第三章 14 リュウの家へ

 セリカとフランと呼ばれた二体の人形は、アリス・エレアと同じように剣と盾を持っている。セリカは二本の剣を、フランは盾をそれぞれ携えていた。

 スカートの裾から手を放したハナちゃんの指先から、二本目の魔法ような糸が伸びる。右手の五本の糸はセリカの頭と四肢へ、左手の五本の糸はフランの頭と四肢へと繋がった。

 計二十本の糸が、四体の人形を同時に操る。

 その光景は、まさにドールズ・ウォー。さらなる人形たちの闘争。

 ハナちゃんは左人形のフランを動かし、フランはエレアのすぐ隣へ。エレアと同じく盾役のフランは、エレアと協力して悪鬼を押し返し始めた。

 すると今までじりじりと押し負けていた状況が一変し、今度はエレアとフランが悪鬼を押し始める。悪鬼の足が地面を滑り、ハナちゃんとの距離を広げていく。

 その間、アリスとセリカは協力して悪鬼に斬撃を浴びせる。傷は深くないものの、それをカバーするほどの攻撃回数で、悪鬼へのダメージは確実に蓄積させていた。

 ハナちゃんと悪鬼の距離が、仕切り直しとばかりに開く。

 今のハナちゃんに、悪鬼に敗れる要素はもうどこにもなかった。

 ―――――。

 そして時間が経ち、ハナちゃんは本当に一人で悪鬼を倒してしまった。

「アリス、エレア、セリカ、フラン、ありがとー」

 ハナちゃんはそう言いながら、最後にもう一回スカートの裾を広げる。そうして四体の人形を、スカートの裏側という名の異次元に舞い戻した。

 四体の人形がスカートの裏側に消えると、繋いでいた魔法の糸も同時に消滅する。ただの幼い女の子に戻ったハナちゃんは、ゆっくりと僕たちのもとへ帰ってきた。

「えへへー、ただいまー」

 この可愛さ。そしてこの笑顔。ハナちゃんは戦いのあとも可愛さを忘れない。

「おかえり。頑張ったね、ハナちゃん」

「ハナ、よくやったわ」

「ハナちゃーん! なでなでしてあげるデース!」

 みんなでハナちゃんに労いの声を掛け、みんなでハナちゃんをなでなでしてあげる。

「ふふー! むふー!」

 それから僕たちは、保安局へと報告に戻った。



 夕方。

 午前中のうちに決めた通りに、僕たちはリュウの家に向かっていた。

 今この場にいるのは僕とニメとサディだけで、ハナちゃんはいない。ハナちゃんはリュウと知り合いではないし、面識もないので、連れてきてはいなかった。

 リュウの家の場所は課長から教えてもらった。課長には、住んでいる場所を伝えておく決まりになっているらしい。そのおかげでリュウの家の場所を知ることができた。

「ここかしら?」

 ニメがスマホの地図を見ながらそう言う。どうやら目的地に到着したようだ。

「このアパートみたいデスね?」

 リュウの家は、課長の話によるとアパートらしい。この辺りにアパートは見たところサディの指差した一つしかなく、おそらくそこがリュウの住む家に違いない。

「行きましょう」

 そして僕たち三人は、そのアパートへと向かった。

 そのアパートは二階建てで、建築されてまだ間もないのか、それなりに新しいという印象だった。リュウの家はアパートの二階の二号室、202号室である。

 202号室の前まで行き、ニメがドアの横にあるチャイムを鳴らす。

 ………………。

 ……しかし、反応はない。

「……いない、のかしら?」

「どうするのデスか、ニメ?」

「うーん……」

 ニメが思案をしている。僕は何の気なしに、ドアノブを回してみた。

 ――すると。

 ガチャリと音を立てて、ドアが開いた。……開いて、しまった。

「鍵が……掛かってない?」

 これならば、リュウの家に入ることはできる。……しかし、これでは不法侵入だ。……でも、かといって、入らないと何も知ることはできない。何も、分からない。

 僕が決断に困っていると、代わりにニメが決断を下した。

「入りましょう」

「……分かった」

 そうして僕らは、リュウの家に足を踏み入れた。

 玄関で靴を脱ぎ、家に上がる。台所とトイレ、風呂があるスペースを通り抜け、僕たちは奥の部屋へ。夕方で薄暗かったため、僕はスイッチを探して部屋に明かりをつけた。

 薄暗い部屋が一気に明るくなり、部屋がよく見えるようになる。けれど、やはりどこにもリュウの姿はなかった。

「何か書置きとか、手掛かりみたいなものを探してみましょう」

 ニメの指示で、僕たちは部屋を見て回る。リュウの部屋はとても生活感が残っていて、計画的に家を空けたようではなかった。やっぱり、急にどこかへ消えてしまったようである。

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