第56話 『災厄の日』(ドゥームズ・デイ)


 大陸の西方ヴェルザーク。


比較的機構の安定した南部と寒冷で積雪の多い北部に別れる山岳地帯だ。

そしてその北部の山林深くの古城にドミネイト皇帝は居た。

 

「ええい!!シェイドは何をやっている!!この儂をいつまでこんな所に閉じ込めておくつもりだ!!」


癇癪を起しテーブルを蹴とばす。


『まあまあそう言わず、敵の出方が思いの外、もたついていたのでね…』


「貴様…シェイド!!いつの間に!?」


ドミネイトの後ろにはシェイド以下、アークライト、グリム、リサ、ルビーが立っていた。


「これは丁度良い…いつになったら儂にエターニアへの雪辱を|そそがせてくれるのだ!?もうかれこれ十日は経つぞ!!」


相変わらず尊大な態度を取るドミネイト…しかしいつもなら物腰柔らかく対応するシェイドも今日ばかりは違った。


『今日の俺はすこぶる機嫌が悪い…それはもう俺の機嫌を損ねる者を根こそぎブチ殺したいほどにな…それに世界的なお尋ね者となった貴様を匿ってやっているんだ…身の程を弁えろ…』


冷徹な声…角付きの黒い兜越しに見える目からは真っ赤なオーラが吹き出している。


「ひっ…!?」


ドミネイトも只ならぬ気配を感じ身体を縮み上がらせる。

完全にシェイドの気迫に押されてしまっていた。


『フン…いいだろう…お望み通りエターニアに復讐させてやる…こっちへ来い…』


「あっ…ああ」


先程までの勢いは何処へやら、ビクビクとシェイドとその一団の後を付いて行く。

古城の外まで移動した彼らの目の前には山の斜面を抉って造られたと思しき巨大な扉があった。

仰け反らなければ天辺が見えない程の石造りの重厚な大扉…ここまで大きいと人の力で開く事はまず不可能であろう。


「ここは…」


空間転移魔法で連れて来られたドミネイトはこの巨大な扉は元より、古城の外の景色を見るのは初めてだった。


『ドミネイト殿…この扉は何故ここまで巨大だと思う?』


「そっ、それは…この中に例の巨大戦車があるから…でしょうか?」


恐る恐る受け答えをするドミネイト…つい言葉使いも丁寧なものになってしまう。


『半分当たりだ…しかしそれだけではない、巨大戦車『災厄の日ドゥームズ・デイ』は一度動き出せば他の物を寄せ付けない程の強大な戦力だが停止状態では無防備なのだよ…だからこの扉は防護壁の役割もしているのさ…おまけに魔法を無力化する特別な素材で出来ているので純粋に強い力で無ければ開く事すら敵わない』


「でっ、では我々にも開けられないのでは…?」


『フッ、その心配は無用…ルビー、頼む』


『はい…うけたまわりましたわ』


紅いワンピースの少女、ルビーの身体のあちこちが一斉に蓋を開ける。

中から機械的な部品や装甲が出て来てそれが組み合わさり一気に巨大な身体になっていく…程なくして紅くて巨大な『絶望の巨人デスペア・ジャイアント』が姿を現わした。


「ひっ…ひゃあああ!!!」


あまりの出来事に仰天し腰を抜かすドミネイト。

地面に尻もちを付き、只々巨人化したルビーを見上げていた。

しかしそんな事は意に介さず、ルビーは扉に正対し両腕で扉を左右に引っぱり始めた。

やがて石と金属が擦れる様な鈍い音を立ててゆっくりと扉が開いていく。

開いた中は山をくり抜いて造られた巨大な部屋になっているようだ。

但し直線的で整った造りは人為的なものである証拠だ。

そしてその奥には巨大な何かが存在しているのが分かる…陽の光が差し込み徐々にその姿が明らかになる。


『見よ!!これが我らが決戦兵器『災厄のドゥームズ・デイ』だ!!』


茶褐色の角ばった巨体には左右に四本づつの甲殻類を思わせる長い脚が生えており、上部には人が立って中を移動できそうな程極太で長大な大砲が載っている。

本体部前方の、円錐を寝かせた様に飛び出た部位の側面には目付きの悪い三白眼とギザギザの歯が並んだ口…まるでサメの様なペイントがされている…ノーズアートとでも言うべきなのか。

姿かたちはどちらかというと滑稽な部類に入るが問題はその巨大さだ。

この巨体が脚をワサワサと動かしながら迫ってくる様は想像するだけでぞっとする。


「おおっ…!!これが遥か昔、数多の人間を葬ったと言われる古代魔導兵器…これさえあればエターニアなど恐るるに足らぬ…」


感嘆と恍惚の表情を浮かべ目の色が変わるドミネイト。

この大扉が開かれたのは二千年前の大戦以来なのでシェイド一味も『災厄のドゥームズ・デイ』を見るのはこれが初めてだ。

声こそ出さなかったが皆一様にその姿に見入っていた。


シェイド達とドミネイトは備え付けの階段を使って『災厄のドゥームズ・デイ』の本体部の上に乗った。

シェイドが装甲の一部に触れるとそこから放射状に光が這い回り装甲が跳ね上がり、やがて人が入れる位の空間が開いた。

しかしその空間は薄暗く、足元には緑の蛍光色の液体に満たされ、それは鈍く光っていた。


「どうなっておるのだ…これでは乗り込めないではないか…あまりに古くて壊れているのではないのか?」


中に顔を突っ込んでドミネイトが悪態を吐く。


『いやいやこれで良い、聞いていた通りだよ…ドミネイト殿、この『災厄のドゥームズ・デイ』が何をもって起動するか分かるか?』


「いや、皆目見当もつかぬが…」


『欲深い人間の魂だよ…支配欲、出世欲、食欲、性欲…何でも良い、より執着心を持つ強欲な人間を捧げる事でこの『災厄のドゥームズ・デイ』は起動する…』


「ほう、それは興味深い…うん!?ぷあっ!?何をする!?」


突然背中を押されたドミネイトは戦車内に満たされた液体の中に落ちてしまった。


『あなたがその起動役となるのですよ復讐欲に囚われた老害め…』


「貴様シェイド!!話が違うぞ!!儂にエターニアに対して復讐させてくれると言うのは嘘だったのか!?」


ジタバタと液体の中でもがくドミネイトを見下しシェイドは言う。


『嘘…?いや何も間違っちゃいませんよ…あなたの身体はその液体の中で溶けていきやがて『災厄のドゥームズ・デイ』の動力となる…言わばあなたがこの戦車その元言っても過言ではない…その力を以てエターニアを滅ぼせればそれで良いじゃないですか…』


「おのれ…!!ガボッ!!謀りおったな!!ゴボッ!!」


『やれやれ、最期にもう一度チャンスを上げたんだ…感謝して欲しい位ですよ…』


何の感情も無い淡々とした口調…やがてドミネイトの姿は溶けて消え失せ、液体の中には彼が着ていた衣服だけが漂っていた。


『さあ古代の偉大なる戦の王よ!!その力を以て今一度世界を蹂躙したまえ!!』


ガオオオオオンンンン……!!!


シェイドの口上に呼応するかの様にまるで雄叫びの機械音を発し『災厄のドゥームズ・デイ』が身体を持ち上げ始める。


『リサ、お前にこの『災厄のドゥームズ・デイ』の制御装置を預ける…後は任せるぞ…俺はマウイマウイに行く…』


シェイドはリサの掌に拳大の青く光る石を渡してきた。


「はい…お任せを…あなた様のご武運を祈っています」


『うむ…お互いにな…』


そう言い残し、シェイドはアークライトと共に空間移動魔法でこの場から姿を消した。


「凄い…」


リサは背筋に冷たい物を感じた…『災厄のドゥームズ・デイ』が止まっている時に下から見上げていた時と起動している今とでは感じる禍々しさが桁違いなのだ。


『こりゃあいい、もうシャルロットなんて出来損ない勇者なんぞ放っておいてこいつで世界を滅ぼしちまえばいいんだ』


「シェイド様にはシェイド様のお考えがあるのよ…私達は指示通り動いていればいいの…あんたもそろそろ準備を始めな!!」


『へいへい、分かったよ、おっかねえな…』


軽口をたたくグリムを制し『災厄のドゥームズ・デイ』を移動させるリサ。

グリムはいつの間にか姿が消えていた。


「ふっ…ん」


制御石に意識を集中すると遠くの景色が見えてきた。

『災厄の日』の標準装置の映像が直接頭の中に流れ込んでくる仕組みなのだ。


(ウフフ…丸見えね…エターニアも手に取れる様だわ…)


リサの視界には既にエターニア城が入っていた。

『災厄のドゥームズ・デイ』のあるここヴェルザークからエターニアまでは馬車で五日は掛かる距離だ。


「仰角を取れ!!」


リサに呼応して『災厄の日』の巨大砲がゆっきりと起き上がっていく。

そしてリサの視界にある標準の十字の中心がエターニア城と重なった。


「標準良し!!撃てーーー!!」


号令を合図に砲身に魔力が集中し放たれた。

それは一条の光の束になり突き進む。

放物線を描き狙う先にはエターニア城がしっかりと捉えられていた。

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