第二章 2 課長に出会って即就職
「おかえり諸君! ご苦労様!」
……………………。
はっ?
「課長、ただいまー」
部屋の奥のデスクに座る女性に対して、ニメがそんなふうに声を掛ける。
かちょう、課長って言った今? え、この人が課長なの? 悪鬼対策課の?
そんな課長に、そんな親しい人みたいな口調でいいんですか? 怒られますよ?
僕は、正しい一般人としてそう思っていたのだが――。
「ただいまデス、課長!」
「……た、ただいま、課長」
――僕の常識は、他二名によってあっさりと裏切られた。
「今回もしっかり働いてくれて助かったよ。 ん、その人は?」
「彼の名前はジゲン。あ、ちなみに、その名前はあたしが名づけたのよ。んで、彼を含め、今回の悪鬼討伐についてちょっと話があるの、課長」
ニメが課長のデスクに近寄りながら、やはり親しい口調で話をする。
おそらくこの口調は、課長からの命令に違いない。たぶんこの課長は敬語とかが嫌いなタイプの人で、ニメたちに敬語や丁寧語を使わないでくれと言っているに違いない。
僕もニメのあとに続いて、課長の前まで歩みを進めた。
「君がジゲンくんか。わたしはこの悪鬼対策課の課長、レイコだ」
レイコさん――課長は、見た目三十代くらいの女性だった。しかも僕と同じ現実の、三次元の人だった。課長が三次元の人だったことに、僕は少しだけ嬉しさと安心を感じた。
課長は綺麗な黒髪を、首の後ろで束ねた髪型をしている。そして服装は黒のスーツという、いかにも仕事のできる女性のような格好をしていた。キャリアウーマン、という言葉がピッタリな人である。そのうえ、なかなか美人な人だった。
「で、課長、今回の話なんだけど……」
僕の左隣に立つニメが、今回の悪鬼討伐の話を課長にする。僕を助け、悪鬼を追い詰め、そして逃げられ、それを変身した僕が倒したこと。それらを、課長に話した。
もちろん、あの謎のタイムラグのことも、しっかりとニメは伝える。
「ふむ、謎のタイムラグか……」
それから、僕をここに連れてきた理由も話す。とはいっても、簡単に言ってしまえば勧誘の直接交渉のためなんだけど。僕には、悪鬼を倒せる力があるようだから。
「――ってことで、ジゲンを第一班に加えたいんだけど」
「よし、許可しよう。人員補強は課題だったからな」
「ありがと、課長! ジゲンやったわね、これで正式にあたしたちの仲間よ!」
そう言ってニメが、僕の背中を叩く。
「あ、ありがとうございます。これから頑張ります」
「ん、殊勝な心掛けだ。しかし、この悪鬼対策課の、わたしの部下となったからには、一つ命令がある。……それは、わたしに対しては、一切の敬語・丁寧語はいらないということだ」
やはり、少し前にしていた僕の予想は当たっていた。
予想はしていたので、言葉の切り替えは意外と簡単に、スムーズにできた。
「分かった、課長。これからよろしく」
「ほう、一発でできるとは、なかなか優秀だ」
「まあ、予想していたんで」
「なるほどな。やはり優秀だ。……ではニメ。第一班班長として、ジゲンの指導・教育・その他諸々をお前に任せる。よろしく頼むぞ」
「はーい」
ニメの横顔をちらっと見ると、その顔はどこか嬉しそうな顔をしていた。人員補強されて嬉しいのだろうか。それとも、僕という後輩という名の下っ端ができて嬉しいのだろうか。
「よし、それなら、みんなお待ちかねの給金タイムだ!」
そして唐突に、課長が唐突にそんなことを言い始めた。
「わーい!」
「来たデース!」
「待ってました!」
そして突然、みんなのテンションも爆発的に上がる。給金ということは、つまり給料として支払われる金銭のことだから、お金がもらえるということだろうか。
それならテンションが上がるのも納得できるかもしれない。
「はい、五千円。大事に使えよ!」
課長がニメ、サディ、リュウの三人に、それぞれ封筒を渡していく。三人は、それを嬉しそうに受け取っていった。何ともハッピーな光景である。
「おっと、すまんなジゲン。急なことで、君の分は用意できていないんだ。また次の機会に合わせて払うから、それまで待っててくれ」
「はい」
「ついでに説明しておこうか。今のように、悪鬼を倒すと給金が出る。悪鬼を一体倒すごとに五千円だ。倒せば倒せるだけもらえるぞ」
「ヒーローにもなれて、お金も出る。結構いい仕事でしょ?」
課長のあとに続いて、ニメが封筒を、五千円を持ちながら楽しそうにそう言う。
「これはボーナスと考えてくれ。心配しなくても、毎回一週間ごとに一定の給料は出ることになっている。だから、悪鬼討伐がまったくなくても生活には困らないはずだ」
なるほど、それはありがたいシステムだ。安定していて助かる。
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