第三章 4 カーレースとエアホッケー

 サードラウンド、カーレースゲーム。

「この勝負のルールは?」

「レースをして、先にゴールした方の勝ち。ゲーム通りよ」

 決まったようにニメが答えて、二人はゲームをプレイしに行く。車の運転席を模したものに二人は座り、そして同時にプレイ料金一〇〇円を投入した。

 対戦が始まるが、もちろん二人とも、変身とパワーアップはしたままである。

「もしかして、二人はこの先ずっとこのままなのですか? 解説のリュウさん?」

「そうですね、このままです。このあとは、カーレース、エアホッケー、バッティングと、肉体・反応速度・集中力の勝負が続きますので、二人はずっとこれからこのままです」

「なるほど、そうですか。では、この勝負のポイントは?」

「実力は同じなので、どこで相手を抜くかという戦略と、逆に抜かせないという戦略のぶつかり合いですね。一対一のレースなので、そこがポイントになります」

「なるほど。見極めも肝心ということですね?」

「そうなります」

「はい。解説ありがとうございます」

 リュウと実況解説をしている間に、ニメとサディのカーレース勝負は始まっていた。このカーレースゲームは、車にシフトチェンジのある本格的なレースゲームだった。アイテムのようなものは存在せず、純粋なドライビングテクニックによる勝負である。

 レースは、スタートからすでに激しい攻防が繰り広げられていた。常に付かず離れずの、一進一退のせめぎ合いが続いている。今のところサディが前を走っているけれど、レースゲームなんていつ抜かれてもおかしくはない。

 ――というか、二人ともシフトチェンジする動きが、格好良すぎるんですけど!

 そのあとも、曲がりくねった道を舞台に、壮絶なデッドヒートを繰り広げていくニメとサディ。最後まで確実な決着がつくことはなく、勝負はラストのカーブと直線にかかっていた。

 そして、いよいよそのラストのカーブに差し掛かり――。

 ――その勝負の結果は。

「……ゴールデース!!」

 サディが先にゴールインし、カーレース勝負はサディが勝利を収めた。

 三戦目を終え、ここまでの勝敗は、サディが二勝、ニメが一勝である。しかし、まだ確定的な決着はついていない。残り二戦次第では、ニメの逆転も十分にある。

「あー、くそぅ! サディ、次よ! 次!」

「ふっふっふ! ニメ! もうあとがないデスよ!」

「そっちこそ、ここから逆転されて泣くんじゃないわよ!」

 フォースラウンド、エアホッケーゲーム。

「この勝負のルールは?」

「ゲーム通りよ。先に七点取るか、または設定時間が経過した時に点数の多い方が勝ち」

 お決まりのようにニメが答えて、二人はエアホッケーのテーブルに着く。パックを打つための、マレットと呼ばれる突起のついた円形のものを二人は握り、入念に準備体操をしていた。

「解説のリュウ、この勝負のポイントと見どころは何ですか?」

「そうですね、エアホッケーは他の勝負と違い、相手との生の対人戦となるので、相手のミスを誘う動きだったり、リズムを崩したりするなどの心理戦がポイントになります。両者のそういった駆け引きが見どころですね」

「なるほど、意外と戦略的というわけですか」

「そうなります。反射させることで軌道を変えたり、パックを一度止めたり、わざと空振りするなど、エアホッケーというのはなかなかに戦略性のあるものなのです」

「そうでしたか。解説、ありがとうございました」

 そして入念な準備体操を終えた二人は、同時にプレイ料金一〇〇円を投入し、いよいよ戦闘態勢になった。テーブルに空気が走り、ゲームがスタートする。

 開始後、パックが最初に出てきたのはニメの方だった。

「……ふぅ。――ッ!」

 気合とともに、ニメのマレットがパックを打つ。――しかし。

 僕がその打たれたパックを目で追いかけようと思った時には、もうすでにサディがそのパックを打ち返していた。……のだった。

「……あっ」

 ガガガガガガッ――っと、気づいた時には、もう何が起きているのかついていけなかった。

 もう速すぎて、パックの動きが何重にも重なって見える。

 僕の両目さんが、まったくその二人の打つパックの速度についていけていない。両目ちゃんが、「りゃ、りゃめでしゅー……」と言っているのが聞こえる。

「――よっし!」

 気づいた時には、ニメが一点目を取っていた。展開が追いつけないくらい速すぎて、いつ点が決まったのかも分からなかった。

 僕がはっきりと見えるのは、点が決まったあと、仕切り直しで次のパックが出てくるその瞬間だけ。二人のどちらかがパックを打った瞬間、もうついていけなかった。

 …………。あの……。

 見どころは……? 駆け引きは……? 戦略、は……?

 ――ぼ、僕は悪くないもん! 悪いのは、あの二人だもん! あんな速さでやる、二人が悪いんだもんね! 僕は悪くないよね!

「――デース!!」

 そして気がつけば、ゲームは六対六の、次がマッチポイントになっていた。

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