第二章 6 眠りのハナ・起こしのニメ

 ――誰、だろう?

 その少女は声だけでなく、身長も本当に小さくて正真正銘幼い少女だった。

 暗くてはっきりとは分からないが、白い――もしくは銀色のセミロングヘアーに、同じく白っぽいワンピースという服装を、その少女はしていた。

 そしてその少女は、一目見た時はただの愛らしい現実の少女かと思ったが、そうではなかった。その少女は、かなり現実に寄せた造形の3DCGの人物だったのだ。

 その少女が最初に僕の顔を覗き込んだ時は、本当に現実の少女、三次元の可愛らしい少女にしか見えなかった。でもよく見ると、現実にはありえない、違和感としか言えないものを感じて、そこでようやくその少女が3DCGだということに気がつけた。

 白いっぽい髪と服装をした、三次元っぽい3DCGの少女。

 そんな謎の少女が今、僕の隣にいる。

「おにーさん、なまえはー?」

「僕? 僕はジゲン。君は?」

「ハナはー、ハナっていうのー」

「ハナちゃん、ね」

 ハナ、はな、花。もしくは、華。名前は理由はおそらくそれだろう。

「ハナちゃんは、どうしてここに?」

「ここがハナのおうちだからー。ここでいつもねてるのー」

 ……なぜ、こんな少女が保安局の建物に? なぜだ? まったく分からない。

 少し質問の仕方を変えてみよう。

「どうしてハナちゃんは、ここで寝ているの?」

「ハナはー、ほあんきょくのひとだからだよー」

 ほあんきょくのひと。――保安局の人。

 聞き間違いではない。その少女、ハナは確かにそう言った。彼女の幼い口から、確かに保安局の人と、はっきりそう言ったのだ

「……へぇー、ハナちゃんも保安局の人なんだ」

「そうだよー」

 なら、それなら、この仮眠室で寝ているのにも一応は納得できる。この保安局の人ならば、仮眠室を使用しているのもおかしくはない。どこもおかしくはない。

 けれど、問題なのはそこじゃない。なぜ彼女が、こんな小さな体をした幼い少女が、保安局の人員となっているのか。問題はそこである。

 でも考えてみれば、ここは普通の世界とはまったく違う。こんな少女でも年齢は僕より高いかもしれないし、特殊な能力を買われてここにいるのかもしれない。そしてそもそも、彼女は3DCGの子だ。この世界では、普通の世界を基準に考えてはいけない。

 そう思うと、僕はその少女に何も言えなくなってしまった。

「じげんおにーさん。じゃーおやすみー」

 僕が声を掛けれないでいると、ハナちゃんはそう言って眠りについてしまった。幼い少女らしく寝つきが良いのか、すぐにスースーと寝息が聞こえてくる。

 ハナちゃんを起こすのも悪いし、他にやるべきこともないので、僕も眠りにつくことにする。

 改めてベッドに横になると、僕も気づかないうちに寝てしまった。



「――――――――さい」

 自分の外から誰かの声が聞こえる。

「―――――おーきてよ」

 それは昨日よく聞いた、心地良い女の子の声。

「――ジゲン、ウェイクアップ!」

 心地良い女の子の声、ニメの声がする。そのニメが起きろと言っているのが聞こえる。

 僕ははっきりと意識を覚醒させ、まぶたを開けた。

 するとベッドの傍らにニメの姿があった。昨日と同じ赤いジャージ姿でそこに立っている。

「おはようございます……」

「はい、おはよ。初夜の眠りはどうだったかしら?」

「星三つです……」

「それは良いことで。ほら、さっさと起きなさい」

 ニメに急かされ、とりあえずベッドのふちにある上着を手に取る。それから立ち上がりつつ上着に袖を通し、軽く寝起きの伸びをした。体がぐいっと伸びて気持ちいい。

「……あ、そういえば」

 体と頭が起きて最初に考えたことは、昨日の少女――ハナちゃんのこと。

 隣のベッドに視線を移す。けれど、そこにはもうハナちゃんの姿はなかった。

「いない……」

 僕より早く起きて、すでにどこかへ行ってしまったのだろうか。最初から最後まで、良く分からない謎の少女のままだったなぁ。一応、保安局の人ということは分かったけど。

「ん、何かあったの?」

 僕がハナちゃんのいたベッドを見ていると、ニメがそう訊いてきた。

「昨日、すごく幼い女の子が、僕の隣のベッドに来たんだ。それで一緒に寝たんだけど、今起きたら、もういなかった。まあ、それだけだよ」

「ふぅーん、幼い女の子ねぇ……」

「ここは暗いから、はっきりとじゃないけど、白っぽい髪に白っぽいワンピースだった」

「……知らないわね。少なくとも、あたしは見たことないわ」

「ニメも知らないか。まあ、特に何もないから、いいんだけど」

 結局、ハナちゃんは謎のままだ。

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