第9話 しょうかい
「じゃっじゃーん!今年もはじまりました!新しく来た一年生にみんなの自己紹介をしちゃうよ!」
いえ~い!!乗りのいい生徒たちが叫ぶ。男子生徒はもちろん紅ちゃん、女子生徒は玲様の姿を拝むのに必死だ。中央のステージには2人がいる。そのステージの袖には宗治。反対側には薫。後方の入口付近に飛鳥と顧問の教員がいる。ステージをぐるりと囲むように生徒、教員、保護者、来賓などが座る観客席がある。先程から鳴り続けるBGMと来羅と玲をあてるスポットライト、来羅たっての希望のスタンドマイク等、執行部が使う備品はすべて裕太が生徒会室のパソコンで操作している。
「じゃーれーれー、お願い!」
「まったくこれでいいか?」
スポットライトが玲だけに当たる。
パチンっ
響いた。指を鳴らした途端、照明と音楽がすべて落ちた。キャ、うわっ、などの小さな悲鳴が漏れたが、すぐに二つのライトが現れぐるぐるとまわりだした。生徒たちの楽しそうな顔が照らされては暗くなっていく。
「まず始めに我が高校の先生方。ちょっとしたダンスパーティも兼ねています。それでは、トップバッターは
白髪の男性は胸に手を当て礼をする。
「お相手はもちろん奥様、教頭の永恵先生!」
となりの白髪の優しげな女性が頭を下げる。互いに手を取り挨拶をする。
「それじゃ、みゅーじっくすたーと!!」
来羅の元気のいい声とともに流れたのはしっとりとしたバラード。端に移動した二人と入れ替わり、校長と教頭のゆったりとしたダンス。ほどなくして、ブルーのライトが赤に変わる。音楽もそれに合わせるように明るくなる。
「さあみんな!えんじょいしちゃおー!!次の先生はー!?」
来羅の声に合わせ次々に先生方がステージに上がり踊り出す。短いダンスパーティだが盛大な音楽とともに終了した。次に部活と委員会の紹介。生徒会執行部からだ。
「まずは、二年!まーちゃん!」
「書記、麻魔 真!」
「よろしくですわ」
真がいたのは、ギャラリー、観客席の上だ。当然生徒から顔は見えない。スポットライトと声だけの紹介だ。まっことちゃーん!とファンの男子数名が声をそろえる。
「次に、一年、闇月飛鳥 杉琳薫 亜月殊羽!」
三つ同時にスポットライトがそれぞれを照らす。殊羽は真と同じギャラリーにいる。三人とも会釈をするだけで話さない。マイクをつけていないためだ。
「ここにはいないが三年、会計と、今日の照明音響を担当している。山本裕太!」
「ことしもよろしくっすー」
きゃ、お声が聴けたわという女子の声が漏れる。授業にもほとんど参加せず行事もいつも裏方の謎の部員としてひそかな人気がある。姿が見れた生徒にはいいことがあるとかないとか。
「そして、三年、庶務、瀬川宗治!」
「今年もよろしくお願いします」
女子の黄色い悲鳴が上がる。男子にも結構人気なようだが、副会長だと思ってた、庶務だったんだ、という声がどこかから聞こえた。
「我らが副会長、三年、紅来羅!!」
少し零が声を張り上げないとかき消されそうになる、男子生徒の雄たけびの中、来羅がありがとーと元気よくお礼をする。そして来羅が最後はもちろんと前置きを入れ、
「生徒会長、三年、えっと、れーれー!!」
「桜玲だ、今年もよろしく」
こちらも女子の声が騒がしい。そうして執行部の紹介が終わる。他の部活、委員会の紹介は部活同士コラボしていたり、委員長が簡単な紹介をするもので言う内容は自由。
「風紀委員会です!来羅ちゃーん、大好きだよっ!つきあおうぜ!!」
「無理でーす!」
「俺は絶対諦め」
そこでマイクが奪われる。委員会や部活は委員や顧問単位で準備やライトの役割をするため、執行部はしばらく休憩となる。
「ええコホン、今年は吹奏楽部、合唱部、新体操部の皆さんとも共演します!」
少し緊張気味な音楽の先生の声、わらわらと生徒たちがステージに集まる。
「ということで、玲様。わたしもいってきますね!」
「ああ」
袖に隠れた来羅が元気いっぱいにそう告げて衣装を着るために奥へと移動する。早着替えして特設ステージへパタパタとかける来羅を目を細めて見つめる玲。その背後、1メートルほど。
「あ、あの会長、言われた通り全員配置につきました」
「ではなぜ君はここにいるんだい?薫。無線で連絡をくれればいいだろう?」
後ろからの声に振り向かず言う。
「あなたと話をするためですノーナンバー」
「おまえは薫じゃないな、誰だ?」
〇〇〇〇〇〇
この執行部に顧問がいたなんて思いもしなかった。今日の私のガードはその顧問の先生だとろいなさんは言った。名前も何も教えてはくれなくてただ配置につけばいいからと。大人さえも駒の一つなんだ。全部この生徒会長に動かされている。へんなところ。
っ!?
「あ、気づいた?さすが飛鳥ちゃん」
耳元に薄いピンクの口元と、ライトグリーンのイヤリングが見える。
「水島先生、あなたが私たちの顧問だったんですね」
「違うわよ?私は闇月
懐かしい母の名前。
「先生ふざけないでください」
思い切り振り返ってみた。遠くのステージで壮大な音楽をバックに誰かが宙を舞っていた。どこにいったんだろう。いや、きつい香水の香りまで、どこに消えた?
「自己紹介するね。ある時はあなたの担任の水島緑先生!またあるときは」
私の手前にいた彼女はくるっと振り返った。とても懐かしい。きれいに整った藍色の短い髪。きりっとした表情。抱きしめたくなる。でも偽物だと知っている。お母さんはもうそんな顔はできない。そんなにしっかりと地面に立てない。そんな素敵な笑顔をもう見せてはくれない。
「あなたの部の顧問。名前は秘密」
そう呟くとおもむろに顔をはがしていく。黄緑色の長い髪が見えるはずが、女性ですらなかった。
「改めてお前らの部の顧問。名前も正体も秘密。どちらが正体かも秘密。」
銀色の短髪。タキシード。あらかた説明をしてくれて、そしてろいなさんから連絡が来た。
「敵さんが襲ってくる恐れあり。必要があれば全校で避難します。って、まあ本当に襲ってくるかどうかはわからないけどね。えっと、黄色い葉っぱ?に注意っていうことで」
よくわからなかった。
「飛鳥、俺はいつもは水島緑でいることが多い。一応この姿でも事務員として登録はされている。この姿がお前を守るガードの姿ってわけだ。水島のキャラでも面白そうだが、避難しないと怪しまれるからな」
要するに女装が好きみたいだ。
「よろしくな」
「はい、よろしくおねがいします。何と呼べば?」
「先生でいーだろ?」
「…なんですか?」
いつの間にか吹奏楽部が軽音部に、新体操部がダンス部になってる。派手な音楽。聞こえなくて聞き返す。
「先生だ!気をつけろよ。俺はガードだが、アタッカーのお前らが確実に狙われる」
先生は耳元で言う。
「お前は狙われる理由がある」
「それはもちろん」
「いや、なにも闇月だからってだけじゃあないんだよ。ほんとに何も覚えていないんだな」
「先生もなにか、ご存じなんですね」
「そりゃもちろんせんせいだからな!子ども達のことはだいたいは知ってるよ、だってせんせいだからな」
そういった先生は私から距離を少しとった。情報屋さんよりは聞き出しやすそう、でもむしろこの人は教えたいようににやにやと私の顔を見る。
「知りたいか?」
私は目をつむる。私は知りたいんだろうか、本当に。全部何もかも。おにいちゃんの居所も、この執行部のことも。
うるさい音楽。みんなの元気な声、冷たい殺気!?
「伏せて!!!!」
ガシャッ!ガシャガシャガシャガシャ!!
先生の上に折り重なる。ナイフが二本すぐそばの床に刺さっている。また光る。すぐにその場を離れると元いた場所にまた刺さる。私たちを狙う誰か。もう一人、ギャラリーの窓ガラスを連続で割っていく。
きゃー!!!うわっ!キャッ!!?
逃げ惑う生徒。この場の混乱が目的のやつ。私が立っても最初のやつももうナイフを投げてこない。追われてる?のか。
「先生!」
「そうね!!」
せんせい…
「みんなー!!こっちから逃げるわよ!!押さないで!怪我した生徒はいる?」
生徒が水島先生の誘導に従ってまたは我先にと逃げていく。会長や先生方は来賓を逃がしているようだ。
「全員に連絡。誘導は飛鳥、薫、宗治、来羅、玲。敵の追跡、殊羽、真。敵さんもう逃げそうなんだわ、なんか情報つかんできて」
裕太先輩の声で連絡。そうか殊羽はギャラリー配置だったっけ。誘導しながら、ちらっと見てみると緑の布の誰かを追いかける二人、水島先生は怪我人の手当てにも当たっていた。
「お母さんの顔なんて何年ぶりに見ただろう」
声が出ていた。
〇〇〇〇〇〇
俺は施設で生まれた。他のやつらは連れてこられる。施設の白い人とジムの2人から生まれたってボスが教えてくれた。この施設は子どもを実験するところ。そこで子どもが生まれたから俺ももちろん実験された。ボスに聞いたんだけど俺を連れて逃げようとしたらしい。だけどできなかった。殺された。でもボス。俺、覚えてないんだ。オヤがいたことすら。だからボス。そんなに泣かないでよ。俺、笑うことしかできないんだから。
俺の記憶はあんまりない。あやふや。ぐちゃぐちゃにかき回されたからだってボスが言ってた。今みんな俺にいろいろ教えてくれる。いろんなものが俺の中に増えていく。俺、まっしろだったのに。前は何をしていてもよくわからなかった。それからどうしてかは忘れてしまったけれど、笑うようになった。笑っていないと怖いんだ。今も笑ってる。でも今は怒れるし、楽しいし、悲しいし、苦しい。今楽しいけど、怖いんだ。カラフルなみんなを俺はまた忘れちゃうんじゃないかな。
いつだったか黄が倒れた。まだ来たばかりで、俺は逃げられてたからあんまり話をしたこともなかった。うるさいやつ。この家は静かな女の子2人とボスだけだったからつまんなかった。ぎゃーぎゃーさわぐ黄の声がもう聞こえなくなるかもしれないと思ったらすごく悲しかった。だから俺は赤に聞いた。
「ね?死んだ?もうさわがないの?」
「いえ、生きているけれど、目を覚まさないんです」
俺はおどろいた。
「泣いてるの?」
「泣いてません、大丈夫です、きっと目を覚ましますよ」
涙じゃないなら赤の目から流れた水はなんて名前なんだろう。泣いてるやつはなんだか怖い。だからボスが泣いていた時も怖かった。
「っんだよ!おめーら!うっとおしい!心配すんな!!」
それからどれくらいかして、黄が起きた。ボスと赤がおおさわぎするから、葉も俺もベッドに行った。
「「よかったぁぁぁあああ!!」」
「だー!うっせぇ!眠いんだ!でてけっ」
あれ?黄?
「ねー黄、泣いてるの?」
「っ!?うっせ、泣いてねえ!全員でろ!うるさ」
「うるさいのはお前だ。まあ、お大事に」
「ふん。ったく」
そのあと俺はボスに聞いた。
「赤ね、黄が寝てた時泣いてたの」
「そう」
「でもね、泣いてないって言った」
「ああ。赤が泣いてたら白、大丈夫って言われても信じられないだろう?だから赤は泣いてないって言って、白にも自分にも心配だけど黄は大丈夫だって信じたかったのかもしれない」
「じゃなんで目が覚めたのに泣いてたの?」
「嬉しかったからだと思うよ」
「悲しくないのに涙が出るの!?じゃ、黄はみんながうるさくて悲しくて泣いてたんじゃないの?」
「黄も嬉しかったんじゃないかなー」
「じゃ、なんで泣いてないって言ったの?」
「黄はね、素直じゃないんだよ」
「すなお?」
「自分をそのまま出すこと。思ったことを言うこと。白は素直だよ。それを黄は嫌がるんだ。きっと恥ずかしいんだろうな」
「ふーん?」
「たぶんちょっとしたらわかるよ」
「ちょっとってどのくらい?」
「ちょっとはちょっと」
その時はよくわからなかったけど、今はわかる。ツンデレだ。ちょっとしたらテレビでやってた。その日のごはんの時間におんなじセリフを黄が言ってた。
「黄って赤のごはん大好きだよね、にこにこしてる」
「んな!?べ、別に赤の飯なんて好きなんかじゃねーんだからな!勘違いすんな!うまいだけだ!」
「つんどれ!黄はつんどれなんだ!」
「白!?そ、それを言うならツンデレだ!っは…はははっ」
ボスはがまんしたけど笑った。黄はいつもの顔で怒る。
「なんだそりゃ。この、ドラゴン!白!!笑うな!!教えろこのやろっ!」
「黄、知らない方がいい」
って葉が言うから、俺も教えなかったし、ドラゴンも言わなかったけど、そのあと黄もちょっとしたら、
「ドラゴン!!ぶっ殺す!」
でも弱いから倒された。それからしばらくずっとむすっとしてたな。赤が心配して心配して、ごはんを持って行った。ごはんの時間になっても来ないから。赤がどんなまほうを使ったかわからないけど黄が来てごはんを赤に出してもらってた。あとで聞いたらごはんぶちまけられて赤がキレたみたい。赤を怒らせてはいけません。ボスが最初に俺に出したやくそくだ。とにかくおもしろい!だから俺は黄が大好きだ!
葉も大好きだ!!葉は強い!あんなに冷たい目をしてたのに優しくなって女の子っぽくなってすごくかわいい。いつかボスにされたこちょこちょをみんなにして回ったことがある。
「っ白!!や、あはははっ!やめて!」
赤はおもしろかった!だめって言いに来たボスにもやった。
「ふっふっふ、残念だったな白、ボスにこちょこちょは効かないんだ!!」
つまんない!!!そう言ったらボスは俺をつかんでいた手を放した。走って黄にもやりに行った。
「ひあっ!!!っこのやろ!!」
ずざっっと俺から逃れて向かい合う、殺気をメラメラにしてる。おもしろい声!!って言ったら真っ赤になった。
「この!こちょこちょこちょ…」
「はっはー俺効かねーよ!」
「くっそー!」
いつもみたいになぐりかかってきたけどぜんぜんだいじょうぶ!黄は弱い!そうやって遊ぶのが楽しい!そーっと本を読んでる葉に近づく。ばれたな、さすが葉。
「白、気配なんか消してどうした?」
あーバリバリ警戒してるな。当たり前だけど。俺はいつもそう、まったく覚えてないけど施設の中で有名だったみたい。暴れてたらしい。まったく覚えてないけど。
「気にしないで本読んで?」
「無理言うな」
「別に何もしないよー」
「記憶が戻ったんじゃないだろうな?」
あ、立っちゃった。武器とか出しそうな感じだよ、どーしよ…
「あ!白ってめ!まだ俺負けてねーぞ!」
いいところに!
「ね、黄手伝って!」
「ああ?」
「葉にもさ」
「ああ!そうだな、見たいかも」
ちょろいちょろい、葉はよくわからなくてきょとんとしてる。
「覚悟しろ!葉!」
「かくごしろー!!」
「な、なんなんだお前ら」
いっぺんにとつげき!!黄が倒されてるすきにこちょこちょ!!
「っ!?あは!っやめ、や!あはははっ」
葉の力が抜けて床にへたんとなった。
「ちょっと…やめ、」
パット手を放すと俺と黄を見上げる。
「なにすんだ、お前ら」
笑顔で、ちょっと目がうるうるしてて、今まで見たことなかった葉の顔。となりで黄がまっかっかだ。
「お、おぼえてろ!!」
そう逃げて行った。葉はふーっと言うと涙をふいて立った。
「泣いてるの?ごめんね、ひどいことして」
そういうと目をまん丸くして口を隠す葉。
「ぷっ、いや白?これは笑い泣きっていってな?」
俺にそのふしぎな涙も教えてくれた。その間もずっと笑顔で、赤みたいで、すごくかわいいと思った。
「ねえ葉?なんでいつもむすっとしてるの?今みたいに笑ってよー!」
すごく悲しそうな顔になっちゃった。
「白。私は笑うのが苦手なんだ。白がそう言うなら、頑張ってみる」
「うん、笑って」
葉は笑顔と悲しそうなのの真ん中の顔でああ、って言った。赤に笑い泣きの話をしたらいつもの楽しそうな笑顔になった。でも葉が笑うのが苦手だって言ってたってことを伝えたら、赤がよくやる俺の嫌いな顔になった。
「そうですか。時雨さん」
「赤、俺その顔嫌い」
「ふふ。ほんとに素直ですね、すいません気をつけます」
「あ!わかった!シンパイの顔でしょ!」
「あたり!!」
おでこのところによってたしわがとれて、笑う。でもちょっぴり悲しそうに見えた。赤と俺はよく話をする。でも初めて会ったときはどうしてもどうしても怖くて怖くて怖くてしかたなかった。ほんとは今もちょっとだけ怖い。たぶん俺の過去に関係してるんだろーけど、よくわからない。なんだか知らないうちに思ったことを話すようになった。そのうちに赤の言葉が気になるようになった。いろんなことを教えてもらった。俺は赤が大好きだ!!ボスはね好きじゃないかな!っていったらたぶん泣いちゃうな、好きだけどね!
はじめボスのよくわかんない色が、次に赤。葉のおめめの緑色が、最後に黄色がテキトーにぬられて、俺カラフルになった。それをこんど赤に話してみよう。ボスには話さないけどね。
その前に赤のおいしいご飯をみんなで食べに行こう。あ、黄の分も食べちゃお。
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