第三章 2 ゲームセンター五本勝負

「…………」

 課長、うつむき、沈黙。

「……えーっと、ごめん課長」

「……お前が気にすることはない。…………お前も、早く行ってこい」

 うつむいたまま課長がそう言い、手をシッシと振っていた。

「――ジゲン、何してるのよ? 行くわよー?」

 ニメが課室のドアを少し開け、僕を呼んでいる。

「……じゃあ課長、僕も行くよ」

 そう最後に一声かけ、僕もニメたちのあとを追って課室をあとにした。

 課長、お元気で。


 ニメたちに引き連れられてやってきたのは、街中にあるゲームセンター。

 外観からしてもかなり大きなゲームセンターで、話によるとバッティングセンターもあるらしい。ニメたちはそれなりにここに来ていると言っていた。

 店内に入ると、ゲーセン特有の騒がしい音たちに体が包まれる。

「ニメ! 私と勝負デスよー!」

「受けて立とうじゃないサディ! 負けた方は、今日の焼肉代を勝った方の分まで払うこと! これでどうかしら!?」

「いいデスよー! 私が勝って、ニメに奢ってもらうデース!」

「言ってなさい! 勝つのはあたしよ!」

 ゲームセンターに来て早々、ニメとサディが勝負を始めようとしている。負けた方は、このあと行く焼肉の代金を、勝った方の分まで払うということになっていた。

 とりあえず、僕はリュウに質問してみる。

「リュウ、二人はいつもこんなことをやってるの?」

「二人でゲーセンに来た時は、たぶん毎回やっていると思う」

「へぇー、そうなんだ」

 意外と二人が、そういう賭けや勝負が好きだとは知らなかった。ちょっと意外。

 それからニメとサディによる、焼肉代を賭けた五番勝負が始まった。

 勝負の内容は、

 1、競馬ゲーム

 2、ダンスゲーム

 3、カーレースゲーム

 4、エアホッケーゲーム

 5、バッティング

 だと、ニメとサディの二人は言っていた。これに毎回決まっているらしい。

 ファーストラウンド、競馬ゲーム。

「勝敗のルールは何なの?」

 選手であるニメに、僕はこの競馬ゲームでの勝敗のルールを訊いてみる。

「一〇〇メダルを使って、次のレースが終わったあとメダルを多く持っていた方の勝ち」

「なるほど。一発勝負か」

 しかも最初に運が絡む勝負を持ってくるとは。この勝敗で、一気にこの五番勝負の流れが決まるかもしれない。そう考えると、これは大事な勝負である。

「この勝負に詳しい、解説のリュウはどう思いますか?」

「そうですね、この勝負の大事なところは、『次のレースが終わったあと、メダルを多く持っていた方の勝ち』というところです」

「と、言いますと?」

「つまり、外した時に減ってしまうかもしれないなら、最初から『賭けない』という手も取れるということです。勝敗は『多く持っていた方の勝ち』なので、相手が一枚でも減らし、こちらは賭けないという手を取っていれば、それは勝ちということなのです」

「なるほど、戦略の幅があるということですね?」

「そうです。しかし、自分が賭けないという手を取ったとしても、もし相手がどんな低倍率でも、もし当たってしまえば、それは逆に自分の負けということにもなります」

「それは、つまり?」

「つまりは、結局のところ、ほとんど運ですね」

 この競馬勝負、裏には戦略があるように見えるけど、実際はそこまで戦略が重要ではなかった。多少は確率の問題があるとはいえ、当然それだけで勝てるはずもない。

 しかも一発勝負となれば、それはほとんどその場の運と言ってもいいのではないか。

「女なら、もちろん全額勝負デスよ!」

「あらあら、サディはリスクヘッジという言葉を知らないのかしら?」

「そんなもの、私の運で吹き飛ばしてあげるデース!」

「女は賢くないとダメだってことを教えてあげるわ、サディ!」

「望むところデス、ニメ!」

 芝居がかった台詞を言い合うニメとサディ。その顔は二人ともどこか楽しそうで、この勝負を心から楽しんでいるのが伝わってくる。

 そしていよいよ、運命のレースが始まった。

 ニメとサディの応援とともに、馬たちによるレースは進んでいき、そして――。

 ――そのレースと。

 ――その勝負の行方は。

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