第三章 7 シリアス?茶番

「……ううぅぅ――っ! ……に、二回デース!!」

「じゃあ、あたしの勝ちね?」

「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っ!!」

 サディの泣き叫ぶ声とともに、二人の五番勝負はようやく決着した。

 勝者、魔法少女のニメ。

 ………………。

「……と、いうわけでね」

 ニメは唐突にそう言うと、サディから体を離した。そして続けて言う。

「これで茶番は終了なんで」

 

 ――って茶番かよおおぉぉ!! 僕の気持ちを返せええぇぇ!!


 勝負がついて、サディの泣き叫びで、僕も少し心に来るものがあったのに! よく分からないけど、なんか感動っぽいものがあったのに! 全部返してくださいよ!

「むうー、負けたデス。悔しいデース!」

 気がつくと、いつの間にか泣き叫んでいたサディも平静に戻っていた。

 ………………。

 ……マジで、茶番だった。

「はああぁぁ…………」

「ジゲン、どうしたの? そんなに大きなため息なんかついて」

 僕のため息に気づいたニメが、心配したようにそう訊いてくる。

「……何でもない」

「あれでしょ? 茶番に騙されたんでしょ?」

 ……分かってるじゃん。なら、なんで心配そうに聞いたのさ。

「……分かってるなら、訊かなくてもいいよね?」

「ははっ、ごめんごめん。つい、ね。じゃあ、あたしホームラン賞取りに行ってくる」

 そう言うとニメは、受付けのところへ向かった。

「おじさん! いつもの!」

「はいよ」

 すでに『いつもの』で伝わるくらいに、ニメとサディのバッティングは知られているようだった。そしてニメが何かを持って帰ってくる。

「何をもらったの?」

「ホームラン賞よ。もう一回プレイできるプリペイドカード」

 ニメの手には確かに二枚のプリペイドカードが握られていた。けれど券売機で買うものとは、少しデザインが異なっている。おそらく、ホームラン賞の特典だからだろう。

「一枚はサディの分ね。――サディ、ほら!」

 ニメはそのカードを、手のスナップでサディに投げ渡した。その回転して飛んでいくカードを、サディは至って普通に指の間で受け取る。

「これから勝者は勝利の余韻のバッティングを、敗者は敗北の反省のバッティングをしてくるから、ちょっと待ってて」

「分かった」

「それと、付き合わせたお礼として、何か飲み物を奢ってあげるわ。自動販売機で好きなもの買っていいわよ。お金はあとで返すから。あ、ついでにあたしたちの分もお願いね」

「了解。何か飲みたいものとかある?」

「ジゲンとリュウのセンスに任せるわ」

「うわ、それ一番大変なやつ」

「お願いねー」

 そう言い残すと、ニメはすぐにお目当てのバッティングケージへと向かっていった。ニメの言葉を使うなら、勝利の余韻のバッティングをしに行くようである。

「なら、私も行ってくるデース」

 同時にサディも、敗北の反省のバッティングをしに行ってしまう。仕方がないので、僕もリュウと一緒に近くの自動販売機まで行くことにした。

「なあ、ジゲン。一つ訊いていいか?」

 その自動販売機までの道すがら。リュウが唐突にそう尋ねてきた。

「ん、何?」

「ニメ先輩とサディ先輩のこと、どう思う?」

「どう思うって、具体的には?」

「実はおれ、サディ先輩のことが……その、好きなんだ」

「…………」

 ……えっ? ちょっ。……待って待って、ちょっと。……え!?

「……そ、そうなんだ」

 かろうじてそう返答するものの、僕は完全に動揺していた。まさか、いきなりそんな話題が来るとは思っていなかった。不意打ち過ぎる。

「……こ、告白すれば、いいんじゃない?」

「そうしたいとは、いつも思っているんだが……。……その、言うタイミングというか、そういう雰囲気が分からなくてな……」

「……ああ」

 …………。僕はふと、昨日のサディを思い出す。

 高いところから、リュウの戦いを見ていた時のことだ。謙遜とか、強さを比較しているとか、いろいろ言って、サディのリュウを見る目が変わったあの時のこと。

 それを今、僕はふと思い出す。そして、それを踏まえて、

「……サディなら、いつでも大丈夫だと思うよ」

 と、僕はリュウにそう言うことにした。

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