第二章 1 魔法少女からのジャージ


 第二章 承



 僕は、ニメの先導でサディ、リュウとともに彼女たちの帰る場所へと向かっていた。

「着いたわ。ここよ」

 それなりに移動して、ようやく先導していたニメが到着と言う。

 そこは、大勢の人が中で働いていそうな、少し重々しい感じの建物だった。その建物はおよそ五階建てで、横に広く大きい造りをしている。まったくその建物に縁がない人にとっては、入るのをややためらってしまいそうな、そんな雰囲気を放っていた。

「ここ、ですか」

 僕は女の子の声で、そう呟いた。

 僕は彼女たちの移動速度に合わせるため、もう一度変身をしていた。元の男の状態では、一般人と何ら変わらず、三人の人間離れした動きについて行けなかったからだ。

 もう変身したこの姿にも慣れ、これをもう一つの僕の姿と思うようにもなっていた。

「もう変身解いていいわよ」

 ニメから許可が出たので、僕は変身を解く。いつものステップを踏み、男の姿に戻った。……けれど、このめまいのような感覚だけは、何回やっても慣れそうにない。

「じゃあ、あたしも変身解除を」

 そして突然、ニメがそう言うと、彼女は両手を前に突き出した。

 すると、ニメの体が急に赤い光に包まれる。それからその光が、突き出した両手の中に集まっていき、光は手の中でその形を変えていく。その光が本のような形になったかと思うと、次の瞬間、ニメを包んでいた光が突如として消えた。

 赤い光が消えると、ニメはあのフリフリした魔法少女のような服装から、普通の服装へと姿を変えていた。その服装は、普通の――。

「――ジャージじゃないですか!?」

「え、何? 悪い?」

 その服装は、普通のジャージだった。しかも、髪と同じく上下ともに赤。まったく可愛らしさの欠片もない、女の子として不安になる姿だった。

「何でよ、ジャージは最高でしょ! 動きやすいし、洗濯しやすいし、そのまま寝られる! これほど素晴らしい服は他にある!? ジャージは最高なのよ!」

「……あ、はい。最高です」

「うむ、それでよろしい」

 女の子として、それはそれでいいのだろうか。ニメはアニメだけど。

「女の子だけど女の子じゃないデスからね、ニメは」

「うるさいわねぇ。変身したら可愛い服だからプラマイゼロでしょ?」

 ……ゼロも良いとは言えないのでは?

 ――と。よく見ると、ニメは左手に本を――サイズ的に文庫本を持っていた。

 思い返してみれば、赤い光が消えてニメが姿を変えた時に、両手の中にあった本のような形をした光も、その光が消えた瞬間に何かに姿を変えていた気がする。

 それがこの文庫本かもしれない。あの手の中の光から、この本が姿を表したのか。

「ん? ああ、これ?」

 僕の視線に気づいたのか、ニメが左手を持ち上げてその本を見せてくる。

 その本は、その文庫本は、どこからどう見てもライトノベルだった。

 タイトルは、『魔法少女たちの本気』である。表紙には、顔や髪型こそ違うものの、変身したニメと同じ服装の、可愛らしい女の子のイラストが描かれていた。

「これであたしは変身するのよ。あたしは、ライトノベルの中のヒロインと、同じ力を手に入れることができる能力を持っているの」

「なら、服が変わったのは……」

「ヒロインの力を手に入れると、その副産物として、服装もヒロインと同じになるのよ。この本の場合は、ヒロインがこの魔法少女の服装のこの子だから、あたしもこれと同じ服装になったってわけ。そういうこと」

 ニメがあの魔法少女の服装をしていたのには、そんな理由があったらしい。

「で、能力を使って変身すると、使用する本は一時的にあたしと一体化して消えるの。そして変身を解くと、その本は再びあたしの手の中に戻って来るわ。以上、説明終わり!」

 ニメ自身によって、この話はこれで終わってしまう。

 まだまだその能力について、詳しいことを訊きたかったけど、今はやめておこう。まだ訊くチャンスはあるだろうし、話す話題にもなるだろうから。

「さっさと行くわよ」

 随分ここで話してしまったが、再びニメの先導で、僕は彼女たちの帰る場所へと――その少し重々しい感じの建物へと向かう。

 正面玄関をくぐって、エレベーターに乗り、廊下を歩く。途中でこの建物にいる、他の人とすれ違ったりもしたが、特に何もなく歩いていった。

 廊下ある程度進むと、先導していたニメが足を止めた。ここは建物を正面から見て、四階の、右側奥辺りに位置する場所だった。そこが、ニメたちの帰る場所らしい。

 部屋を表すネームプレートには、『悪鬼対策課』という文字がある。

『悪鬼から人々を守り、悪鬼になった人を倒すのが、あたしの、あたしたちの仕事』

 という、あの時のニメの言葉が脳裏によみがえってくる。

 その悪鬼対策課の扉を、ニメは開く。僕もそこに足を踏み入れた。

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