第三章 9 リュウOUT ハナIN

「あれ? リュウは?」

 ニメが気づいたようにそう言う。そういえば、確かにリュウがいない。

 リュウはいつも僕らより先にいるはずなのに、今日に限ってそのリュウの姿がなかった。

「遅刻かしら? リュウにしては珍しいわね」

「リュウもたまには、そういうこともあるデスよー」

 とりあえず今のところは、リュウは遅刻ということになった。

 ………………。

 ……けれど。

「……こないわね。何かあったのかしら?」

「連絡してみるデスか?」

 定例ブリーフィングが始まる時間になっても、リュウはやってこなかった。

「課長、どうするー?」

 ニメがレイコ課長に指示を仰ぐ。

「そうだな、一応連絡を取ってみるか。ニメ、頼む」

「はーい」

 ニメはポケットからスマホを取り出して、リュウに電話をかけた。耳にスマホを当てるが、しかし一向にニメが口を開く気配はない。繋がらないのだろうか。

「……んー、出ないわね」

「なら仕方がない。一旦リュウの件は置いておこう」

 連絡の取れないリュウのことはあとにして、定例ブリーフィングが始まった。

「今日のブリーフィングだが、お前たちに一つ重要な話がある」

「もしかしてオフ?」

「オフデスか?」

「はっ倒すぞお前ら。そんなわけないだろう」

 ニメとサディが、露骨に『えー』という顔をする。課長は構わず話を続けた。

「お前たちに新たな仲間を紹介する。――彼女だ」

 課長が手で合図をすると、課長のデスクの裏から一人の人物が、にょきっと姿を現した。

 ……えっ?

 その人――いや、その子は、白っぽいセミロングヘアーに、同じく白っぽいワンピースという服装で、かなりリアルっぽい3DCGの――。


 ――あの子、ハナちゃんだった。


「ハナちゃん!?」

「あー、おにーさん」

 そのハナちゃんが、今目の前にいた。三日ほど前の夜の仮眠室で、まるで幻想のように偶然出会ったあの子が、今僕の目の前に立っていた。

 僕とハナちゃんの様子を見て、課長が口を開く。

「何だジゲン、知っていたのか」

「うん。三日ほど前の夜に、仮眠室で偶然出会った」

「三日前の夜って……ああ、あの時の朝の話の?」

 ニメも思い出したらしい。そういえばニメには、その翌日の朝にハナちゃんの話をそれとなくしていた。

「知り合いなら話は早い。ハナ、ジゲンの隣に座れ」

「はーい」

 課長にそう言われ、ハナちゃんは僕の隣に座る。いつもはリュウがいるところに、ハナちゃんがちょこんと腰を下ろした。

「今日からハナも第一班に加わる。お前たちの仲間だ」

「おにーさんたちー、よろしくー」

「とりあえず、自己紹介をしてくれ」

 課長の指示で、僕たちはハナちゃんに自己紹介をすることになった。

「僕は、ジゲン。分かってると思うけど、一応ね。よろしくハナちゃん」

「じげんおにーさん、よろしくー」

 ハナちゃんはそう言うと、僕の体にぎゅむっと抱きついてきた。これがハナちゃんなりの挨拶らしい。とても子供っぽくて、とても愛らしい。

 ……やばい。やばい、僕、お父さんになりそう。父性に目覚めそう。

 そのくらいハナちゃんの無邪気さは、とてつもなく可愛かった。

「ハナちゃん、って言うのデスかー。初めましてハナちゃん、私はサディデスよー!」

 次にサディが自己紹介をすると、今度はサディの方にハナちゃんは向かっていく。

「さでぃ。……さでぃおねーちゃん、よろしくー」

 そしてやはり、サディにもぎゅっと抱きついた。

「あー! これは反則デスー! ハナちゃん反則級に可愛いデスよー!」

 サディも母性に目覚めていた。

「ハナ、あたしはニメ。この第一班の班長よ。よろしくね」

 最後に班長であるニメが自己紹介をする。サディを離れ、ハナちゃんはニメのもとへ。

「にめ。……にめ! よろしくー」

 必殺のぎゅむ、がニメにも発動される。見てるだけでもう、可愛すぎてやばい。

「むふー、にめ! にめー!」

「ちょっと! あたしには、お兄さんとかお姉ちゃんとかないわけ?」

「にめー! にめ!」

 確かに、僕の時は『じげんおにーさん』で、サディの時は『さでぃおねーちゃん』だった。けれどニメだけは、単に『にめ』呼びである。

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