第三章 10 お姫様抱っこ

「あれー、ニメ。もしかして、お姉ちゃんとかお姉さんって呼ばれたかったのデスかー?」

「そ、そんなことないわよ! あたしはただ、と、統一感がほしかっただけよ!」

 あ、これは完全に呼んでほしかったな。間違いない。

「よし、自己紹介は終わりだ。ハナ、ジゲンの隣に戻れ」

「はーい」

 課長の指示でハナちゃんは大人しく僕の隣に戻ってくる。ハナちゃん、こんなに可愛いのに、さらにこれだけ聞き分けがいいなんて、もう天使すぎませんか?

「今日からは、ハナも連れて悪鬼討伐を行なってもらう」

「よろしくおねがいしますー」

「戦闘に関しては問題ない。ハナの実力はわたしも知っている。とりあえず今日は、ハナの戦闘を見て、チームプレイの再構成に重きを置いてみてくれ」

「りょーかい」

「了解デース!」

「では、今日のブリーフィングは終了。皆、よろしく頼むぞ」

 ブリーフィングが終わり、今日の仕事が始まる。


 新たにハナちゃんを加えて保安局の外に出ると、課長からメールが届いた。

 いつもの悪鬼詳細のメールである。内容は、

『出現日付:五月三十日

 出現時間予測:11時00分~14時00分

 人物予測:アニメ・二十代前半・男

 出現ポイント予測:地図     』

 と、なっていた。

 ニメとサディが変身とパワーアップをする。それに続いて僕もいつものように変身した。

 ――ソウル・アウト! ―――……。

 毎度お馴染みの光景。目の前に黒い少女と化した自分が立っていて、魂と化した自分の体がその後ろに立っている。

 目の前にいるその黒い少女の力を借りるように、僕はその体へと飛び込む。

 変身完了。僕は女の子になりました。

「あれー? じげんおにーさんじゃなくなったー?」

 ハナちゃんが僕の姿を見て、そう言いながら不思議そうに首を傾げる。

「そうだよハナちゃん。僕は戦いになった時、この姿になるんだ」

「そうなんだー。きれいだねー」

「ありがとう」

 僕は屈んでハナちゃんに視線を合わせる。それからよしよしと頭を撫でてあげた。

「えへへー、ならー、おにーさんじゃなくておねーさんだねー」

 ああ! あああぁぁぁ! 可愛い! 可愛すぎるうううぅぅぅ!

 可愛いは正義と、誰かがよく言ったりもするけど、その気持ちが今ならよく分かる!

 本当に、ハナちゃんは可愛い。ハナちゃんは正義だった。

「じゃあ予想ポイントまで行くけど、ハナ、ついてこれる?」

 ニメが班長としてハナにそう訊いた。

「ううん、ハナはたたかいしかできないのー。ごめんなさいー」

「そう。じゃあジゲン、ハナを連れて行ってあげなさい」

「どうやって?」

「おんぶは……剣が邪魔だから、お姫様抱っこね」

「……いけるかな」

 僕が両手を差し出すと、ハナちゃんは僕に全身を預けてきた。僕の両腕にハナちゃんの重みがかかる。――が、何とかいけそうだった。

「よっ、と」

 掛け声とともに、ハナちゃんをお姫様抱っこしたまま僕は立ち上がった。

「ジゲン、いける?」

「スピードとかは、ちょっと落ちそうな気がするけど、たぶん大丈夫」

「じゃあ最初はゆっくり行くけど、無理だったら言ってね」

「オッケー」

 そしてそれからニメを先頭として、僕たちは悪鬼の出現ポイントへと向かった。

 移動の仕方は、やはり街全体――建物を使っての長距離跳躍移動だった。この並外れた身体能力なら、やっぱりこれが最も効率がいい。

 けれど今はハナちゃんを抱えているため、速度も跳躍する距離も最大よりは少し落ちていた。ニメもそのことを踏まえて、ルートを考えてくれている。

「ジゲン!! 平気かしら!?」

「大丈夫!! このままでいいよ!!」

「了解!!」

 ニメと移動速度の確認を取り、僕らは街を北に向かっていく。

「ハナちゃんは大丈夫?」

 僕は途中で、ハナちゃんに声を掛けた。

「だいじょうぶー! たのしいー! はやいー!」

 ハナちゃんは僕の腕の中で、言葉通り楽しそうにはしゃいでいた。こんな速度で宙を飛んで、次々に建物を駆けていくのは、ハナちゃんじゃなくてもおそらく楽しいだろう。

 遊園地のアトラクションも顔負けの移動で、僕らは悪鬼の出現ポイントへとたどり着いた。

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