第二章 7 ニメ神様
「……で、ニメは何で僕のところへ?」
「課長からジゲンの指導とかを、任されたからに決まっているじゃない。あんたまだ悪鬼対策課のルールとか分からないでしょ。仲間になったばっかなんだし」
「確かに。そうでした」
「それに、この世界に来てまだ二日目でしょ? まだまだ知らないことも多いだろうから、この世界の先輩として、もう少しいろいろと教えてあげようと思ったの」
「なるほど」
「それから、あんた今日の朝食はどうするのよ。一文無しのくせに」
「……ああ」
「以上の三点から、あたしはここに来たの。あたしに感謝しなさい。崇めなさいっ」
「ニメ神様! ニメ神様ぁ!」
「はい、よろしい。じゃあ行くわよ、ジゲン」
ニメは神様です。いや天使かもしれない。あるいは聖母という手もある。
そんな素晴らしい仏であるニメのあとを、僕は今日も追っていく。
トイレの洗面所で顔を洗い寝癖を整え、それからニメについていって、保安局の外で一緒に朝食を取った。女の子に奢ってもらうのは男としていかがなものかと思うけど、一文無しの僕にはどうすることもできないので、諦めてそれに甘える。
今は仕方のないことなのだけれど、またニメに借金が増えてしまった。
「もう少し時間があるから、ちょっと大回りしながら戻りましょ」
朝食後にニメがそう提案したので、朝の街を探索しながらゆっくりと保安局に戻った。
保安局の建物に戻ると、もうすでに幾人もの人が慌ただしく業務をこなしていた。昼夜の概念があまりない部署の人は大変そうだなと、他人事のように思ってしまう。
「僕たちは、まだ時間的に大丈夫なの?」
テキパキと働いている人を見て、ついニメにそう訊いてしまった。
「課長が、緊急じゃなければ九時でいいって」
「そうなんだ」
「あ、これが悪鬼対策課のルールその一だから。基本九時に一度、悪鬼対策課の部屋に集合すること。覚えておいてね」
「了解」
「じゃあそろそろ九時だから、カシツに行きましょう」
カシツ? かしつ、とは? 何だか聞きなれない単語が。
「カシツ、って?」
「えーっと、悪鬼対策課の『課』に、教室の『室』で課室。つまり悪鬼対策課の部屋のこと」
「課……室? ああ、課室ね。なるほど。部室と似たような」
「そうそう」
新しい言葉を教えてもらったのちに、僕とニメは悪鬼対策課の課室へと向かった。
「おはよー」
ニメが朝の挨拶をしながら課室のドアを開ける。僕も挨拶をしながら部屋に入った。
「ニメとジゲン、おはようデース!」
「おはようございます」
課室にはすでにサディとリュウがいた。僕たちが一番遅かったようだ。
悪鬼対策課の部屋は、一番奥に課長のデスクがあり、その前にはテーブルと向かい合った二つのソファーがある。サディとリュウは今、そのソファーに腰掛けていた。
「課長、おはよー」
「おはよう、課長」
僕とニメは課長のデスクの前まで行き、レイコさんに挨拶をする。もちろん砕けた口調で。
「ん、おはよう。ちょっと待っててな」
課長は何かの書類に目を通していた。邪魔をしては悪いので、僕たちもソファーに行って待機する。ソファー姉さんとのファーストコンタクト。
腰を下ろすと、とても柔らかな感触が。すごくいいですよ、ソファ姉。
僕の隣にはリュウが、向かいにはニメとサディが座っている。特に何かするでもなく、ただ座っていた。課長の用事が終わるのを素直に待つ。
そして数分後。
「すまん、待たせたな」
用事が終わったらしく、課長がそう声を発した。そして続けて言う。
「今日も皆ありがとう。さて今日は……まずジゲン、君に渡しておくものがある」
「僕にですか?」
「これだ」
言うと同時に、課長が何かを僕に向かって放り投げた。――って雑!
慌てて僕は目を凝らし、それを両手で受け止める。何とかキャッチできたものの、すごい渡し方が雑なんですけど。言ってくれれば取りに行ったのに。
「今、渡し方が雑だと思ったろう?」
「いや、誰でもそう思うでしょ今のは!」
「いいツッコミだ。年上にも容赦のないツッコミで、わたしは大満足だぞ」
「…………」
「とりあえずそれは君のものだ。大切にしてくれ」
課長にそう言われて、手の中のものに視線を落とす。それは、スマートフォンのような見た目のもの……というか、完全にスマートフォンだった。スマホだった。
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