第二章 9 ここからはサディのターン

 けれど、その直後にすぐニメが課長に質問を発した。

「あ、課長。二体の悪鬼の出現位置を今、大体の方角でいいから教えてくれない?」

「……ふむ、およそ東と西だな。綺麗に分かれている」

「じゃあ、あたしとリュウが東で、ジゲンとサディは西をお願い。片が付いたら、援護に向かうこと。異論はある?」

 班長、リーダーとしてのニメの提案に、誰も異論はない。

「なら、ここからは別行動ね。……サディ、ジゲンを頼むわよ」

「任せるデス!」

「とりあえず、悪鬼討伐について、仕事について、いろいろと説明してあげて。手順とか方法とか進め方とか、とにかくあたしの代わりにいろいろね」

「むふー。ニメの代わり、しっかりと務めさせていただくデース!」

「……じゃ、あたしたちは先に行くわ。リュウ、行くわよ」

「はい。ニメ先輩」

 そうしてニメとリュウは、僕たちよりも先に課室をあとにした。

 ソファーには、僕とサディだけ。サディと二人っきりになるのは、実はこれが初めてかもしれない。今まで全員いるか、指導役のニメと二人のどちらかだったから。

 初対面ではないけど、それでも初めての二人っきりというのは、それはそれで少し緊張する。まだ二人の時の空気・雰囲気というのが、よく掴めていないから。

「あー、ジゲン。緊張してるデスねー?」

 そんな気にすることのない、貧乳みたいな小さな僕の緊張を見透かしたかように、サディがいつもの顔でそう言った。

「二人っきりだからって、そんな意識しなくてもいいのデスよ。いつもの通りでいいのデス! あー、もしかして、私を一人の女だと意識してるデスか!? もうジゲンってば、そんな目で私を見てたのデスかー!?」

 いきなりテンション高く、サディがそんなことを言う。それが彼女なりの、場の和ませ方だった。おかげで僕も、変な意識をようやくなくすことができた。

「いいの? そんなこと言うと、本当にサディを一人の女として見ちゃうよ?」

「いやーん、ジゲン! 私は嬉しいデスけど、でもそれはダメデース!」

「え、ダメなの? 何で?」

 もちろん冗談だとは分かっているし、僕も冗談で返したつもりなんだけど、でも『ダメ』っていうのはどういうことだろう。

「その理由は、今は言えないデス! もう終わり! これは終わりデース!」

「? まあいいけど」

「……お前ら、のろ気てないでさっさと行け! わたしの前でのろ気はよせ! わたしが悲しくなるだろう! ああ!」

 別にのろ気ていたわけでもないんだけど、課長にそう怒られてしまったので、僕らも早く悪鬼討伐に向かうことにする。

「よし、じゃあ僕たちも行こうか。サディ」

「はーい! レッツゴーデース!」


 保安局の建物を出てすぐに、サディによる講習が始まる。

 内容は、悪鬼討伐・仕事関連全般だ。あ、始まりそう。それではスタート。

「悪鬼の現れるポイントは、予測よってすでにある程度判明してるデス。私たちはそのポイントに行って、現れた悪鬼を討伐するというわけデスね」

「ふむふむ」

「『詳細はいつもの通り、端末に送っておく』と、さっき課長が言ってたのを覚えてるデス? その端末に送られる詳細に、悪鬼出現の予測ポイントというのが載っているデース」

「じゃあ、その詳細の予測ポイントを見て、そこへ向かえばいいんだ」

「そうデース! さすがはジゲン!」

「その詳細はいつ来るの?」

「むー。経験的には、もうそろそろ来る頃なのデスが……。……お!」

「おっと!」

 その瞬間、ズボンのポケットに入れていたスマホが、主張するかのように振動した。

 スマホを取り出し、画面をつける。新着メールが一件来ていた。そのメールは案の定課長からで、件名は『悪鬼詳細・五月二十八日』となっていた。

 内容は、

『出現日付:五月二十八日

 出現時間予測:10時30分~13時30分

 人物予測:3DCG・二十代後半・女

 出現ポイント予測:地図      』

 というものだった。

 そして基本文字は黒だったが、『出現ポイント予測:地図』の地図の部分だけは文字が青色になっていた。おそらくここをタッチすると、連動して地図アプリが起動するのだろう。

「んーん、りょーかいデース。ジゲンにも届いたデスかー?」

「うん、届いたよ」

 内容には日付、時間、人物、ポイントと、様々な項目があるが、

「出現時間予測って、この時間に現れるっていうこと?」

「うーんと、それはー、大体その時間に現れるかもしれないということデスね。その時間内が確率的に一番高いというだけデス。あくまで確率なので、絶対その時間の中で現れるというわけではないデスよー」

「そうなんだ。今まで予測時間外だったことはあるの?」

「何回かあったデスよ。夕方近くまで待った時は、大変だったデース」

「それは大変だなぁ」

 けど、10時30分~13時30分って三時間だよね? かなり広いような……。

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