第二章 4 建物案内
「じゃあジゲン、この建物を少し案内してあげるわ」
「あ、うん。ありがとう、ニメ」
「……ねぇ、ジゲン? あなた自然といつの間にか、あたしたちにも砕けた口調になってるわよね? 気づいてる?」
「あ、やっぱりまだ、なれなれしかったですか?」
「やっぱりあなた、わざとやってたのね」
「私は別にいいデスよー! ジゲンが近くに感じられるデース!」
「おれもいいよ。ジゲンとおれは、熱い兄弟だからな!」
少しでも早く心の距離を縮めようと、それとなくやってみたのだけれど、効果はあったようだ。むしろ効果がありすぎて、リュウのキャラが変なことになっちゃったけど。
「ニメはまだ嫌なのデスか?」
「あたしも別に、嫌じゃないけどさ……」
「お? けど、何なのデス?」
「あ、あたしが。先輩であるあたしの方から! もっと砕けた口調でいいわよって言いたかったのにいいいいいいぃぃぃぃぃぃ――――――っ!!」
……えっ?
「それなのに、それなのに! 何なのよあんたは! しれっと砕けた口調をやり始めて! おかげであたしはそれを言えなくなったじゃない!! どうしてくれるのよ!?」
「……いや、どうしてくれるって言われても」
「少しは先輩の気持ちくらい察しなさいよ! それが後輩ってもんでしょ!? 何でもかんでも優秀ならいいってわけじゃないのよ!? ええ!? ジゲン分かってる!? ―――――」
それから先、ニメが落ち着きを取り戻すのに、少しばかりの時間を要した。
でも、感情に任せて怒るニメは、それはそれで可愛かった。
「……ごめん、ちょっと言い過ぎた。気を悪くしないでね」
「大丈夫、ならないよ」
むしろ可愛かったし。イラストチックなアニメの女の子が怒る姿って、何であんなに可愛いんだろうね。やっぱり、デフォルメが効いたイラストっぽい見た目だからだろうか。
「あー、ニメはやはり可愛いデス! 可愛すぎて鼻血が出そうデース!」
サディが満面の笑みでそう言いながら、可愛すぎるニメに抱きついた。
「ちょっとサディ! やめてよ! 離れなさいって!」
パチリ、と。
その瞬間、ニメに抱きついたサディが、僕にウインクをしたような気がした。
した、ような。……いや、僕の勘違いだろうか。
「ならニメとジゲン、私はリュウと少し飲みに言ってくるデース!」
サディはニメから離れると、宣言するようにそう言った。
「え、サディ先輩?」
「ほら、リュウ! 行くデスよー!」
「ああ、待ってくださいサディ先輩!」
そうしてサディとリュウは、さっさと二人で行ってしまった。その場には、僕とニメだけが残された。仕方がないので、僕はニメに向き直る。
「……じゃあ、この建物の案内を」
「……そうしましょうか」
ニメとともに、この建物を練り歩く。歩きながら、僕はニメに質問をした。
「そういえば、この建物って結局何なの? 悪鬼対策課があるのは分かるけど」
「そうね、ここは保安局の建物よ」
「保安局? って?」
「簡単に言えば、警察みたいなところ。この世界では、どうやら警察じゃなくて、保安局って名前みたいなの。理由は良く分からないけど、まあただの名前なだけだし、気にすることもないと思うわ」
「ふーん、そうなんだ」
保安局、ね。確かに警察の方がなじみはあるけど、別に活動がしっかりしていれば保安局でもいいと思う。ニメの言う通り、名前は問題じゃないかもしれない。
「んで、その保安局の中に、あたしたちの悪鬼対策課もあるってわけ。捜査一課とか、サイバー犯罪対策課とかと同じ感じ。ちなみに悪鬼対策課は、公安部の所属だからね」
「お、覚えておく……」
「保安局公安部の悪鬼対策課ね。まあ、別に忘れちゃってもいいけど。悪鬼対策課って言えば分かるし。公安部の所属だから何ってわけでもないし」
それからニメに保安局の建物を案内されて、様々なところをまわった。階段を使い、エレベーターを使い、とりあえず建物の中を一通り巡ってみた。
「一応いろいろ巡ってみたけど、覚えるのは悪鬼対策課の場所だけでいいわ」
「せっかくまわってみたのに、そう言っちゃうのか」
「だって行かないし。悪鬼対策課は、ほとんどスタンドアローンみたいなところだから、他のところと関わり合いがないのよ」
「それは楽なのか、悲しいのか……」
「それよりも、今後一番大事になるであろう場所。そこに行くわよ」
「一番大事な場所?」
「あ、もちろん悪鬼対策課が一番だけど、こっちもある意味一番だから」
「そ、そう」
ニメが一番大事だと言って連れてきた場所は、確かに今の僕にとっては一番大事な場所だった。浮浪者である僕にとって、間違いなく一番大事な場所だった。
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