第3話 なぜミュージックビデオを撮影する事になったのか

「もう2曲目の準備は出来てるんですよね?じゃあ今度はちゃんとしたMV(ミュージックビデオ)も作りましょうよ。俺の持てる全力で作りますから」


古くからの付き合いであるカメラマンの友人は本当に嬉しそうな顔で笑っていた。


「ジャケはもちろんだけど、スチールも撮影して。出来る事は全部やっちゃいましょう。あの時京都で出来なかったこと、全力でやりたいんで」


彼の言葉で僕の脳裏に浮かんだのは、初春の頃まだまだ厳しい寒さの残る京都で慣れない和服で挑んだ地獄の撮影の事だった。お互いにまだ若く、無知で無謀で。今とそんなに変わらない。情熱だけあれば不眠不休で動けた、そんな時代だった。


「カクヨム底辺ユーザーの僕が何故2曲目の配信をし、尚且つMVを製作することになったのか」




六年程前に僕がソロ活動を始めてミニアルバムの製作に乗り出していた頃、界隈ではそこそこ有名な機関紙に勤めていたカメラマンの友人が色々と世話を焼いてくれた。


売り出し中の若手として特集を組んでくれたり、ジャケのデザインから撮影まで本当に助けてもらった。


そしてその時上がった話題がMVを撮影しようという事だった。当時は今ほどインディーズやらアマチュアやらがyoutubeに動画を上げている時代ではなかった。たかが六年前だが今思い返すと時代を感じてしまう。僕は愚かにも、軽い気持ちでその友人にMVの話をしてしまった。友人はしばらく頭を悩ませたあと、「ようがす、やってみましょう」と言ってくれた。


無知でアホタレな僕は初めてのMV撮影という事で浮かれきっていた。しかし友人は裏腹に前日まで試行錯誤していたそうだ。何故なら彼は、写真にはそこそこ自信を持っていたが動画を撮影するのは初めての事だったからだ。


「当時はちょっと簡単に考えていた事あるけど、何より他でもない君らに頼まれて出来ないって断ってしまう自分が悔しかったんだ。だから出来るだけやってみようと思った」


彼は後に恥ずかしそうにそう語っていた。


そんな苦悩があったとはつゆ知らず、僕は浮かれ気分で撮影に臨んだ。当然というか何というか結果は散々たるものだった。ロクにロケハンもせずぶっつけで挑み、ノウハウも持ち合わせていない素人だらけのチーム。不眠不休で丸一日使ったにも関わらず、結局MVは完成に至らなかった。


それが六年前である。


今思うと友人には本当に申し訳ない事をした。結果的に「出来なかった」という事実が彼の心に深く残ってしまった。しかしただでは転ばないのが彼の良いところである。


彼はそこから一念発起し、動画の撮影や編集の勉強を始めた。僕が六年間、鼻くそをほじりながら過ごし時々思い出した様に音楽をやっていた頃。彼は勉強に勉強を重ね持ち前のセンスと努力で遂に動画の仕事が来るレベルにまで成長していた。国内はもちろん、海外アーティストの日本版MVの編集などにも最近携わったそうだ。


マジですげえ。


これに尽きる。


そんな男が僕らのMVを撮影してくれるというのだ。


何故そこまでやってくれるのか聞いてみた事がある。


「単純に君ら好きだってのもあるけど、俺にとって君たちとの出逢いは全てのきっかけになってる。そういう意味で本当に感謝してるんだ。感謝の気持ちを忘れたくない。それに、あの時の京都で撮影したのが完成できなった事が今でもやっぱり悔しいんだ。俺はいつか君らが復活した時に全力でサポート出来るようにって、それだけで動画の勉強をしてきた。仕事が来るようになったのはその結果に過ぎないよ」


クリエイターとは、人間とはかくあるべきだと思えた。本当に凄い男だ。信念で生きている。自分も遅まきながら、彼のこの根性を見習っていこうと思った。


こうして僕らは合計三日間に及ぶ撮影を終え、後は編集の完了を待つだけとなった。


しかし残った問題が一つあった。


普通、僕らの界隈では曲をリリースしたらリリースパーティーというのを催すのが通例になっている。通称リリパだ。しかし、長い事活動を縮小していたしライブや練習スタジオに入る時間もごく限られている。しかしいきなりリリパをやったところで、今の状況ではロクに人は集まらない。ではどうするか、だった。


そこはネット社会、現代ニッポン。解決策はポケットの中にあった。


その話はまた後日。最後まで読んでくれてありがとうございました。



このエッセイの1話目でも書いたが1stシングルはすでに配信済みである。ここで書いたMVは今月末の配信を予定している2ndシングルのビデオという事になる。配信が始まると同時にMVもyoutubeに投稿する予定なので是非視聴してみて欲しい。そしてもしも気に入ってもらえたら楽曲の購入を検討してみて欲しい。一曲150円である。500mペットボトルジュース一本分に相当する。安くはない。しかしそこに込めたそれぞれの想いを少しでも感じていただけて、かつ共感してもらえれば幸いである。もちろんMVの視聴をしていただくだけでも歓喜の極みである。

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