第17話 さいかい

 物語は突然ページをすっ飛ばして進み始めた。赤と青は今頃何を話して、何をしているんだろうか。紅と蒼が、緋と紺が出会う時。こんなに早く始めてしまってもいいのだろうか。世界は急に不安定になってしまった。水面下の戦いがいつ泥仕合になるかわからない。



「ドラゴン」


「葉芽?どうした?」


「悩みすぎじゃないか?ヒドイ顔だった」


「そうか?」



 俺の部屋に入ってきた少年。ノックもせずに、ドアすら開けずに。



「僕のところへ初めて来たとき以来だ」


「そんなにひどかった?」



 たまに愚痴ったりしている。



「ドラゴン、なんか急に、くっ」


「葉芽どうしたんだ?」


「苦しいんだ、ここが、」



 葉芽が胸のあたりをぐっとつかむ。慌てて背中をさする。さ、さする?俺と同じ驚いた顔の葉芽が俺の手に触れて、次に頬に触れた。



「触れた」


「お、おう、ってなんで!?」



 声がでかいと自分でも思った。赤から苦情が、ああ来ないんだった。なんでか、それは赤と青がいないくて紅と蒼が出会ってるから。呪いの力の大元がそばにいると力が弱まる。でもそれだけじゃだめだ。どちらも混ぜなくてはいけない。向こうは力が欲しいから赤を殺す気でいるけど。



「ドラゴン。なんでかはわからないけど、姉さんに会ってきてもいいか?」


「なんで俺に聞くの?いつもそばにいるのに」


「いや、どうしたらいいか」


「急に人らしくなったな。すごく嬉しい。葉芽!ちょっとお前俺より背高いんだな」



 いつもふわっとしてるからよくわからなかった。葉芽の戸惑いもわかる。葉の部屋にいっしょに行ってみるか。



「行くかい?」


「ああ」








 ○○○○○○



 




 僕は時雨葉芽だ。花姉は僕の目の前で死んだ。葉姉の目の前で僕は殺されたと思った。でも生きていた。生きてしまった。そのせいで姉さんは僕を探し続けている。僕はここにいるのに、そばにいるのに。


 ドラゴンとはウヅキの時に会っている。施設で初めて会った時、それがウヅキが施設を壊した時だった。ウヅキは何人かの子どもたちと協力して僕のケースを壊した。その時手を握って起こしてもらった。ヒドイ顔だった。これから、施設を壊すことを何度も悩んで決めたんだろう顔だった。それから僕も暴れた。実際ドラゴンは初めのきっかけを作っただけだ。初めのきっかけ、片っ端から研究員を殺し、片っ端から実験ケースを壊していった。そして僕は姉さんを探して探して探して、探しながら生き残った動く白いものを殺して回った。触れたのはドラゴンだけだった。ガレキをすり抜けて、逃げ惑う実験体をすり抜けて、姉さんを見つけた。呆然と立っている姉さんを見つけた。その姉さんに抱きつくことができなかった。何度やってもすり抜けて、何度呼んでも僕を見てくれない。姉さんの目は何も映していなかった。だからやがてフラフラと歩き出した姉さんにただただついていくしかなかった。



「葉芽、ついたよ?俺はここで待ってるけど」


「ああドラゴン」


「ん?」


「ありがとう」


「はは、葉もそれくらい素直だったらいいのに」


「たぶん姉さんも素直になったよ。今日僕のことを黄に聞いたんだ」


「そうか!黄に聞いてみよ、じゃまたなあしたな葉芽」


「また、あした」



 僕はドアをノックする。ここにノックして入るのは初めてだった。



「誰だ」



 あ、なんて答えたらいいんだ。ドラゴンはもういない。



「・・・」


「ドラゴンか?赤、なわけないな」



 そう警戒しながら戸を開ける姉さん。



「・・・」


「・・・」



 夢でも見たと思ってるんだろう、姉さんのことだから。



「姉さん?」


「ドラゴン?別に今は」


「姉さん、久しぶり」



 ドラゴンのおかげで出会えた時から涙はもう流れると止まらなくなる。



「っ葉芽!!」



 抱きしめられるぬくもりのあたたかさに。



「姉さんっ」



 また涙があふれる。






 〇〇〇〇〇〇






「いいよー」


「待って待って、白じゃない」


「えー!!なんで?」


「白だと殺しかねないでしょ?赤いないんだから」


「あそっか」


「この役目を黄!君にお願いするよ、今回は一人で行って」


「あー」


「どうした?嫌なの?」


「いいけど、俺でいいのか?」


「うん。葉と葉芽だと固すぎるからちょうどいい」


「わかった」


「何か黄、落ちついたよね」


「うっせーよ白、行ってくる」


「いってらっしゃい」


「いってきます」



 黄もちゃんとあいさつするようになったなあ。ふと思い出したのは飛鳥のところに仕事に行っていた時のことだった。


 おかえりなさい

 そう言って飛鳥は俺を待っていた

 ここは俺の家ではないのに

 いってきます

 そう言って俺は家に帰っていた

 おかえりなさい

 そう言って木下さんは俺を待っていた

 ほとんど毎日来てたっけ



「どうした、ドラゴン?」



 葉が俺を伺うようにのぞきこむ。葉も葉芽もきょうだいを施設で奪われた。俺はきょうだいを施設で創られた。



「ドラゴン、やっぱり赤がいないとダメだな」


「はは、だからそれを言うなよー」


「家族だから、いなくなってダメになるのは当たり前だ」


「それはそうだけど葉芽はドラゴンを甘やかしすぎ」


「姉さんは厳しすぎ」


「はは、葉芽は優しいな」


「ボス!俺は?」


「白はいじわる」


「ボスの方がいじわるだよー」


「うそうそ、すねんなってー」



 家族か。親父もおふくろももういない。飛鳥だけ、ああいや、



「そういえば木下さんはどうしてるかな」


「木下さん?」


「ああ、闇月に代々仕える執事だよ、俺の教育係をしていた人なんだ」


「たいへんだったろうな」


「まあそうだな、いろいろ迷惑かけたな」



 そうして俺は木下さんとの思い出を語る。ああでも、会いたいけど会えないな。会わせる顔がねえ。



「会いに行きたいなら行けばいいじゃないか」


「葉芽、簡単じゃないんだよ」


「少なくとも姉さんより簡単だ」


「ごめん」


「いや、責めるつもりはない」



 俺は、でもまだ会いに行けない。俺はまだこいつらを、殊羽も飛鳥を助けられていない。だから俺はまだ死ねずにいる。まあそんなのは言い訳にしかならないけれど。



「まあ、彼が生きていてくれるならそれでいいよ」


「そうか、そうだな」



 俺のしたことは本当によかったのだろうか

 いつだって堂々巡り

 繰り返し繰り返し

 輪の中をぐるぐると廻っている

 終わらない夢の中

 尽きない明かりを手に持って

 俺は飛べなくなった

 飛びたくなくなった

 いや、はじめから闇月の中で

 飛んでなんていなかったんだ

 飛んでいたような気がしていただけ

 飾りだけの羽がついていただけ

 いつのまにか羽だって失くして

 月明かりも尽きて

 探す気さえ失せて

 俺はそれを捨てた

 やっといま

 俺には足もあることを思い出したのに

 そんなときに君は

 いなくなってしまうんだもの

 赤い赤い空を見ると夜になるのが怖くなる

 君がいない夜になる

 ああ暗くなっていく

 黒に飲み込まれていく




 


 ○○○○○○






 夜の街。住宅街の屋根の上を影が走る。跳ぶ。街灯の上に立って、それは県営住宅を見上げる。ベランダに洗濯物が干しっぱなしになっている部屋もあれば、もう深夜だというのににぎやかに飲み会をしている部屋もある。一つの部屋のベランダまで蹴り上げ飛び移る。電気はついていた。


 とん、とベランダ端に降りる。そこに座り足を下ろしぶらぶらとする。電気の明かりでその姿が照らされる。毛むくじゃらの身体。上半身は毛だらけの身体がむき出しで、ビンテージもののようになってしまったジーパンをはいている。ボロボロもいいところだ。耳にはピアスがいくつもついている。先がとがった長い耳によく似合うがピアスはとても小さく見える。彼が飛び降りベランダにあぐらをかくとちりりん、とそれらは鳴った。さらに鼻を鳴らして呟く。



「くんくん。ここだけど、この姿で来ない方がよかったかな」



 彼は黄。ドラゴンにつけてもらった名は空。獣と実験され自分の意思で半獣になれる。目的地に着いたはいいもののどうしようかと迷っているようだ。窓がガラッと開き、部屋の主が現われる。



「あれ、変わったお客さん。よかったら上がります?」



 殊羽がにこにこと笑いながら空を誘う。



「ここでいい」


「誰かに写真でも取られたら面倒だから」


「わかった」



 そういって窓から部屋に入る。断りもなしにソファに座る。



「いや、驚けよ!?」



 爆笑しながら殊羽が返す。



「ノリツッコミって、お前やっぱ面白いな!」


「ま、いいけどさシュウ、」


「黄だっけコードネーム?」


「そうだけど、空って呼べよ」


「なに、友達にでもなるの?」


「うーん、まあそんな感じだ。今日はお前に話すことがあって来た。けど今いい?」


「おお、別に用事とか入ってないよ」



 笑いながらお茶を出す殊羽。その前に、と殊羽が立ち上がり空の前に両手を出す。それは覆い被さるような格好にも見える。



「今日は殺し合いはしねーぞ?」



 少し警戒した様子の空にいつもの調子で殊羽が笑い返す。



「俺だってこんなところでドンパチしたくねえよ、ナンバーズのやつなんかと。ちょっとお願い事」


「あんだよ?」


「俺、動物好きなんだよ、耳さわらして」


「嫌」


「えー」


「ま、本題だけど」


「うん」


「お前施設でのことどれくらい覚えてる?」


「ずいぶんあっさり聞くな」


「だってさっきナンバーズって言ってたし、覚えてるんだろう?フィフスって覚えてるか?」



 そこで殊羽の顔色が変わる。空も気づいたようで、様子をうかがう。



「フィフスは、俺が殺した」


「そうか、あれ、お前がやったのか」


「俺も記憶が所々曖昧だけど、」


「そっか、でも話はフィフスがメインじゃないんだよ、フィフスと一緒にいた男を覚えてないか?」


「男?」


「少年かな、下手くそに笑うやつだった」


「お前は覚えてるのか?そいつのこと」



 面白そうに笑って、説明する空。



「フィフスがそいつをみんなに紹介して回ったんだよ、そいつは俺らとは違ってフツーのニンゲンだからよ、たまに来るやつ。奴には仕事があった。お兄ちゃん役だ」


「お兄ちゃん」



 空の言葉を復唱しながら考え込む殊羽。その様子を見ながら立て続けに言う。



「その男ってな、俺らのボスなんだよ」


「ドラゴンか?」


「そう。ドラゴンも俺らのあの施設にいたんだ、お前に会いに行ったことがある。そしてドラゴンが壊したんだ、あの施設を」



 空がお茶を飲む。長い爪が少し邪魔をして、苦笑いしながら殊羽に文句を言う。



「お前なちょっと考えて茶出せよ」


「なんでそれで来たんだ?本気ってそれだろ?」


「これだと速いんだ。それに、本気だしな」


「お前も実験、というかあそこにいたやつはみんなか」


「そうだな、シュウも中では変わってる方だと思うけどな」


「俺?正直言うとどんな実験をされてたかなんてあまり覚えてないんだ」


「そらな、俺もはっきりとは覚えてないけど結果がこれだからよ」



 いったん区切って、続ける。



「お前はドラゴンの親父さんに創られたんだとよ」


「創られた?」


「俺も最近知ったことだから詳しくは知らねえけど、そうらしい。だからお前ドラゴンと似てるんだよ」



 殊羽が眉間にしわを寄せ、空の姿を眺めながら言う。



「それが本当だったとして、それを俺に言ってどうする?」


「そう、それが本題だ」



 ビシッと殊羽を指差して空がソファから立ち上がる。



「俺らの味方になってほしいの。今強い刀の兄さんのソージのところにもユータさんが」


「裕太さんって」


「ああ、俺らの仲間」



 さらに眉間にしわが寄っていく殊羽に笑いかける。



「ま、だから詳しい話はユータさんかお兄さんから聞くことになると思うぜ?俺は今日、シュウにドラゴンのこと話すのと仲間にならないかってのがメインイベントだから」


「帰るのか?」


「はは、帰るよ。あ、そうだ」



 獣の身体がぶるぶると震える。殊羽が驚き、心配そうに肩に触れる。



「おい?っ熱!大丈夫か!?」


「ガゥ、ウゥ…ちょっと、待って」



 はーっと長い溜息をついたかとおもうと、長かった耳や指、爪、鼻先が元に戻り毛むくじゃらの身体も元の人間のものに戻っていく。



「っ、はー」


「水、飲むか?」


「さんきゅーシュウ、」



 一気に水を飲み干すと、殊羽が頭に手を置いた。



「どうした?」


「いや、つらいか?」


「もう慣れた」


「そか。えとなんで?そのまま帰らないの?」


「俺の獣化、まだ見たことないやついるんだ」


「な、仲間に?」


「ああ、秘密の切り札だからな。それにあんなかで1番弱いし、」


「そうなのか?…服貸す?」


「頼む、上だけでいいから」


「いや下もボロボロ過ぎでしょ」



 着替えを済ませて空が帰るころにはにぎやかだった一室の飲み会がお開きになっていた。



「じゃ、シュウまたな」


「おう」



 普通に玄関から帰る空。玄関を閉めようとしたときまた空が戻ってきた。



「忘れ物?」


「俺、ニット帽君じゃないから!帽子好きなだけで」


「はは、それ言いに戻ってきたの?」


「ああ、それじゃまた」


「帽子も貸す?」


「いらねーよ」



 ニッと笑ってジャンプして消える。空の階段を飛び下りるリズミカルな足跡が聞こえなくなるまで殊羽は玄関にいた。



「また、なんだな。てか面白いヤツ」







 〇〇〇〇〇〇






 旦那様がなぜ殊羽様と飛鳥様を創ったかをお話しする必要があります。


 そしてその前に旦那様がどのようなお方であるか、闇月家がどのような家であるかお話します。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?


 闇月家は代々殺しの技術を受け継ぐ財閥であり、数少ない裏の世界と文字通り直接つながっていたのです。だから旦那様はあの施設へと繋がりぼっちゃんも施設で仕事をすることになりました。ぼっちゃんも彼なりに調べてどうやら噂の方を信じたようです。闇月家が人間兵器を作っていると、化け物と人間が共生できるかの実験を息子がしているという。


 旦那様は闇月家がお嫌いでした。彼は闇月家を壊すことを目論みました。ですが彼は家族を壊したかったわけではありません。闇月家という枠組みを壊すおつもりで計画を練っていたのです。しかし不器用な彼の計画は最初からうまくいくはずのない無謀なものでした。私は彼の口から直接その計画内容を知ったのです。晩酌に付き合っているときでした。



「木下お前、代々この家に仕えてきた伝統を父より何と聞いている」


「使命であると聞きました」


「そうだな。私の父とお前の父は満足げだった。生まれてきたときにもう既に決まっている、と。進むべき道も、死ぬる場所も」


「生きる場所も死ぬ場所もおそばで」


「俺はな木下。正直この家をなくしたい」


「それは誰かに話しましたか?」


「いやその頃はまだ若かったからから父上の教えが絶対だと思っていた。だから今はじめて酒の力を借りてお前に話している」


「なくす、というのは?」


「ははは、まだ決めてないよ。ただ分家も必要ないから内輪もめなんかがいいんじゃないか?」


「殺し合う、ということですか?」


「違うよ、いらないものを消すだけだ」


「いらないものですか」


「闇月家がなくなればお前の人生も自由になる」


「・・・・・・」


「一つ考えていることがある。それについてお前の意見を聞きたい」


「はい」


「いらない家族を創ろうと思う。その家族に悪役を任せる。そして、」


「旦那様、」


「まだ、途中だ」


「申し訳ございません」


「そしてその子と一緒に俺は死ぬ」


「え!?旦那様が?どうして?」


「当たり前だろう俺がいたら闇月家は続けるしかない」


「それは」


「いらないものは俺だよ」


「奥様と、羽月ぼっちゃんは?」


「家というのは縛りだ。枠組みであって人じゃない。俺はそう思う。家がなくなっても家族はいる。だから闇月じゃないどこかで暮らしてほしいんだ」


「そんな」


「まあ俺が死んだだけじゃ羽月を当主にして闇月家を続けようとする輩がいるだろう、ま、何とかそいつらを殺せでもしたら話は別だが」


「旦那様、悪人がそいつらを殺せばいいではありませんか」


「一番の悪人の俺が生き残るのか?悪役を作ってまで面白いな。娘にでもするかな。ああでも羽月に似てる奴の方がいいか、一緒に死ぬのは」


「私はそんな計画、うまくいかないと思います。それ以前にどのように人を創るというのですか?」


「お前も言うようになったな。今、歳はいくつになった?」


「はぐらかさないでください旦那様、25です」


「羽月ももう13歳か。十分お兄ちゃんできるな、それとも姉弟にするか、どうしたものか」


「私が止めても旦那様はおやりになるのですか」


「羽月のこと、よろしく頼むぞ」


「ええ、羽月様は私がお守りします」


「俺はもう止まらない。意見を聞きたかったというより、言葉にしてみたかった。木下」


「はい」


「俺は狂ってるか?」


「いいえ、ですが嫌いです。妻と子どもを残して死ぬ父親なんて」


「は、お前の父のことを言ってるのか?そんなお前を縛るこんな家、俺は嫌いだ」


「ええ、私も大嫌いです」


「はは、お前は早く死ぬな」


「自分でもそう思います」



 そして旦那様は実行に移しました。無謀なことでも押し通すあの方は、羽月様に双子の姉妹を作られました。その片割れは性格に難があり好きなようにさせろと指示を出しました。もう1つの片割れは飛鳥お嬢様になりました。アスカの役目は殺すこと、もし闇月をどうしても続けたい輩が生き残った時の闇月役。まさか人体実験の末、人格を植えつけやすい検体を選んで作られるとは思いもしませんでしたが。そして羽月様とそっくりの男の子。旦那様は最終兵器という意味を込め、羽月様似の彼にシュウと名付けました。シュウの役目は殺すことでした。羽月様の代わりに悪役をする。羽月様に生きて欲しいから。闇月としてでなく生きてほしいから内戦でみんな死んだことにしようと。もちろん遺体はシュウの方で羽月ぼっちゃんを葬ったふりをして、影で私たちがそばに仕えていこうという計画でした。生きているのに死んだふりをして。


 旦那様は闇月家の伝統を壊すことに成功しました。闇月の血を継ぐものをなくすという意味で。飛鳥お嬢様は記憶の行き違いで両親から酷い仕打ちを受けました。ですが役目は果たし、家の仕事を続けました。そんな飛鳥お嬢様を見て旦那様は私に言いました。羽月は生きていると思うか、と。私は即答しました。死んでいると思います。死にたいとおっしゃっていましたから、と。旦那様は双子の片割れやシュウのことなど一切口にしませんでした。それからぼっちゃんの捜索をやめ、狂った奥様と2人で暮らし、やがて本当に深刻化した内乱の際に亡くなりました。


 ぼっちゃんに会ったら伝えてください。木下は今でも飛鳥お嬢様と殊羽ぼっちゃんといて、あなたを待っている、と。あなたに会いたい。


 生きているのに死んだふりをするあなたなんて嫌いだ、と。

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