第35話 消エル
そうか。両方が運命と思わなきゃダメだよなぁ。そう思ってエルに目をやると、またエルの手が薄く透けていた。
「エル、本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫です。」
また手を隠すエルを見て、ただ事ではないことが分かる。でももしかしたら自分の運命の相手が見つかる時が近いからなのかもしれない。そう。エルとはそれまでの間柄なのだから。
「杏さん。運命の相手を見てみてもいいですか?」
「え?」
いきなりの質問にびっくりする。
「だって前に僕じゃ見えないって。」
「その…。先輩に借りたんです。運命の相手が直接見られるわけじゃないんですが…。杏さんの小指からつながっている赤い糸をたどっていけばその相手に会うことが出来ます。」
そうか…それでもう私の運命の相手が見つかるんだ。運命の相手が見つかるというのに心が晴れなかった。
「僕にはそれが精一杯で…。」と申し訳なさそうにつぶやく。
そんなエルが可哀想に思えてつい口から出る。
「いいわよ。赤い糸があれば私にも運命の相手がいるってことでしょ?それが分かるだけでも十分。」
エルを励ますようにニコッとすると手を差し出した。もう覚悟を決めていた。運命の相手をエルに見てもらえるのなら、それを受け入れよう。
「じゃいきますよ!」
エルはテーブルの上に差し出された手をじっと見つめた。つられて杏もじっと見つめる。
「あ、あります。赤い糸。でもなんだかかすれて消えかかっているような…。」
「もう!私の運命の相手は死にかけってこと?」
冗談っぽく笑ってエルを見るとエルの体全体がうっすら透けていた。
「え…。どうしたの?エル!ねぇ!」
エルの体を触っても前の手のように色は戻ってこない。どんどん薄れていく。
「ダメですよ。杏さん。まだ赤い糸がどこにつながっているか見てる途中…。」
「そんなことどうでもいいの。どうしちゃったの?エル…。」
だってまだ私に運命の人をみつけてくれてないじゃない。それまでは…それまでは一緒にいてくれるんでしょう?
今にも泣き出しそうな杏にエルは観念したのか手を見ることをやめた。そしてだんだんと薄れていく体で話し始めた。
「僕は昔、悪いことをしているので…。」
そう言えば前にそんなことを言っていた。その時は天使なんてことを信じていなかったから聞き流していたけれど…。
「悪いことって何をしたの?」
「天界の食べ物を人間にあげたんです。」
「え?それだけ?」
「天界の食べ物を人間にあげるのは大罰…。」
うつむくエルにすごく悪いことなのだということが伝わる。結菜が言っていた罪を犯せば永遠の命が削られるという言葉を思い出す。
「知っててそれをしたの?」
「はい。だって天界の食べ物を食べると元気になれるから。」
ニコッとするエルは自分がしたことに後悔はないようだった。
「それにしても…どうして今さらエルが消えないといけないの?今がその削られた命の最後ってこと?」
エルは首を振って、そうじゃないと告げる。
「もっといけない罪を犯したから。」
「何?なんなの?」
私の運命の人を見つけたら消えるわけじゃなかったのか…そんなことを今さら理解しても、どんどん薄く消えてしまいそうなエルに杏は焦る。それなのにエルは微笑むだけだ。
「杏さん。必ず幸せになってください。僕の後は先輩の天使にお願いしてあります。大丈夫ですから。」
僕のあとって…。
「そんな。エルがいなくなっちゃうなんて…。エル!」
杏。愛してる。
そんな声が聞こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます