッグを組んで制作された大作ネットゲームである。

 高いアクション性が求められる狩りと、非常にカスタマイズ性の高いハウスシステムや生活感を出す生産スキル、クエスト、釣りなどあらゆることが楽しめるゲームとして世に発表された。


 気落ちする竜二もかつてはドラゴンバスターオンラインでトッププレイヤーになるべく邁進していたのだが、今はもう見る影もない......


――半年前


 これだ!このゲームこそ俺が求めていたゲームだ!竜二はドラゴンバスターオンラインの記事を読み終わった瞬間思わず叫んでしまった。叫んだ後、家族に聞かれて無いかソワソワしたところが小市民であったのだが。

 俺はこのゲームでトッププレイヤーになる。どうすればトッププレイヤーになれるのか?竜二は思案する。


 ドラゴンバスターオンラインは難易度1から10までの多数のボスモンスターが世界に散らばっている。生活型ほのぼのとやらがあったとしても、結局のところボス狩りこそがトッププレイヤーとなるだろう。実のところ自分だけの家が作れるというシステムにも興味はあるが、それは二の次だ。

 目的は一つ、最高難易度のボスを狩ることだ。それも誰の力も頼らず、一人でだ。

 ドラゴンバスターオンラインはアクション性が非常に高く、プレイヤースキルという自キャラクターの操作技術が求められる。プレイヤースキルだけではもちろん最高難易度のボスは倒すことは出来ず、強力な武器防具が必要だ。

 武器防具はモンスターから剥ぎ取ったり、鉱山から鉱石を採掘したり、特殊な虫を捕獲したりと、作成するための素材は多岐に渡る。

 作成するためには、もちろん専用のスキルが必要だが、ドラゴンバスターのスキルはどのスキルであっても、いつでも全て取得できる。スキルレベルというものはない。さらに、ステータスという要素もなく、キャラクターの性能は全員同じだ。

 すなわち、差がつくところはプレイヤースキルと武器防具の性能だ。


 竜二は零細企業で働く社会人のため、超廃人と呼ばれる時間が有り余る者達と比べると、装備にかけれる時間が致命的に少ない。

 また、ほんの一握りだが、超絶なプレイヤースキルを持つ者がいる。そういった者達は、一部超廃人から装備を借りて高難度ボスに挑むのだ。装備を借受けることから、彼らは「傭兵」と呼ばれるプレイヤー達。傭兵は超絶なプレイヤースキルで、多くのプレイヤーを魅了し人気も高い。

 では竜二はどうたったか?竜二は数あるアクション性の高い狩りゲームをこれまでやり込んで来たため、そこそこ以上の腕は持つが、凡人の上手な人止まりだ。高いプレイヤースキルが必要なボスでも苦労の末に倒すことは出来るが、超高難易度のボスを倒すまでには至らない。


 どちらも俺には無理じゃないか!そう憤る竜二であったが、一つ名案が浮かぶ。


 そうだ。マクロを使えばいいんだ。と。


 廃人のかける時間をマクロで追いつくんだ。それなら廃人並の装備が作れるはずだ。


 マクロは、キャラクターを自動で操作するスクリプトで、マクロを起動すると、キャラクターはプログラムされた行動を延々と繰り返す。例えば、鉱山へ行き、ツルハシを振るい、鉱山から帰るといったマクロを準備すれば、操作しなくても自動で延々と鉱石が取れる。

 マクロはプレイヤーが操作する行為ではないので、ドラゴンバスターオンラインでは禁止事項であった。露見すると、キャラクターを消される、いわゆる垢バンというペナルティを受ける。こうなると、該当キャラクターは二度とゲームに復帰することは出来ない。


 もう一つの違反行為にチートと言われるものがある。こちらは、不正にデータを書き換えて違う性能のアイテムにしたり、アイテムを不正に生み出したり、キャラクターを無敵にしたりといった行為で、これも露見すると、キャラクター削除となる。


 竜二は足りない時間をマクロで稼ぎ、装備を作ろうと考えた。彼にマクロに対する罪悪感は全くない。

だって、時間があれば誰でも出来ることだろ?マクロに肩代わりさせて何が悪い?


 反対に竜二はチート行為を激しく憎んでいた。本来手に入らないアイテムを取得することは、ゲームとして認められていないことで、不正に取得したアイテムによってゲームとして成り立たなくなったり、場合によってはドラゴンバスターオンラインに多大な負荷をかけ、ゲームそのものが止まってしまう可能性がある。

 やるなら、ゲーム内で操作出来ることをすべきだ。だから竜二はチートを憎む。


 竜二は五台のパソコンを準備し、六アカウントに課金を行い、六キャラクターを作成する。ドラゴンバスターオンラインには、職業や種族はない。その代わり、キャラクターの容姿を事細かに設定でき、この要素はプレイヤーに著しく好評だ。

 彼は六キャラクターのうち二キャラクターの容姿は細かく設定する。一つは男キャラクターで、筋肉隆々のハゲ頭、肌は浅黒く、背中に大きな大剣を背負ったニヒルなキャラクターだ。名前はゴンキチ。

 もう一つは、女キャラクターで、身長がやや低めの長い茶色の髪を後ろでアップにした凛としたキャラクター。線が細く、シュッと細長い黒の瞳に冷涼な表情、眉は細く長い。キャラクター名はリベール。

 残りはマクロで素材集めだけに使うつもりなので、システム側で準備したデフォルトの容姿から適当に選んだ。

 ドラゴンバスターは、最近のネットゲームでは珍しく、一アカウントの課金で、一キャラクターしか作成出来ない。その分、全てのスキルを使用することが出来る。


"ようこそ、ドラゴンバスターへ"


 ゲームを起動させると、メッセージとともに、金色に光り輝く飛竜が悠然と飛行する画像が出てくる。飛竜は自然に恵まれた山を遠目に見ながら、空を駆けていく。


チュートリアルもオープニング画像もいらない!


 美麗なオープニングムービーはまた続くか、竜二は即スキップした。

 まだ馴れ合いは早い。まず鉱山と森林を見に行ってみよう。


 竜二は掘りマクロ用のキャラクターでログインするど、さっそく鉱山から見学に向かう。

 鉱山はマップ上にいくつも存在するか、取れる鉱石は殆ど同じものだ。鉱山は既に数人のプレイヤーが一心不乱にツルハシを振るっている。

 森林では、数人小さなモンスターを狩っていたが、木を切っているものもいる。


 ますは移動魔法と拠点だな。ドラゴンバスターオンラインにも魔法スキルは存在する。特徴的なのは回復魔法と強化魔法が一切ないことで、魔法による力技でボスが狩れないようこれらの魔法は存在しない。攻撃魔法も地味で、属性攻撃と言われる炎氷水土風の魔法はあるが威力は一定で、ロッドと呼ばれる武器を装備しないと威力は上がらない。


 つまり、ことボス狩りにおいて魔法使いとは単なる遠距離攻撃キャラクターに過ぎない。ドラゴンバスターオンラインでは持つ武器によって使える攻撃動作が変わるので、各々得意武器に絞って強化していくのが一般的だった。

 魔法に話を戻すと、魔法には攻撃魔法の他に移動魔法がある。移動魔法はモンスターのいない地域ならば事前登録すると登録地点まで一瞬で飛ぶことが出来る。

 MPというステータスがないため、魔法を使うとスタミナが減るようになっている。スタミナは移動せずにじっとしているとすぐ回復するものなので、魔法はお手軽に使えるというわけだ。


 竜二は初期資金を使い、魔法スキルを習得する。スキルは習得すれば、全ての魔法が使える楽々仕様である。

 「スキル上げ、ステータス上げ、レベル上げがありません!」というのがドラゴンバスターオンラインの謳い文句であった。


 次に拠点であるが、最初は資金が無く家を建てることが出来ないので、冒険者の宿に設置された専用の宝箱を利用する。

 この宝箱だけは、容量が大きめに設定されており、当面はこれだけでアイテム収納には十分になっている。


 竜二は宝箱の前と鉱山に移動魔法の登録を行い、ゲームの接続を切る。

 まずは鉱山マクロだ。ふふふと彼は暗い笑みを浮かべ作業にとりかかった。

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