第25話 おわりのおわり
次々と
月々と
突き突きと
尽き尽きと
〇〇〇〇〇〇
「こどもの国、おじさんは僕にそう言いましたよ」
「失礼よね、なんだか遊園地みたいじゃない?」
「姉さん、そのままの意味ですよ。僕らはこどもですから」
「じゃあ遊園地の国でもいいじゃない」
姉さんと少し昔、話したことを思い出す。僕はこの呪いとやらを早く終わらせたかった。姉さんはそうではなかった。姉さんも赤の姉さんもこのままでいたいと願っていたそうだ。僕と龍が散々悩んであがいていたことは無駄だった、そんなことはない。きっとそれも含めてこどもなんだろう。向こうの龍はもうおとなだと思っていたが、きっとそんなことなかったのだろう。あの施設でのあれこれを、その後の桜家、宗治が来てから、紅が来てから、彼を傷つけたことも、いろんなひとの記憶を抜いたことも、そのあとも。全部が僕ら、こどものあそびみたいなものだったんだろう。だってほら、もう忘れさせるなんてことできない。勝手に時とともに薄れていくだけ。今をきっといつか懐かしむだけ。あの頃こんなことができたっけ、なんて
コンコン
「はい」
「入っていいか」
「いいよ」
彼は僕を憎んでいる。僕が記憶を抜いた友だち。
「宗治、もう傷はいいのか」
「ああ、大丈夫だ。玲の方も平気か?」
「もうすっかりいいよ。ひどいことをしてすまない」
頭を下げる僕に、小さな舌打ちが聞こえる。以前の宗治には考えられないことだ。でも正直そういった変化が怖い。そして懐かしい。
「先輩舌打ち怖いっすよ」
そう言って宗治の影から出てきた裕太。僕が記憶を抜かなかった友だち。そうすると情報屋として利用できないから。それだけの理由。父親の秘密で脅した、彼の父は施設の情報をすべて把握していた。死因は病気だが、まあ僕と姉さんで追い込んだと言われたらそのとおりだ。そしたらあのせんせいは生きていると言った。僕はたいして何もできていなかったんだろう。まあ彼からも憎まれている。
背の高い宗治を見上げながら苦笑いするが全く無視している。
「玲、俺はお前を友だちだと思っている。ライバルだとも思っている。簡単に謝るなよ」
「暑苦しいのはごめんだ。でも簡単に謝ったつもりもない」
「髪、お前が切っただろうが。おかげでサッパリしただろ?」
「はは、」
冗談で言っているような口ぶりじゃない。宗治は僕が忘れさせていただけで元来喧嘩っ早くて、強くて怖くて、だから僕は彼をふぬけにした。だが宗治は別に怒りやすいだけの男でもない。あんなことがあったのに僕のもとにいる。まあ監視も含んでいるんだろうが。
「ちょっとちょっと先輩方!俺がいるの忘れないでくださいよ!?ドンパチしないでよ」
かなり本気で宗治の前に出る裕太。彼も変わった。こどもの国が終わることもあり僕が仕事を減らしたのもあるが、授業をのぞきに行ったり学校を散歩したり、ニクスと昼寝をしていたりする。
「裕太も変わったな」
「玲、お前も変わったよ。偉そうじゃないお前もいいって女子が騒いでたぞ。そういうの、弱気だったり涙もろいところ、まあ俺は元から知ってたが」
「宗治だって、冷たかったりクールだったのに、ずいぶん近寄りやすくなった。反面うるさくしてたら睨まれた。二重人格、生徒会は情緒不安定。キャラブレがひどい、とか」
「あーわかったわかったお前のほうが口は上だ。だがな力勝負だったらそうはいかないからな」
「だから!そういうのもやらない!」
「そうですよ、もう懲り懲りです」
「分かった、裕太もそんなに何度も言うな」
今度は冗談交じりだが、本当に戦うことになったら僕はあっさり負けるだけだ。僕にチカラなんてないんだから。
「二人とも面白いなあ」
「宗治、単純に怖いぞ」
「ふふ、弱くなったな。お互いに」
「お前はそんなことはないだろ?」
「そんなことあるんだよ。だから俺もありがとうな」
今も変わらず強い宗治に言われてもいまいちピンとこないが、僕は苦笑いをする。化け物だった僕にできた友だちは、僕が変えた。やっと友だちに戻った彼らは僕を憎んでいる。
「まあでも変なことしたら、俺が殺してやる。それくらいの力はあるから」
「ああ、お前が怖くて何もできやしないよ」
「もうホントにそういうの止めてくださいってば」
そうして僕は友だちと笑う。そんな普通のことがすごく嬉しくて懐かしい。
〇〇〇〇〇〇
少し前。いろんな人がいろんな人と再会する。
「ねえそーそー!らいら生きてる。ちゃんと覚えてるよ?何をやったのかも、何を言ったのかも!」
「あ、来羅さん待って!」
ここは玲の家の療養スペースの一室。そこには来羅と宗治がベッドにそれぞれ横たわっていた。医療班として薫や真も参加しており、ここには薫がいる。
「待てないよかおるん!私、ひどいことたくさんした。しろろんにも謝る。だけどまずはこの人、こんなになってまで、あんなに記憶を抜かれていたのに折れない剣のまま」
薫がいつもと違う来羅に焦っていると、裕太がやってきた。
「かおるんごめん、あっち見てきてくれる?」
「いいえ、僕もここにいたいです。何があったか知りたいです。まだ手当も終わってないし、いくら体が丈夫なんだとしても、今は安静が必要です」
「かおるん、どっちかってと今は心の方かな。知らなくてもいいこともあるよ?」
「知りたいというより、僕にできることをやりたいんです」
「あー、いやいやちょっと耳かして」
何やら耳打ちする、薫は真っ赤になって急いで出て行く。裕太も後に続く。
「らいらっち、白は大丈夫そうだよ」
「ありがとう。本当にいつもありがとね」
「ほどほどにしてあげなよ、先輩もらいらっちも重傷だからね」
「うん」
生きてる、来羅はまた小さく呟いて、包帯だらけの宗治の胸に耳を当てる。
「とくんとくん、早いね」
「…どけ重い」
「…ねえ、私好きだよ。そーそーのこと」
「俺も好きだよ。だから、今度は忘れないから、忘れないでほしい」
「もちろん」
心配されていたよりはるかに静かに2人は再会を果たした。一方こちらは闇月家。
「ぼっちゃんと生きているうちにお会いできるとは!」
爺はドラゴンを見た途端、抱きしめた。飛鳥はそそくさとその場を離れる。
「じゃお兄ちゃん、二人で長話でもしてて」
「あ、飛鳥待って…!」
「というわけでドラゴンさん、私疲れたので飛鳥さんと行ってきますね?」
「飛鳥お嬢様、優さんをよろしくお願いします」
「もちろん、よかったな爺やっと会えて」
「ええ」
「え、待ってよ、あすかあああ!」
コードネーム赤、改め優は時々闇月の雇われメイドをしていた。呪いが解けた今、彼女の力は若干弱くなった。嫌がるドラゴンを無理やり連れてきたため、疲労を訴え飛鳥と場所を変えた。ドラゴンたちも来客用の部屋へ。
「改めて羽月ぼっちゃん、いえ、今はなんとお呼びしたらよろしいですか?」
「龍、と呼んでくれれば」
「龍ぼっちゃ、
「ぼっちゃんやめい。爺、俺は合わせる顔がないんだよ」
「じゃあこちらを見なくても結構です。その大きくなられた背中だけでも充分。爺は嬉しい」
本当に顔を見ようとしないドラゴンに、爺はそれでも優しく微笑む。
「木下、飛鳥を守ってくれてありがとう」
「こちらこそ生きていてくださってありがとうございます」
「葉から聞いたよ、親父のやろうとしてたこと。一言言ってくれたら協力できたかもしれないのに」
「旦那様は闇月や自分がなくなっても羽月ぼっちゃんが生きる術を考えていました。奥様には一切言わず」
「飛鳥、大変だったろう」
「ええ、旦那様は飛鳥お嬢様と奥様を引き離して、決して姿を見せないようにしました。それでもお母さん、お父さん、お兄ちゃんと。記憶をたどっている姿を時折見ておりました」
「分家との本格的な内乱の前に飛鳥と殊羽を助けたつもりでいた」
「やはりあの爆風は…」
「優がやったんだよ。あれでだいぶいざこざがなくなったろう。家から引き離してでも暮らせるようにと思ったんだけど」
「気味が悪いと言われてましたが。まあそれでもお嬢様は闇月性を名乗ることだけはやめませんでした」
「俺を探していたから、だろう」
「…ええ」
「生きてるのに死んだふりしたままで、ごめん」
「本当にひどい人ですよ、それでもあなたを守れなかった爺に何も言う資格はありませんが」
爺はドラゴンに深々とお辞儀する。慌てて頭を上げようとするドラゴン。
「何してんだよ、木下!」
「またこうして話せているのが嬉しくてたまらないです」
「うん」
「飛鳥お嬢様もですが、あなたもいい笑顔になりましたね」
「うるさいなあ木下まで」
〇〇〇〇〇〇
雲が月を隠す。そのうち月明かりも尽きて真っ暗になった。そんな気がした。
「ねえ殊羽、私」
「ふふ、飛鳥ちゃんなんでそんなに泣きそうな顔してるの」
「だって」
「だいじょうぶ?」
殊羽は私が隠した顔をあげる。お兄ちゃんのようだと思っていた笑顔、今ではお兄ちゃんとは違う。好きな人の好きな笑顔。
「私、殊羽のことが好き」
「俺も飛鳥ちゃんのこと好きだよ」
月の明かりも彼の笑顔も眩しすぎなくて、優しく包んでくれる。
「ねえ」
「なーに?」
「私闇月やめる!」
「え、それ爺に言った?そんな簡単に…」
「ふふ、お兄ちゃんとおんなじこと言ってる」
次々と
月々と
突き突きと
尽き尽きと
いろんなことが終わって
いろんなことが始まっていく
おわりおわりそろそろおわり
そろそろはじまりはじまり
つきあかりもつきて 新吉 @bottiti
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