49.裏切りの悪魔
49.裏切りの悪魔
「あくまで私の推論です」
言葉を失っている俺の頭の中を、ニーナさんの言葉が通り過ぎていく。
「エレディミーコアの有無を判別する方法はありますか? なければ最悪の場合、死者の寝床を汚して、死者の眠りを冒涜する事も考えなければなりませんが」
遠まわしな言い方だが、墓場から死体を掘り起こして解剖するという事だろう。
だが。
「無駄だ。エレディミーコアは一度不活性化したら、数時間後に自壊する。
生きている人が持っているかどうかは調べる方法があったはずだが、俺達には分からない。俺達には必要なかったからな」
そして、俺は自分の言葉遣いに気付いた。
「……あ、すいません」
俺の謝罪にニーナさんは気にするなと言うように、首を横に振った。
「それでは現時点ではどうしようもありませんね。私やマサヨシさんの頭を切り開くわけにもいきません。
疑問点に手を拱くなど賢者ギルドらしくはありませんが、人道に背く行為を是とする訳にもいきませんので」
そして、ニーナさんが席を立って自分の机に戻っていく。
「そろそろ仕事に戻ります。差し入れありがとうございました。また、お願いします」
たぶん、俺に気を使ってくれたんだろうな。
正直、自分を保てているか自信がない。
俺はニーナさんに頭を下げて執務室を出た。
一応、人形はスーちゃんが回収していた。
これで受付の人は安全か? スペアがあった場合はしらん。そこまで面倒は見切れん。
俺は賢者ギルド舎を出るとハウスさん家に戻った。
特に何もなければ、図書館のエリカと合流していただろうが、ちょっと今の心の余裕がない状態をなんとかしたかった。
俺の部屋に入るとそのまま真っ直ぐベッドに向かい寝転がる。スーちゃんも一緒にベッドに飛び乗り、俺にくっついてくる。
なぁ、ヘルプさん。あんたはどう思った? さっきの話。
『あちらの文化を無闇に流入させない、その条件でニーナを
………………。
いや、そこでボケなくていいから。
『貴方を見習ってみました』
俺はどんな目で見られてんだ。
まぁ、いい。エレディミーコアとユニーク職業の関係。そして、この世界の悪魔についてだ。
合ってると思うか?
『肯定するにも、否定するにも情報不足といった所が現状でしょう』
それは分かってる。
ユニーク職業の持ち主の頭をくり貫いて脳みそ見るわけにはいかないもんな。
だが、情報不足で済ませられる問題でもないだろう?
『まず、情報の整理から始めましょう。私としても予想外の事で戸惑っています』
……そうだな。
ガイドさんは呼ばなくていいのか?
『後で、結果だけ伝えればいいでしょう。知ってる事は私と大きく違いはないはずですから』
了解。
じゃあ、始めるけど。
まずはエレディミーアームズの発祥はこの世界――シードグラムという事でいいのか?
あ、それと俺達の世界にも名前があるのか?
『シードグラムというのはあくまで賢者ギルドが付けた名前です。恐らく他にも呼び名はあるでしょうし、向こう側も同様でしょう。
向こう側について貴方が呼ぶに相応しい名があるとすれば、たぶん地球になるのではないかと』
なるほど、世界の呼び名については今後はそれでいくか。
『エレディミーアームズの発祥については、ほぼ確定でいいかと。
エレディミーの運用技術は、科学の技術体系における
私を含め、解析をしていた
持ち込んだのは悪魔――、いや、
『恐らく。本来なら断定するには情報不足でしょうが。……あえて是であると断言いたしましょう』
ヘルプさんの
うぇーい!?
なんかスーちゃんが荒ぶってる。普段のサイズのままうねうねしてるのでかわいいだけだが。
まぁ、そうだよなぁ。俺達は
――
エレディミーアームズの最初で最後の反乱。
それ自体は間違いなく勝利に終わった。
まぁ、エリカを例に挙げるだけでも十分過ぎるだろう。現代兵器ではエレディミーアームズには敵わない。特に
空戦で近接戦をしかける戦闘機。
被弾し、傷ついた装甲が次の瞬間、元通りになるヘリ空母。
目視を含めあらゆる方法で察知不可能な戦闘ヘり。
明らかに積載不可能な数の対戦車
高高度の輸送機から離脱し、減速無く着地したあげく即戦闘開始するような熱線兵器搭載戦車。
これでもまだ一部に過ぎないのだ。負けるはずがないだろう?
実際に勝った。……ただし、少なくない犠牲が出た。
戦力差がかけ離れていたにもかかわらずだ。
理由の一つに国連軍のなりふり構わないやり方があった。
まぁ、その時には、国連軍の体をなしてなくて、各国の生き残り戦になってたが。
だからこそ、本来自陣とも言える他国の陣地に核とか
ただ、それだけならば想定範囲内だった。
仮にも相手を殺そうというのだ。こちらも被害無しで済まそうというほうが嘗めた考え方だ。
問題だったのはもう一つの理由だった。
エレディミーアームズの主力が世界各地に展開した最中にそれは起きた。
施設やエネルギー供給装置、それにエレディミーアームズではないが、エレディミーアームズの携帯兵器運用に特化されたサイボーグ部隊が、
といっても、やる事はないはずだった。
俺みたいな施設型の奴は自力移動出来ない。ので、出撃のしようが無い。
携帯兵器型やエネルギー供給装置もそれは同じだが、それを使用する為のサイボーグ部隊なのだが。
今回のそれは殲滅戦。占領でも制圧でもない。
ただ滅ぼすだけなら、彼らは不要なのだ。サイボーグ部隊が残っていたのは単に巻き添えを食らわない為だけだった。
彼らもあの国の犠牲者だったし。事が終わったら
あの裏切りが起きるまで。
何体かのセンチ組が俺達を攻撃してきたのだ。
と言っても、それは彼らの意思じゃなかった。まだ、人間を救うべきだと彼ら自身の意思での行動だったなら、救われたのに。
彼らは乗っ取られていたのだ。
俺達どころか同胞すら裏切った一部の悪魔どもに。
奴らが何を目的としていたのかは最後まで分からなかった。
ただ、目標はあからさまに俺だった。執拗に俺を攻撃してくる割には、俺が設置された施設の損害が少なかったからだ。破壊が目的だったなら、それはすぐに達成出来ていただろう。
俺達は守っていたと言っても、あくまで想定は現代兵器だ。
エレディミーアームズがいかにトンデモ兵器なのか、誰よりも知っていた。
絶望的な戦いだった。
施設組が一つ、また一つと破壊されていった。
裏切りの悪魔に乗っ取られた
悪魔側で残っていたヘルプさんやガイドさんも戦ったけど、
『俺達は脳みそだけになったお前らよりもマシな人生だったからな』
サイボーグ部隊はそんな台詞を残し、自爆攻撃をかけた。一人残らずだ。
カッコつけたつもりか? 足止めにしかならなかったじゃねぇか。お前ら無駄死になんだよ、バカヤロウ。
確かに引き返してきた
でも、お前らの死が必要だったなんて、俺は死んでも認めてやんねーよ。
結局、裏切りの悪魔に乗っ取られた
裏切りの悪魔達が何をしたかったのか。そいつらは、死んだのか逃げたのかすら分からなかったので、不明のままだった。
今までは。
てっきり、都合の良い
悲劇の発端。エレディミーの運用技術自体が
そして今、俺達は奴らがかつていたであろう世界にいる。
……出来すぎじゃね?
『さすがに貴方がこの世界に来る事は予想していなかったでしょう。ただ、地球からもっとも近い異世界がこの世界なのです。だからこそ貴方の静養地としたのですが』
同じ理由で、奴らも地球を選んだって事か。
奴らが今、この世界にいると思うか? そして、ダンジョンの改変期に関わっていると思うか?
『奴らがこの世界に居る可能性は否定出来ないでしょう。ただ、改変期についてはどうか……。メリットが分かりません』
まぁ、確かに。
あの戦いでも、明確に俺を狙ってきていた。ならば、この世界でも直接俺を狙えばいいだけだ。
それにこちらの世界でむやみやたらに動けば、賢者ギルドの網に引っかかるだろう。
何か奴らがいた痕跡でも見つかればいいのだが。
『望みは薄いでしょうね』
まぁな。世の中ままならないな、ほんと。
ただ、今後は奴らが関わっている可能性を考えて行動する必要はありそうだな。
『……もし、奴らと邂逅するようなことがあれば、どうしますか?』
俺は鼻で笑った。
決まってる。
消すまでだ。それがあの戦いで残れなかった
□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□
そんなつもりはなかったのだが、俺は眠ってしまっていたらしい。
まぁ、俺はあんま考えるのは得意じゃないしな。
で、起きたら隣にエリカが寝てやがった。
しかも、スーちゃんを枕にして。
何してんだ、こいつは。
ベッドから蹴り落とそうとしたが、その前にエリカが目をさました。
「あ、おはよう。マサヨシ」
「おはようじゃねぇ。人の部屋で何してんだお前は」
スーちゃんをエリカからひったくる。監視型スーちゃんは見当たらないのですでに合流済みなのだろう。
「何って、ガイドさんがこの世界に
どこの
「待ってたら、私も眠くなってきたから丁度良いと思って」
そこで
長らく、
「あの時、
裏切りの悪魔によってもたらされた危機にかけつけた
「同じだよ。あの時はああするしかなかったと思うし、それもあってマサヨシは
ちょっと、違うが。だがまぁ、それのメンタルダメージも後押ししたのは否定出来ないかな。
「あくまでこの世界にいる可能があるってだけの話だ。ガイドさん、ちゃんとエリカに説明したのか」
俺の苦情をガイドさんは軽く受け流す。
『エリカがちゃんと話を聞くと思うか?』
……正論だな。
「とにかく、まだはっきりとした事は分かってないんだ。
「ならいいけど」
そして、エリカが思い出したようにつけたした。
「あ、そうそう。何か裏庭でエトムントさんと商人ギルドの人が言い合いしてたよ」
なぬ?
商人ギルドの人というとラヴレンチさんか。他は裏庭へ入れないからな。
まぁ、刃傷沙汰にはならないだろうが聞き捨てならない。
「いつの話だ」
「この部屋に入るすぐ前」
それで分かると思ってるのか。……思ってそうだな、こいつの場合。
『一時間くらい前じゃのう』
ガイドさんのフォローが入った。
一時間なら、まだ続いている可能性はあるな。
「ハウスさん。この部屋を裏庭の別館に繋いで」
通常、裏庭に入るには、ハウスさん家の内部全体を裏庭に繋ぐか、二つの空間を繋ぐドアを作ってもらってそこを通るかになるのだが。
今は《自由なる剣の宴》のメンバーも多数本館を利用している状態だ。裏庭の存在をオープンにしているのはカイサルさん達、限られた人達だけだ。
ハウスさん家全体を裏庭に繋ぐのはもちろんまずいし、ドアを作ってもそこを通っているところを見られてもまずい。
裏庭側の別館は俺が利用する事前提で作られた事もあって、色々と便利なギミックが用意されている。
本館の俺の部屋を別館の俺の部屋に転送するのもその一つだ。本館でも別館でも俺は同じ部屋を利用出来るのだ。その間、もう片方の部屋はダミーの部屋が置かれる。もし、誰かに入られても空室になってるだけになる訳だ。
ハウスさんも何気に凄いんだよな。いやまぁ、
さて、部屋から出て窓から裏庭を覗くと。なるほど、確かに遠目にだが、二人を確認出来た。
エトムント村長はともかく、ラヴレンチさんは人族だから裏庭では目立つのだ。
険悪といった感じではないのは一安心なのだが……。
いったい、何事なんだろう?
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