一話惚れ

 いつの頃からか、あなたと頻繁に電話をするようになって。

 こっちからかけることもあれば、あなたがかけてくれることもあって。

 いつもリダイヤルでかけるから、電話帳を開く必要もなくなるくらいになって。


 電話で話すときは、最初にだいたいこうやって聞くよね。

「ねえ、いまなにをしてるの?」

 って。


 するといつもあなたは言う。

「呼吸」


 笑うのをこらえながら、仕方ないから質問を変えるよ。

「じゃあ、いまどこにいるの?」

 って。


 するといつもあなたは言う。

「地球」


 そんなくだらないことを。

 平気で言う。

 本気で言う。

 そんなことが何故だか妙に愛おしくて。


 だから僕は言ったよ。

 恥ずかしい気持ちを我慢して、正直な気持ちをそのまま言ったよ。

はなしたくない」

 って。


 すると微笑ってあなたは言ったよ。

「じゃあ電話切ろうか」


 そんなくだらないことを。

 大人気なく言う。

 自慢気に言う。

 こんなことも何故だか妙に可愛らしくて。


 あのとき目の前にあなたがいないことが、どれだけもどかしかったことか。きっとあなたには、わからないだろうね。


 この現象のことを、なんて呼べばいいかな。

一目惚ひとめぼれ」じゃないから。

一話惚ひとわぼれ」とでも呼ぶことにするね。



 とにかく。これが。

 僕があなたとずっとはなしていたいと思ったときのこと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る