第三章 15 メール

 何かリュウの手掛かりはないか。そう信じて、僕らは部屋を捜索する。

「スマホでも見つかれば……」

 僕は無意識に、そう呟いていた。

 …………。そうだ。スマホだ。もしかしたらどこかに、リュウの保安局用のスマホがあるかもしれない。もしそれがあれば、そこに何か手掛かりがあるかもしれない。

 僕は自分のスマホから、リュウに電話をかけてみた。その瞬間。

 ――電話の着信音が、部屋に響いた。

「ある!」

 僕は音の出どころを探る。……部屋の隅にあるベッドの近く。ベッドの、端。

 そして僕は、ベッドと壁との隙間に、リュウのスマホがあるのを見つけた。電話を切って、そのリュウのスマホを隙間から引き上げる。

 僕がリュウのスマホを手にすると、ニメとサディが近くにやってきた。

「ジゲン、よくやったわ」

「うん。とりあえず見てみる」

 僕はリュウのスマホを操作し、まずはメールを確認する。

 ……しかし。

 受信BOX、送信BOXを見てみるが、特にこれといった、手掛かりになるようなものはなかった。至って普通のメールばかりだった。

「うーん……」

「ジゲン、未送信BOXもあるデスよ」

 サディに横からそう言われ、僕は未送信BOXの項目をタッチする。すると画面が切り替わり、そこには――。

 ――未送信のメールが、一件保存されていた。

「……私宛に、デスか……?」

 その未送信のメールは、サディに宛てられたもので。

 件名は、『大事な話が二つあります』となっていて。

 本文は、『サディ先輩。自分の記憶が戻った話と、とても大事な話の、二つについての話があります。明日、少し早めに課室の前まで来てくれませんか』となっていた。

 そしてそのメールが作成されたのは、昨日の20時03分。

 それは、オフの日の最後の食事会が終わって、それぞれが解散したあとの時刻。

 つまり、リュウがそのメールを作成・保存したのは、一人になってからということである。

「この文章からすると、リュウは自分の記憶が戻ったみたいね」

「大事な話とは、一体何なのデスかね?」

「分からないわ。それはリュウしか分からないでしょ」

「でも、なぜリュウは、このメールを送らなかったのデス?」

「それは……、どうしてかしらね?」


「――たぶん、送れなかったんだ」


 サディの疑問に、僕は無意識に答えていた。

「ジゲン? どうしてデス?」

「リュウは、たぶんすごく慎重な性格で、たぶんすごく考えすぎるタイプで、たぶんすごく踏ん切りがつけられない人なんだ。だから、このメールを本当にサディに送っていいのか、最後の最後まで悩んでいたんだと思う。このメールを送って、その話を本当にしてもいいのか、そのせいで変なことにならないか、何かためらっていたんだと思う」

 ニメとサディは、黙って僕の言葉の続きを待つ。

「確証はないし、根拠もない。これは、僕の勝手なイメージにしか過ぎないけど、そう思うんだ。実際にリュウが、何に対してためらっていたのかは分からない。けれど、何かためらう部分があって、このメールを送れなかった。僕は、そう感じるんだ」

 二人は何も言わない。言うべきことを探しているのか、沈黙したままだった。

「……ごめん。自分でも、何を言っているのか分からなくなってきた……」

 それから少しして、ようやくニメが口を開いた。

「……ジゲンの言いたいことは、大体分かったわ」

「ごめん、変なことを言っちゃった」

「別にいいわよ。理由はどうであれ、リュウはこのメールを書いたっきり送らなかった。それは間違いなく事実なんだから」

「……うん」

「リュウのスマホとメールが見つかっただけでも、十分な進歩デスよジゲン!」

「そうね。今日はこれでいいでしょ。そのうち、ふらっと戻ってくるわよ」

「……そう、だね」

 ――けれど。

 僕の中の本能が、直感が、告げていた。


 リュウは、もういないのだ、と。


 なぜそう思うのかは分からないけど、僕の脳の奥底でははっきりそうなっていた。

 そして、リュウのメールの中にあった、大事な話。

 あれは間違いなく、サディに――。

 ――サディに、好きだと、告白しようとしていたのだ。

 しかし、その直感と告白のことを、今二人に言うことはできなかった。

 心のどこかで、まだリュウはいるんだと、そう信じていたから。


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