第24話 それから
俺は今でも龍と名乗っている。羽がなくても飛べるように。
「生きててよかったよ」
あの時殊羽は俺にそう言った。そして男2人で泣いてるところにせんせいがやってきて、突然呪いの元の話を語り出した。俺らが泣いているのを見かねたのかもしれない。本当のアスカとシューの話。そうしてせんせいは俺にも話をしてくれた。
フィフスとセカンドのお兄ちゃん
あんたにはよくお辞儀してたんだぜ?
施設であんたを見てた
あの頃より、あんた
楽しそうに笑えるようになったじゃないか
悲しそうに泣けるようになったじゃないか
今やっと子どもになれたんだな
そして大人になったんだな
大きくなったなあ
せんせいと名乗るその人は裕太の父の友人。つまり紅来羅と白井泉の両親だ。死んだはずだが、不死身なんだっけか。名前はユウジ…ユージン、まさか友人からきてるんじゃ…ま、まさかな。それを裕太が情報屋のコードネームとして使っていた。だからバッジで聞いていた裕太も、逃げずに説明しろよと怒っている。ユージンはペラペラと話した。裕太とも話した。
そして呪いの元の赤と青だ。彼女らは再び体に収まった。秘密の隠し部屋は歓喜の声に包まれた。以前よりもその力が薄くなり、他の呪いも弱まっていた。これから彼らは普通の人になっていく。彼女らが一時的でも1つになろうとしたことも影響しているんだろう。歩み寄った結果なのだろう。しかしせんせいは、
「オトナになろうとしたのさ。さてと、そんな子どもには、俺みたいな大人は邪魔だ。まあこうなると俺が消えるのもあと少しだな。また影の薄い男に戻るか」
と呟いたのを最後に見当たらない。そのことにまた裕太が腹を立てていた。もう1人怒っているのは桜玲だ。
「全く正体に気づかなかった、変わった大人だとばかり思ってたのに。呪いのことや姉さんたち2人のこと、もっと早く教えてくれてもよかったじゃないか」
「本当っすよ」
「大人になれば呪いは消えるなんて、そんな簡単な話、悩んだ僕がバカみたいだ」
「会長、ばっかでー」
「裕太いいんだ、もう僕はバカでいい」
「全校生徒が泣きますね」
それからなんやかんやで平和になった。呪いで悩む必要も、よくわからない将来の不安も少し軽くなった。今俺は電車に揺られている。妹の飛鳥、いや我らがお嬢様からクリスマスパーティーを開催するとの招待状が届いた。場所は第二講堂、衣装はこちらで用意する。時刻は夜の月が輝く頃。みんなと一緒に向かっている。
「すいません、以前でしたらひとっ飛びだったのに」
「今チカラ使ったら赤ぐったりだもんね」
「泉、赤じゃなくて優でしょ」
赤は佐藤 優。白は白井 泉。名字と名前を勝手に作った。もうコードネームは必要ない。あっかんべーをする泉。傷の治りが以前より遅くて、着込んだコートの中はまだ傷跡が残っている。彼のあの白い髪は急に勢いをなくし、半分ほどが根本から黒くなっていった。いずれ真っ黒になるんだろう。
「ゆうちゃんだよねー!気にしないで。もっと笑って」
「そうだ、優は気にしすぎだ」
「泉くんも葉さんもありがとうございます!」
「空は言わなくていいのか?」
「言わなくてもいいんだよ」
黄改め、杉山空改め、時雨空も楽しそうに笑っている。空は時雨きょうだいと家族になりたいといった。葉も葉芽も大歓迎だった。まあお婿さんだな。いつか結婚式したいけれど、本人たちはきょうだいになったつもりでいるから、もう少し先にしようと思う。家族に変わりはないから。そして俺も闇月の性に戻らないかと飛鳥から言われ、俺は断った。
「あ、ボス降りる駅だよ」
「泉、もうボスじゃないよ。みんな準備して」
最寄駅からは木下が車で送ってくれた。長い車3台で道が完全に埋まっている。あいかわらず闇月はやることが派手だ。
「ぼっちゃん、お嬢様方お待ちしておりました。さあ準備しております」
「うわー!らいらっち!」
「しろろん、久しぶりー!!」
泉と優は今日もテンションの高い来羅ちゃんと乗り込んだ。泉ときゃっきゃっしている。
「空、と時雨きょうだい」
「おーシュウじゃねえか!俺もきょうだいになったんだぜ」
「いらっしゃい」
時雨三きょうだいは殊羽と。俺は飛鳥と爺と。
「お兄ちゃん、ようこそ!みなさんもようこそ!」
「早く行こう、みんなも待ってるから」
殊羽が急かして出発する。飛鳥とは一ヶ月ぶりだ。
「あれからずっと考えてた」
「何を?」
「きょうだいに戻りたいって言ったのに断られたから」
「あーあれね」
「私闇月やめる」
そんなバイトやめるみたいなテンションで。
「飛鳥、爺と話ししたか?簡単な話じゃないんだ」
「龍様、もう何度も話しましたよ。闇月は今はひっそりとしています。争いもありましたが分家もいます。すぐなくなる、消えるようなものではないと」
「私も分かってる。それと爺に話すのが恥ずかしくて優さんや葉さんとか相談乗ってもらってたんだけど」
2人も知ってる話、なのか。全然素ぶりがなくて分からなかった。一体何の話だ。
「私、殊羽が好きなんだ」
「よ、嫁にって…こと!?」
「うん」
「それ殊羽はなんて」
「…まだ、あのその、言ってない」
開いた口が塞がらない。
「だから爺は言ったんですよ龍ぼっちゃん。飛鳥お嬢様、せっかちで、お気持ちをお伝えしてしっかりお二人で話し合われては、と」
「爺うるさい、殊羽が私のこと好きじゃないのは分かってる。き、嫌いじゃないと思いたい。闇月家だっていうことも足かせになる気もする。それにお兄ちゃんには言わなきゃって」
「龍ぼっちゃんもなんとか言ってくれませんか」
「ぼっちゃんやめい。え、飛鳥ってそんな外堀埋めちゃう感じだったの?殊羽がもし断ったら闇月に戻るのか?」
「そしたら私は優さんの妹になろうかなって。葉さんも空が弟になるんだって。弟にしちゃ仲良すぎだと思うんだけど」
妹の発想がぶっ飛んでいる。
「そんな簡単にきょうだいになれるもんじゃ」
「なれるよ、お兄ちゃん。血のつながりなんて必要ない」
「そ、そういうことじゃなくてだな。あーもう、お兄ちゃんが殊羽にハッキリ言ってやるから、今すぐ言ってやるから、あれ開かない」
「走行中は車のドアは開きませんよ、ぼっちゃん」
「そんなことしたら殺すよ、お兄ちゃん」
「ぼっちゃんやめい!飛鳥怖い!」
〇〇〇〇〇〇
一方こちらは泉と来羅と優。
「あ、らいらっち傷残ってる」
「お互いにね。でも私残ってよかったんだ。そーそーがね、優しくしてくれる」
「らぶらぶだね」
「うん、泣いても慰めてくれる。あんなに暴れたのに大丈夫って言いながらも怒ってくれる、心配してくれる」
少し車が揺れる。
「俺も心配だよ、らいらっちのこと。玲はもう何もしてこないの?」
「もう、何度泉くんに言ってもダメなんです。来羅さんから話してください」
「そうなのゆーゆー?しろろんあのね、玲様はね、ろいなさんにふつうに生きて欲しかったんだ。お姉ちゃんにべったりだからね」
玲はできるなら自分も力を使わずに済むようにならないか考えていた。敵対していたのも、2人を1つにという考えはどちらかが取り込まれると思ったから。呪いを解く方法が分からなかったから。そう続ける優、そして来羅がちょっとモノマネを入れながら話す。
「ずっと玲様、せんせいに怒ってるよ。そもそも大人になったらなんて定義もあいまいなんだ、大人なんていくつから大人になったっていうんだ、とか」
「あ、でもそれ俺も思った!俺やらいらっちってみんなより長く生きてて、でも呪い解けなかったじゃん。髪は伸びるけど2人とも年齢に見合わないくらい幼いし」
「それは、その、私たちが願ってしまったから。このままでいたいと。すいません。ろいなさんもそう話していました。無意識に学校生活を楽しんでいたんだろうって、国の運営や秘密の生徒会や転校生、敵の存在。私もみなさんとの生活が楽しくてボスがいて秘密結社みたいで、共同生活や敵地に攻めるときは学校に行く。このままの幸せが続けばいいのにと」
「「謝らないで」」
優は苦笑いしながらまたすいませんと呟いた。
「俺も「私も楽しかったから」」
そこもまた泉と来羅がハモって、今度は3人で笑った。時雨三きょうだいと殊羽はずっと空の獣化がなくなるのは残念だという話をしていた。もふもふの耳がもったいなかった、と。最後にまたもふもふしたいという一同に空はもうやめてくれ、と涙目だった。
学校に到着すると残りの生徒会メンバーが出迎えた。皆ドレスを着ている。真が女性陣、男性陣は薫が誘導していく。
「女性はこちらに、制服とドレスで悩んだのですが本日はパーティーですので。またの機会に制服をぜひ!」
「私はいい、ここのセーラーは似合わない気がする」
「葉様、私も似合わないんですの!」
「それは葉の姉さんも真ちゃんもおっぱいでかっ痛い!!」
「ゆうたん、ちょっと黙ろうか。前にセーラー似合うって言った私への皮肉ね」
「ろいなさん…よくそんな昔のことを覚えてますね。何気にオレにばっかり暴力を振るってませんか?」
青いドレスに身を包んだろいなが、蝶ネクタイの裕太の頭をグリグリする。隣でビシッときめている宗治に車から降りてきた来羅が突撃した。
「来羅、痛い」
「そーそー、やっぱり短いほうがかっこいいね!」
「ありがとう、来羅も準備してこい」
「はーい!」
皆それぞれおめかししてパーティ会場へ。葉と黄が襲撃した第一講堂ではなく第二講堂で行う。本日は学校全体のクリスマスパーティで、龍御一行は遠い他校の生徒で、親睦が深いと説明されている。他に招待された学校生徒もいる。豪華な料理とクリスマスケーキ、そして余興は部活同士のコラボレーションとダンスパーティーがある。指定の席はなく、みなおもいおもいに楽しんでいる。一般の生徒達には今回のことは伏せてあるが、玲の雰囲気が変わっただとか、来羅が難しい話をしてる、裕太が教室に来てる、こんなお姿をしてらしたのね!などなど、今までの生徒会とは大きく違うことには気づいている。生徒からの何かあったのかという質問に宗治が簡単に答えた。
「そりゃ、いろいろだろ」
そう答える宗治も普段のクールさが消え、少しイタズラっぽい笑みまで浮かべる。悪くない変化にまた生徒会人気は増えそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます