第三章 8 明日からも頑張っていこう
リュウはしばらく無言のままで、そうしている間に自動販売機の前にやってきた。
まずニメとサディ用に、とりあえず無難な飲み物を選んで買う。そのあとに自分用の飲み物を選んで買った。ニメとサディ――特にニメには面白くないって言われそうだけど、僕にはそんな冒険をする度胸はなかった。普通でごめん!
「ありがとうジゲン。ようやくおれも決心がついた」
飲み物を手に取ってリュウの方を向くと、突然リュウはそう言う。
「今度二人になったら、意を決して言ってみる!」
「……が、頑張って?」
僕に言えることは何もなく。とりあえず応援しておいた。
それから飲み物を持って、ニメとサディのところに戻る。バッティングが終わった二人に、買ってきた飲み物を手渡した。
「うわ、普通ね。男だったらもっと冒険しなさいよー」
そして予想通り、普通と言われる。もう大体ニメの思考が分かってきた。
「僕には、そんな度胸はなかったようだ」
「ニメ、いらないのなら私が飲むデスよ!」
「そうは言ってないでしょうが」
それからしばらく、飲み物を手に一休み。そして休憩が一段落すると、ニメがふと言った。
「ジゲンとリュウ、勝負に付き合わせてごめんね。つまんなかったでしょ」
ニメが、僕とリュウをおいて、サディと二人で勝負していたことを謝る。サディと二人で、自分たちだけが楽しんでいたことを謝っていた。
「そんなことないよ。見ているだけも、かなり楽しかった」
僕は本心からニメにそう返す。本当に、後ろから見ているだけでも楽しかった。
「そう? 本当に?」
「そうですよ、ニメ先輩。おれ、いつも言ってるじゃないですか、見ているだけでも十分に楽しいですって。あれは本当に、いつもそうなんですよ」
「……そうなの、なら良かったわ」
そう言うと、ニメは一つ安心したかのようにいつもの表情に戻った。
「ニメ! 次は負けないデスからね! また勝負するデスよ!」
「……ふっ、いいわよ? そうしたら、またあたしが勝つから」
「くーっ! 覚えてやがれ、デース!」
サディが歯を食いしばって、心底悔しそうに言う。
「じゃあ、あとは楽しく遊びましょうか。みんなで何か遊びましょう」
――そして。
ニメの言葉通り、そのあとはただみんなで楽しく遊んだ。
ニメとサディも変身やパワーアップを解き、普通にゲームセンターを楽しむ。
二人の勝負を見ているのも楽しかったけど、一緒になって遊ぶ方がやっぱり楽しい。
時間も忘れて、僕は三人と楽しいひと時を過ごした。
ゲームセンターのあとは、当初の予定通り焼肉店へ。
四人で焼肉を堪能する。みんなで食べる焼肉は、雰囲気も相まってすごく美味しかった。
勝負の約束通り、ニメの分もサディが払うことに。そして僕は未だに貧乏なので、少しニメに代金を肩代わりしてもらった。また借金ができてしまう。
こうして、名残惜しくもオフの時間は終わってしまった。
もっとこの時間が続けばいいのにと、子供っぽくもそう思ってしまう。
そのくらい、今日は楽しかった。
この楽しさを抱えて、明日からも頑張っていこう。
そう思った。
――しかし。
翌日、変化は突如として訪れた――――。
楽しかったオフの翌日。
僕は保安局の仮眠室で、いつものように目が覚める。洗面台で顔を洗って身支度を整え、僕は朝食を取りに保安局の外へ出た。
今まではニメが、寝起きから僕のところへ来てくれていたけど、今日からはこない。そろそろ一人で起きて行動できるように、とのニメからのお達しである。
けれど朝食は一緒に取ろうとのことで、今はその待ち合わせの店へと向かっていた。
待ち合わせの店に着くと、店の前ではすでにニメが待っていた。
「お、来た来た。ちゃんと起きれたのね」
「……いや、起きれるよ? 子供じゃないんだから」
「冗談よ、冗談。じゃあ入りましょ」
そうして僕はニメと一緒に、優雅な朝食を取った。それから特に何もなく、保安局に戻る。
二人で時間通りに課室へ行く。課室のドアを開けると、すでにサディの姿があった。
「二人とも、おはようデース!」
「おはよー」
「おはよう、サディ」
サディに朝の挨拶をすると、僕とニメは向き直って課長にも挨拶をする。
「課長もおはよー」
「課長、おはよう」
「ん、おはようさん」
各方面への挨拶が済むと、早速ソファ姉に腰を下ろす。今日もソファ姉は優しかった。
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