プロローグⅡ 監視の檻

 大学を卒業した私は、現在無職だ。


 もちろん理由はある。

 私は身体の状態があまりよくないのだ。

 生活リズムも極力崩さず、睡眠や食事は規則正しくとらなくてはならない。



 都合が悪いことに、私は調子が悪くても、どの程度悪いのかを自分で把握できない。

 痛みや味覚も、感じた瞬間しか覚えていない。


 私はいえに閉じ込められるという、ある意味残酷な未来が待っている。

 徹底した管理のもとに、生かされる。

 でも、そんなの嫌だ。


 今はまだ、定期的に外出する権利を与えられている。

 しかしこの権利は近い未来に無くなるのだろう。


 そうなって、現実に絶望してしまう前に。

 生きる・・・ことを諦めてしまう前に……何かを見つけたい。

 ただ生かされるなんていうのは、死を待つのと同義だ。

 心はきっと早々に死んでしまう。


 ……そんなの嫌だから。


 私はその一心で、唯一自覚している好きなもの──"綺麗"を求めた。

 ……そこに、希望を見つけるヒントが隠れている気がしたんだ。



 大学を卒業した私は、"家庭の事情"で滋賀に引っ越した。それまではずっと北海道にいた。

 引っ越し先が滋賀なのは、数年前に亡くなった遠い親戚の邸宅を譲っていただけたからだ。


 ……私にとってはその邸宅こそが"檻"そのものであるのだけれど。



 さぁ、季節は秋。明日は外出デー。

 滋賀に引っ越してこれてよかった。

 北海道よりも簡単に、色々な場所に行ける。



 ───明日、私はきっと京都にいる。

 

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