騒がしい訪問者


━━ドンドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドンドンドンドン!!!!



早朝、けたたましいドアノック音が響く。明らかに素手で叩かれた不規則音。


「……うるさいわね。誰かしら? 」


一分もせずに音が止む。ナンナが即座に対応したのだろう。


━━コンコン


ややあって部屋の扉が控えめにノックされた。早朝であるがための、主への計らい。


『お嬢様、おはようございます。ハンベルグ男爵のご令嬢様が、お嬢様の………お待ちくださいと申し上げたはずですよ! 』


いつも冷静なナンナが扉の向こうで声を少し荒げていた。それもそのはず、ドアノックもけたたましかったが、ヒール音もけたたましく階段をかけ上がる音がした。ご令嬢にしてははしたないことこの上ない行為だ。


『ことは急を要しますの! アンジェリーク様?! いらっしゃいますわよね?! さっさと開けてください! 』


今度は部屋の扉まで叩こうとしている気配がした。


『ご用向きがなんでごさいましても、こちらの主はアンジェリーク様です。はしたない行為は御遠慮くださいませ。フェリシア様』


アンジェリークは溜め息を一つついた。


「お騒ぎにならずとも、聞こえております。と日本のことわざにもあるでしょう? 少しお待ちなさい」


ややあって、ガチャリと扉が開く。ネグリジェにカーディガンを羽織ったアンジェリークが出てくる。


「おはようございます、フェリシア様。子女らしからぬご行為はさておき、中にお入りください。ナンナ、ハーブティーをお出ししてあげて」


「畏まりました」


無駄のない動きでその場を後にする。扉を大きく開け、フェリシアをいざなう。


「し、失礼しますわ」


促され、白を貴重としたアンティークチェアに座る。

すぐに扉をノックする音がした。


「はい」


「お茶をお持ち致しました」


「ありがとう、どうぞ」


アンジェリークが扉を再度開く。


「お嬢様、お手を患わせて申し訳ありません」


「いいのよ、ナンナ。急ですから」


ナンナがティーセットを丸テーブルに置き、アンジェリークのチェアを引く。静かに座る。


「……それでは伺いましょうか、訪問のご用件を」


滑らかな所作で紅茶を淹れていくナンナに合わせて口を開く。部屋に通されてから不躾だったと思ったのか、大人しくしていたフェリシアが咳払いを一つ。


「はい。まずはご無礼致しました。申し訳御座いません」


「いえ、性急の事態でらしたのでしょう? お話しください」


やってきた時と変わり、しゅんとして可愛らしい。いつもの彼女は溌剌はつらつとしてはいても、礼儀を重んじ、華のある美少女。今は顔面蒼白である。余程のことがあったに違いない。

しかし、相談しに来たにしては不躾で、そこまで親密な関係でもないのだ。

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Killing Beauty 姫宮未調 @idumi34

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