第12話 すなお

「敵のアジトに潜入せよ!なんてね。どう動くか楽しみなあちらさんのことだ、一切抵抗されずに学校に行けると思うよ。這入るだけなら」



 ドラゴンから説明があった。こちらの少ないメンバー紹介みたいなものなんだと。赤と白、黄と私、最後のドラゴンは挨拶はしないらしいが。



「いってらっしゃい」


「いってきます」



 そうして私は出かける。今日は黄も一緒だ。今までドラゴンと赤とは一緒に買い物したことはある。今日は不安しかない。準備を終えた私を見てあからさまに嫌そうな顔をする。何やら不満があるようで動かない。



「急ぐぞ」


「うっせ」



 最近はうるせえじゃなくて省略するくらいによく言う。移動も赤と白のような荒業はもちろん使えない。ドラゴンが買ってきた目立たない服で電車で学校を目指す。リュックには赤に作ってもらった衣装と黄の替えの服。黄には弁当以外何も持たせていない。黄は帽子や飾り物が好きなようでいろんな種類のものを持っている。今日は野球帽といつものピアスとブレスレット。まあ年相応。通り過ぎる人から見れば私たちは姉弟にでも見えるのだろうか。切符を渡して教えたのに改札通らずきょろきょろする黄。真正面にいるというのに私を探せないでいる。



「こっちだ黄」



 思わずコードネームで呼んでしまった。ドラゴンがつけた名前なんて知らないしな。それに声が届かない。あいつさっきの聞いてなかったな、慌ててる。するとすぐそばを通り過ぎたもじゃもじゃ頭の男がなにか話しかけている。彼は笑顔だった。



「よかったな」


「うるせ、なんで教えねえんだよ」


「言った。聞いてないお前が悪い」


「っんだ!」


「黙れ、ここは『公共の場』だ」



 大丈夫だ。いいやつもいるもんだな。こいつも少しは世の中のことを覚えるべきだ。しばらく歩いて学校の裏山に着く。私のことをなめてもらっては困る、とドラゴンには言ったのだが、黄の背中に乗って学校の私有地の森を駆け抜ける作戦を聞いた。こいつは獣と実験された。自分で半獣になれるし戻れるという。私はその姿を見たことがない。あまり見たくもないとそう思っていた。



「のれ」



 驚いた。フサフサの身体。やわらかそうだ。耳はとんがって、いつものピアスが似合っていた。あの細い体に似合うすばっしこそうな体。私の身長を超えて大きくてすごくかっこいい、と思った。速い。すごく速い!ボロボロの野球帽もふっとんでいった。黄っていったいどうやっていつもぶらついて過ごしているのか知らなかったけど、これなら夜の静かな屋根の上をぶらついても気づかれないだろう。屋上についた後も体をもふもふとしてしまったが怒らずそのままされるがままにしている。



「すごい速いんだな、驚いた。確かに私よりずっとだ!」


「いや、おまえニンゲンだし」



 いいや、ニンゲンじゃないのは私も一緒だ。



「その辺のやつらよりはニンゲンじゃない」


「そうじゃなくて俺はこんな気持ち悪い格好だけどさ」


「気持ち悪くなんかない!かっこいい!!」


「っ!?」



 な、何を恥ずかしいことを大きな声で言ってしまったんだ私は!そしていつもうるさいくせに黄も黙るんじゃない。



「かっこいいってほめてる。素直に喜べ!」



 顔真っ赤にして、素直になんて言ったがこいつにそれは無理な話だ。



「なっ!ほ、ほめんじゃねー!」


「まったく、怒るな」


「いや…怒ってはいねえ、どうしたらいいか、その、よくわからねえんだ」



 驚いた、素直に言えてるじゃないか。案外素直じゃないのは私の方かもしれない。


 昼食は学校の屋上で赤のお弁当を食べる。おいしい。私もうまく作れるようになりたい。もう見抜かれているんだろう、よく一緒に作らないかと誘われる。だけどなぜか断ってしまう。中に手紙があった。黄の弁当包みにも入っていた。



 時雨さんへ


 二人でいると姉弟みたいですよ。でも空くんけっこう頑張り屋なので今回は時雨さんの出番はないかもしれませんよ


 追伸 一回だけでいいので今度一緒にお料理しませんか?あんまり避けられると悲しくて何するかわかりませんよ?


 赤より



 追伸が怖い。頑張りはわかるがまだまだ黄は弱いし、私も守り切れるかわからないし、こうはわたしがきらいだし。



「赤らしいな」


「おう」


「見せてみろ」


「ぜってーやだ」


「まああたしもこれは見せられないな」


「んだよ、気になるな」


「それよりにんじんだけ残して。ガキかお前は」


「う」



 成功、とは言えなかった。派手に自己紹介をして暴れると宣言した黄はその通り成功していた。しかし私は狙っていた闇月でなく分家の亜月の方が追ってきた。追ってきたんだが、なんだこいつは。笑顔で追いかけてくる。遠目だが顔だちがドラゴンに少し似てる。



「うおー!あせった」



 私の攻撃をかわすドラゴン似の彼。名は確か殊羽。女が1人その前に出る。名は確か真いい名前だと思う。



「ここは私が」



 そう言って私を睨む。どうやらやるつもりらしい。いったいお前は私に何の恨みがあるんだ?まあ向かってきたら戦うしかないだろうがな。だからみんな殺しあうんだ。でもどうして?ずっとわからなかった。施設で私みたいな武器を作ってまで、どうして敵がいる?戦わなくちゃいけないの?



「敵さん、なんか悩み事?」



 近い。考え事をしすぎた私らしくない。それにこいつホントにドラゴンにそっくりだ。少しくらい傷がついても、と覚悟したあたりであの目立つアクセサリーが目に入る。


 キイィイン

「俺もいるぜ?」


「お、今度はニット帽君?」


「んだと!?うっせーよ!!


 キンっ

「いや、うるさいのは君だから」


「だー!!調子狂うな!!」



 バカかこいつは。



「いってー!なにすんだ葉!?」



 駄目だ、バカだこいつ。



「いた!ってんめぇー!」



 もう長居は無用というより命取りだな。早く帰りたい。



「ふざけんな!俺まだ本気見せてない」


「本気って?」



 まさか言うなよ!?振り返るとなぜか黄は偉そうにしていた。



「ああ?それは言えねえよ、シュウ。見てからのお楽しみだ!!んで、金のおねいさんはマコト、だっけ?ドラゴン似のシュウ!お前、へらへら笑いやがって!似せたところで俺にはきかない」



 もう付き合ってられない。



「お、覚えてろ!!」



 そう言って黄はすぐに私に追いついた。



「なんだよ葉!もういいのかよ?」


「バカ」


「ああ!?」


「最後のセリフは負けたものの台詞だぞ?」


「あ」



 負けてなかったのに。



「葉!怪我してるぞ」



 屋上で一息ついたところで黄に言われた。少し擦りむいたくらいの傷だ。



「かしてみろ」


「いい。あ、おい!」



 なんだできるのか。器用に包帯を巻いていくと、チャリチャリと手首の腕輪が鳴る。



「赤が言ってたんだ。ひとりでできることはすばらしいけど、ほかに誰か傍にいるなら少しくらい任せてくれませんか?ってさ」



 そこで私の顔をのぞくまだ幼い笑顔。



「俺ってよ、傷なんかほっときゃそのうち消えんだよ。何回説明してもしつこいから、任せた。そのうちに覚えた」


「お前は、」


「なんだ?」



 私はなにを、何を言おうとしたんだ。



「おまえ、さ」


「ど、どうしたんだよ?なんか変だぞ、体調悪いか?」


「違う。いや、その、笑ってくれよ?」


「?」


「私の、弟が見えるのか?」



 言おうとして今まで言えなかった。話しかけているのを何度か見てはいたけれど、どうしても信じられなくて言えなかった。黄の顔が驚きから笑顔へ変わる。やっぱり違うのか。



「見える」



 黄は何もない空間を、私の隣を、



「よかったな葉芽!お前の姉ちゃんやっと聞いてくれたぞ!」


「葉芽が、いるのか?」


「ああ?いるぜー!ずっと、ストーカーだぞ?」


「ずっと?」


「ああ、いい加減葉に言おうかなと思っても全力で葉芽が止めるからよ。今まで黙ってて悪いな」


「謝るな、う、うれしいし」


「ああ!葉芽もうれしいって、やっと聞いてくれたって言ってるぞ?」



 そう言って笑った後、私を見る黄が本当に珍しく切ない顔で、なんだか、



「葉も葉芽もよかったな…おい、葉?」


「ありがと黄、弟と話してくれて、ありがとう!」


「なっ」



 黄がすごい慌ててるけどもう少しも止まりそうにない。



「おい…泣くな、葉?」


「ふ、ふふ」


「笑ってんのか?涙拭け」


 頭を撫でてハンカチを渡す黄がなんだかおかしくて笑った。帰ったら赤にも素直になってみよう。料理ももっと頑張ってみよう。赤にありがとうって言うんだ。でもそのまえにただいまって言って、お帰りって言ってもらうんだ。ああ、はやくうちに帰りたい。そう黄にも言ったら、



「ああ、俺もはやくうちに帰りたい」



 そう言って笑うんだ。





 〇〇〇〇〇〇




 俺は何のために生まれて生きているのか。わかってんだよそんなの。息をしているからだ。死にたくないからだ。ほんとイライラする。アイツらが俺をいじくってからイライラしない日はない。なにかが足りない満ち足りない。その空間を、空腹を埋めるように、今日も俺は出かけていく。



「何をぶつぶつ呟いている」


「うるせえ」


「いってらっしゃーい」


「おう」



 いってらっしゃいって、ここは俺らの家かよ。


「気持ち悪いーにやけてるー」



 ドラゴンに拾われてからこの古びたホテルに住みついて、こいつらと生活するようになって、今じゃそこそこ仲良くやってんのがありえねえな。仲間っていうか同類か。少しだけ同じところにいただけの。重い扉を開けて通路を歩く。まだ音が響く。



「うるせえな」



 俺が今できるのがそれしかないなら

 それをする

 今日も俺を殺しに出かけていく



「じゃ、いってきまーす」



 俺は今日も出かけていく。だけど今日はいつもとは全然違う。



「いってくる」


「いってらっしゃいです時雨さん、黄くん!」


「いってらっしゃーい!!」



 うぜえ、なんだこれ。よーやく敵さんとの最初の戦争で、やっと暴れられると思ったのに。



「急ぐぞ」


「うっせ」



 葉もついてくるなんてな。ドラゴンめ。他にも赤と白がまーたよく分からん心理戦?したらしいし。そんなことしてねーでさっさとやっつければいいのに。



「ほら、切符だ」


「ああ」



 人すげーなあ、あれ葉どこ行った?んだってこんな人が多いんだ!目の前で狭い通路の板が閉じた。



「っな!?」


「切符入れて」



 すぐ横の声に顔を向けるともじゃもじゃ頭の男が、せまっこい隙間に切符を入れて通り過ぎて行った。こっちを振り返って微笑んで歩いていく。まねしたら開いた。



「よかったな」


「うるせ、なんで教えねえんだよ」


「言った。聞いてないお前が悪い」


「っんだ!」


「黙れ、ここは『公共の場』だ」



 ドラゴンと赤のお姉さんに言われた。暴れてはいけない。いつも俺がうろうろするせまっこい夜道ならまだいいけど、こんなニンゲンだらけのまっぴるまに暴れたらだめだ、と何度も言われた。俺はほかのやつらと少し違う。ドラゴンが心配してものすごくうざったかった。他のやつらならまだニンゲンっぽいけど、まあ俺はなあ、



「でもドラゴンに言われてる」


「別にいい、木の間を飛ぶ」


「うるせ、間に合わねえだろ」


「間に合う」



 そういうと軽くジャンプして飛び越えていく。たしかに速い。けどなあドラゴンに言われてるし、替えの服も持ってきたし。


 俺は獣と実験された。これでも俺は完成品で性格に難があるが傑作だと言われていた。俺の意志で獣化できる。だから一緒に実験されたあいつらみたいに自分を食ったり、よくわからんものになったりしなかった。その代りこんな性格で頭に血が上ってイライラしてばっかだ。獣化すると服がぼろぼろになるから葉に替えの服を入れてもらった。そのリュックを背負った葉にすぐ追いつく。



「のれ」


「っ!?」


「びびったか?あれ、見るの初めてだっけ?」


「ああ少し、いやかなり驚いた。本当にいいのか?」


「おう」


「やわらかい」


「ははは、毛むくじゃらだからな、つかまってないと落とされるぞ」


「心得た」


「?」


「わかったって意味だ」


「最初からそう言え!しゅっぱーつおしんこー」


「その言い方やめ」


「バカ!舌切るぞ!?」


「・・・こころえた・・・・・・」


「れっつごー」


「!!」



 軽い。葉はホントに強い。けど女だ。女はみんな弱くって軽くって、そう思ってた。葉は強い。だけどやっぱりものすごく軽かった。



「とーちゃーく」


「速いな!すごいな黄!」


「別にすごくねーよ」


「も、戻れるのか?」


「あぁ?おう、まあちょっと向こうで着替えてくる」


「あ、ちょっと待ってもう少し、触っていい?」


「いいけど」



 もふもふされてる、



「すごい速いんだな驚いた。確かに私よりずっとだ!」


「いや、おまえニンゲンだし」


「その辺のやつらよりはニンゲンじゃない」


「そうじゃなくて俺はこんな気持ち悪い格好だけどさ」


「気持ち悪くなんかない!かっこいい!!」


「っ!?」


「かっこいいってほめてる。素直に喜べ!」



 なんだよ、それに顔真っ赤じゃねえか。



「ほ、ほめんじゃねー!」


「まったく、怒るな」



 怒ってはいない、だけど、このイライラはなんていう名前のイライラなんだろうか。ほめられるようなところなんてないと思っていたこの姿を。は、恥ずい。


 そして俺らは目的の屋上で昼飯。



「赤の弁当うまいなー!」


「そうだな」


「んん?なんだこれ?」



 手紙があった。もちろん赤から。葉の弁当包みにも入っていた。



 空くんへ


 けがしないように、時雨さんとけんかしないで、彼女を守ってあげてくださいね


 追伸 野菜だけ残したらゆるしません


 赤より




 追伸が怖えぇ。守るほど葉、弱くねえし、俺のが弱いし、ケンカしてるし。



「赤らしいな」


「おう」


「見せてみろ」


「ぜってーやだ」


「あたしもこれは見せられないな」


「んだよ、気になるな」


「それよりにんじんだけ残して、ガキかお前は」


「う」







 〇〇〇〇〇〇




「あの、会長、言われた通り全員配置につきました」


「ではなぜ君はここにいるんだい?薫。無線で連絡をくれればいいだろう?」



 玲は後ろからの声に振り向こうともしない。



「あなたと話をするためですノーナンバー」


「おまえは薫じゃないな。誰だ?」



 そんな嘘くさい芝居。やっと振り向こうとする彼の背中を薫君の手で押さえる。



「私は誰か。あなたはその答えを知っています。それよりも報告に来ました。物語は動き始めたそうです」



 玲はまだ芝居を続けるつもりらしい。



「いったい薫に何をした?物語とは何のことだ?」


「嘘。あなたは私の正体を知っています。あなたは今とっても楽しい。ウレシイんですね」


「そんなことはない」


「あなたは本当に嘘つきですね」



 この人は嘘ツキ。というより他人を信じない。信じられない。これで今日の私の仕事は終わり。あとは時雨さんと空くんに任せます。どうか無茶をしないでください。


 終わりだったのに、やっぱり一人で来るのはやめたほうがよかったみたいです。ドラゴンさん、ねえ今すごくあなたに会いたい。こんな人に、モノに会ってしまうくらいなら。そうだと知っていたら私はずっと、一生、死んでからも、ずっとずっとあなたのそばを離れなかったというのに。素直になればよかった、もっといろんなことをみんなに伝えればよかった。もったいぶらずに、こんなことになるなら。


 私の前にいるわたしは、驚いている。こんなところでこんなに早く、偶然に会うなんて誰が想像した?誰が創造した?

 ねぇ?と声をかけられる。


 あなたの赤い目がほしい


 あなたの青い目がほしい



 二人が惹かれあうのは

 二人がもとは一人だったから

 もとは一つだったから


 あおが語るのは

 青として死んできたこと

 ろいなとして殺してきたことを


 あかが語るのは

 赤として生きてきたこと

 優として活かしてきたこと



 そうして二人は

 決してまじりあわずに

 同じ時を過ごした



 私はあなたを助けたい


 気味が悪いわ

 あなたは私の話を聞いていたの?


 いいえ、あなたを今まで感じてきました


 それは否定しない

 私はあなたが嫌いだわ


 それは仕方ないです

 私はみんなに怖がられる


 そうかしら?みんなあなたのこと好きで

 あなたはみんなのことが好きじゃない


 あなたは、


 私はみんながきらい

 あなたが近くにいるから

 思い出したわ

 あの人が死んだの、死んでしまったの


 私も思い出しました

 私が憎しみの塊だったころのことも

 あの人が憎かったその強く悲しい気持ちを


 あの人が死んでしまったら、私は


 あの人が死んでくれたので、私は


 私たちはこうなった


 あなたのこと好きになれないのは

 仕方ないことね


 正直に言うと私も好きになりきれません

 仕方ないですね



 戦いは始まる

 それは玲が仕組んだことでもあったが

 それは龍が仕組んだことでもあったが




「○○!!私の魔法で空へ!いっしょに!」



 彼は無言で私を撃った

 ウサギの鍋をごちそうになった銃だった

 そして私は地に墜ちて死んだ

 彼は最期に私に何か言った

 でも聞こえなかった



「自分の力で行きたいんだよ」



 僕は彼女の亡骸を見た

 美しい

 何故こんなにも美しい彼女が魔女なんだ?

 彼女の両目を閉じ、抱きしめる

 まだ温かい

 僕はそのまま彼女を実験台へと運んだ

 もう冷たい

 そうして僕の実験は始まった


 なんてことだ!

 どこをどう調べてみても

 彼女はやっぱり人間だ

 殺したのは僕だ



 科学者の男は病んだ。みかねた一人の優しい女性との間にできた双子は不思議な力を持っていた。女は似ていない不思議な力の子どもを気持ち悪いと男に言い捨て去った。彼は彼女らを魔女の生まれ変わりだと思った。そうして再び実験を始めた。実験対象は他にも特異な能力を持って生まれた子、産みたくない母親の子、路上生活孤児など。ある国のある施設に集められ実験された。協力者の目的は戦争の武器にすること。男はただもう一度彼女に会いたかった。自分の力を信じたかった。男のもとには科学者たちが多く集まったがなかなか思い通りにはいかなかった。2つの力は大きく戦争に使うには犠牲が多すぎる。子ども達は次々に犠牲になっていった。そのうち彼の意思より戦争の実用のための実験をしていった。そのうち彼は老いた。そして死んだ。


 彼の跡を継いだのは科学者たちではなく青だった。青は対処した。強いものと強いものを拮抗させバランスを保った。外国への利用も取り入れた。結果その威力のあまりの大きさに世界には平和志向が芽生え、表向きには戦争の終結を迎えようとしていた。しかし実験は続けられる。ある国のトップがそれを行っているから。諸外国は恐ろしくてその国への反論は一切できない状態だった。対抗すれば粛正された。そんな状態がしばらく続き、臨戦態勢が続いていたある日。施設は破壊、いろんなモノが暴れ、実験は強制終了となった。科学者たちはあらかた死んだ。青がその力を持って鎮めた。ほとんどは死んだ。だが残った者たちが未だ生きている。


 そして青と共に生きるもの

 そして赤と共に生きるもの


 表向きは施設の破壊により平和になった。しかし世界の行方は青と赤の水面下の戦いによって決まる。


 いつしか二つは逆転し


 青は男の死に狂い怒り 世界の破壊を願う

 赤は男の死に喜び笑い 世界の平和を願う


 わたしはあなた

 あなたはわたし


 だけどわたしたちはひとつには戻らない


 だってもう

 あなたの知らないわたしがいるから



 魔女と科学者のお話はまだ終わらない



 わたしはあなた

 あなたはわたし

 だからわたしたちは戦う


 ごめんね、玲

 私の弟

 たったひとりの私の弟


 ごめんなさいドラゴンさん

 私の

 たったひとりの私の

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