第三章 3 競馬ゲームとダンスゲーム

「ああああ! あたしが負けるなんて!」

 ファーストラウンド、競馬ゲームの勝負は、ニメが負け、サディの勝ちとなった。

 ニメはメダル五十枚を残し、残りの五十枚を単勝に賭けるという戦略。リスクヘッジとか何とか言っていたのは、この戦略を取っていたからだった。

 対してサディは、全メダルを複勝に賭けるという戦略。これはとても分かりやすい直球勝負だった。サディらしいといえばサディらしいかもしれない。

 レースの結果、サディの複勝が当たり、ニメの単勝は外れということになった。サディは当たったため、簡単に言うと一〇〇枚以上になり、ニメは外れたため、残しておいた五十枚だけになってしまった。

 よってこの勝負は、サディの勝ちというわけである。

「次! 次行きましょう! 次!」

「ニメ、慌てても何もいいことないデスよー?」

「くっそ! ここから三連勝してあげるから、見てなさいよ!」

 セカンドラウンド、ダンスゲーム。

「この勝負のルールは?」

「対戦モードで、ランダムで選ばれた曲をやって、スコアの高い方の勝ち」

 先客がいたので、ニメたちは順番が回ってくる待つ。その間に、

「解説のリュウ、この勝負はどう思いますか?」

「そうですね、実力で言うなら、このダンスゲームは二人とも同じくらいだと思います。なので、勝敗はその時の運にかかってくるでしょう」

「また運ですか?」

「はい。勝敗はどれだけ正確に、パーフェクトな判定を取れるかにかかっているのですが、それもゲーム中の一瞬における動き次第です。どれだけ上手くても、所詮は機械ではない人ですから、『プレイの幅』というのは存在してしまうのです」

「つまり、プレイの幅で、今日はどちらが上かということですね?」

「そうなります。だからこそ、勝負はまたほとんど運なのです」

 リュウの解説が終わると、ちょうど前の人のプレイが終わった。

 満を持して、ニメとサディの番である。早速プレイするのかと思いきや、二人は何と、予想外の行動をし始めた。

 ニメは、ライトノベルをポケットから取り出す。

 サディは、メニュー画面を目の前に出現させる。

 ――えっ? まさか?

 その、まさかだった。

 まずニメの方は、能力を使ってライトノベルのヒロインの姿に変身をする。まず本が赤い光に変わり、その光がニメの全身を包むと、一瞬でその姿をあのフリフリした魔法少女のような姿に変身させた。

 対してサディは、昨日見せてくれたようにメニュー画面を操作し、自己のパワーアップを進める。武器こそ出していないものの、そのパワーアップは悪鬼と戦う時と同じくらい、マジで本気なものだった。

「……二人とも、本気出し過ぎぃ!」

 二人の勝負が、ここまで本気だとは思わなかった。

 そしてニメとサディは、ダンスゲームの機械の上に立つと、慣れた手つきで対戦モードを始める。すでに二人の集中度が、ハンパじゃない感じになっていた。

 ランダムで曲が選ばれ、曲がスタートする。このダンスゲームは、足元にある上下左右の矢印のマスを、画面の指示通りに踏んでいくというもので、曲が開始してすぐにその矢印が画面に表示されるのだけれど――。

「うわぁ! はえぇ!」

 ――その画面の表示が、鬼のように速かった。

 たぶん間違いなく、二人は最高難易度でそのダンスゲームをプレイしている。その最高難易度で、二人は勝負をしていた。

 ニメとサディの足が、画面の表示に合わせて凄まじい速度で動く。

 しかし最高難易度にもかかわらず、二人は一回たりとも大きなミスをしない。それはもちろん、実力に加え、二人とも変身とパワーアップによる身体能力の増強があるからだ。

 ダンスがヒートアップするにつれて、少しずつ見物客も増えてくる。フリフリした魔法少女のような格好をしたニメと、服の上からでも分かるほどスタイルの良いサディの二人なのだから、見物客が増えるのも当たり前だった。しかも超上手いし。

 そして二人のダンスゲーム勝負は、いよいよクライマックスを迎え――。

 ――その勝負は。

「……ッはぁ! どんなもんよッ!」

 三点というわずかな差で、見事ニメが勝利を収めた。ニメが勝ち誇ったように、ダンスゲームの機械の上で人差し指を天に突き上げている。

「くうううぅぅぅ! 悔しいデース!!」

 逆に負けたサディの方は、ダンスゲームの機械の上で両手をブンブンと縦に振っていた。

 二人の勝負が終わると、次第に見物客も離れていく。そしてニメとサディも、一息つくとこちらに戻ってきた。

「ニメ! 次デス! 早く次へ行くデスよ!」

「んー? さっきのあたしと同じことを言ってるわねー?」

「次! 次なのデース! 次なのデース!」

「もーう、仕方ないわねー!」

 ……どっちも負けず嫌いだなぁ。でも、そこが可愛いとも思ってしまう。

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