第一章 9 変身解除と謎
変身解除。――変身解除。……変身解除?
変身解除って、……どうやるんだっけ?
「……何ぼーっとしてるの?」
何のアクションも起こさない僕を、ニメが訝しむように見てくる。
「あ、いえ、何でもないです!」
とりあえず誤魔化してみたものの、早急に対処しなければ。早漏と同じくらい早急に対処しなければ! 変身解除ってどうやるんだ!? どうやるんですか!?
そうだ。
――ソウル・アウト。
これしかない。これで女の子に変身できたのだから、もう一回やれば元に戻れるはず。
確証はないが、やるしかない。今、一番可能性が高いのはこれだから。
というわけで。心の内で、魂で、再び叫んでみる。
ソウル・アウトッ!!
…………。
来た。めまいが、来た。あの時と同じ、あのめまいが。
意識がはっきりすると、ニメートルほど前に僕が立っているのが分かった。目の前にいる僕は、男物の服を着た、正真正銘元の姿の僕だった。
対して今の僕は、女の子の姿の状態で、例の白く半透明の状態になっている。これも、最初に変身したあの時と同じだ。まるで魂だけの存在になってしまったかのような感覚。
なら、あとは同じはずだ。あの時はあっちから接触してきたけど、この霊体とあの実体を接触させれば変身完了なはず。それでいけるに違いない。
僕は魂のまま歩みを進め、後ろから自分の体へと飛び込んだ。
――このめまいは、何回やっても慣れそうにない。
気がつくと、無事に変身解除は成功していた。手足の先まで神経が通っている。
「変身解除したけど、どうかな?」
ああ、僕の声だ。聞きなれた自分自身の声が、僕ののどから発せられる。
「……本当に、あなただったのね」
「おー、すごいデス! 本当に男の人になりましたデス!」
ニメとサディが驚いている。これで証明になったかな。一件落着っと。
……そうだ、まだちゃんと助けてくれたお礼を言ってなかった。
「ニメさん。今さらだけど、助けてくれてありがとう。おかげで助かったよ」
「あら、お礼なんて。当然よ、仕事だもの」
「へぇ、これが仕事なんだ」
「そうよ。悪鬼から人々を守り、悪鬼になった人を倒すのが、あたしの、あたしたちの仕事。あ、悪鬼っていうのは、さっきの怪物のことね」
怪物を倒すのが仕事って、なんかヒーローみたいで格好いい。
「でも今回倒したのは、私たちではなくてアナタなのデスけどね」
「あ、そういえば……」
「ん? 何かしら?」
そういえば一つ、疑問だったことがある。それをふと、今思い出した。
今回、ピンチに追い込まれた怪物――悪鬼が僕の近くに来て、何やかんや僕が戦うことになってしまったけど、その間――。
――僕が戦っているその間、ニメたちは何をしていたのだろう?
それが疑問だった。僕が戦い終わるまでに、結構な時間があったはずだし、二人が悪鬼を追いかけてくる時間は十分にあったはずだ。例え何かしていたとしても、あんなに遅くになって来るとは考えられない。
一体、このタイムラグは何だったんだろう?
その疑問を解消するために、僕は二人に訊いてみた。
「えっと、僕が悪鬼を倒し終わるまで、二人は下で何をしていたんです?」
「え? 下でって……」
ニメとサディはお互いに顔を見合わせる。僕、そんなに変な質問をしただろうか。
「えーっと、僕が悪鬼を倒すまでに、結構な時間があったと思うんですけど、二人が来たのはその悪鬼を倒したあとだったんで、なんかおかしいなって。時間的に」
いまいち伝わっていなかったかもしれないので、補足をしてみる。
「……うーん、正直に言うけど――」
ニメが答える。しかし。
「――あたしたちは、すぐに悪鬼のあとを追ったわよ?」
「えっ?」
今度は僕が首を傾げる番だった。
「そ、そんなはずないですよ。だって、あんなに時間が経ってから……」
「時間は分からないけど、あたしたちは悪鬼をすぐに追ったわ。それだけは断言できる」
「そんな……。じゃあ一体……」
一体、あのタイムラグは何なんだろう?
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