第三章 5 完全に野球人のそれ
前のポイントをサディが取ったことにより、次はニメの陣地に最初にパックが出てくる。
これが勝負を決める、最後のポイント。そして最後も、ああ、やっぱり追いつけないくらい速くパックが打たれ――。
――その勝負は。
「……っしゃあああ!!」
どうやら、ニメが勝ったらしい。表示された得点も、ニメの方が七点になっていた。
「これで二勝二敗よ! サディ!」
「ふふふ、よくやったと褒めてあげるデス、ニメぇ」
「逆転勝利して、絶対泣かせてやるんだから!」
「次で、決着をつけてあげるデスよ!」
「サディいいい!」
「ニメえええ!」
そしていよいよファイナルラウンド、バッティング勝負。
ゲームセンターから、併設されたバッティングセンターへと場所を移動する。
「で、この勝負のルールは?」
「ホームランの的に多く当てた方の勝ちよ」
いつものようにニメが答え、二人は券売機でプレイするためのプリペイドカードを買う。このバッティングセンターは、打席の後ろにある機械に購入したプリペイドカードを入れることで、プレイが可能となるシステムだった。
ちなみに料金は、一回二〇〇円、三回五〇〇円、六回一〇〇〇円となっている。回数が多いほど割安になるけど、二人は勝負のために一回しかプレイしないので、買ったのは結局一回二〇〇円のプリペイドカードだった。
「今日はジゲンもいるから、ホームランカウントを二人で別々にやってもらうわ。ジゲンはあたし、リュウはサディをお願いね」
「了解です! ニメ先輩!」
リュウがニメの指示を受け、ビシッと敬礼をする。
「ホームランカウントって、具体的には何をすればいいの?」
「打席の後ろで、何回ホームランの的に当たったかを見るだけよ。まあ単に、カウント数の不正防止のためね。あたしたちの代わりに」
「なるほど」
確かに、相手の打球なんていちいち確認していらんないし、他のお客さんの打球もあったりするから、どれが相手の打球なのか分からない。
やろう思えば、いくらでも不正はできそうな感じではある。だからこそ、そのために僕たちがいるというわけだ。僕たちは、公平な審判でなければいけない。
「じゃあサディ、また。戦いのあとで」
「あとで。悔いのないようにするデスよ」
そう言ってニメとサディは、こつんと拳をぶつけ合わせた。それからお互いに振り向き、決戦の舞台である打席へと向かっていく。
その様子は、まるでスポーツもの作品の、大事な試合前みたいな感じのようだった。
ニメは三番のレーンへ、サディは六番のレーンへとそれぞれ入る。そして弾除けのネットをくぐり、ニメは打席へと入った。その姿を、僕はガラスを挟んだ後ろ側から見る。
用意されたバットを手に持ち、ニメはバッターボックスへ。もちろん今の服装は、あのフリフリした魔法少女のような格好のままである。その組み合わせは、とてつもなく異様だったけど、ある意味で新しくて華々しい気もした。
準備運動として、ニメは何度か素振りをする。そのたびにスカートがふわりと動き、その光景に男である僕は、目が離せなくなってしまう。――って、いけないいけない!
ここは彼女のスカートと脚ではなく、そのスイングを見てみよう。ニメはブンッ、ブンッといい音を立てて、バットを振っている。実にいいスイングだった。…………。
――というか、ニメのスイングは、完全に野球人のそれだった。
――それでした。
女の子らしい可愛いスイングではなく、高校球児ばりのガチなスイング。腰と腕が連動して回る、力の入ったガチなスイングだった。
それはそれで勇ましいのだけど、なんかこう、もうちょっと、女の子らしい感じが見たかったとも思ってしまう。これがもしかして、男心というやつなのだろうか。
僕が男心と戦っていると、ニメは機械にプリペイドカードを入れる。そしてすぐさま打席に立つと、両足を地につけ、スッとバットを構えた。
ちらっと、カードを入れた機械を見てみる。このニメのいるレーンは、球速が一一〇、一二〇、一三〇キロと選択できるのだけど、ニメが選択したのは――。
――まさかの一三〇キロだった。
機械の一三〇キロのところのランプが、存在をアピールするかのように点灯していた。
そして初球。映像の投手の腕の動きに合わせて、ボールがこちらに飛んでくる。
一三〇キロという、思ったよりも速いスピードのその球を、ニメはいとも簡単にそのバットに当てた。ボールとバットが当たるいい音が響き、ボールが打ち返される。
打ち返された球は空を切って飛び、その球は前方にあるホームランの的に近づいていく。
しかしその球は――的には当たらず、そのわずかに右に当たった。そしてネットによって勢いをなくしたボールは、重力に引かれて下へと落ちていった。
惜しかったものの、残念ながら外れ。
とはいえ、初球からあそこに当たるのは相当やばい。レベルが高すぎる。普通の人なら、十回以上やって、ようやく一回くらい行けばいい方なのに。
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