35.戦闘機がやってきた
35.戦闘機がやってきた
それを表現するなら、着地というよりも着弾と言った方が相応しい。
着地と激しい地滑りの音で、誰もが呆気に取られた。
あー、ドラゴンもびっくりすると口が開きっぱなしになるのな。
……いや、そうじゃなくて。
この際、空から女の子が落ちて来た事は良しとしよう。いや、よくはないがラピュタのヒロインだって落ちて来たじゃないか。あっちは主人公がキャッチしたが。
体操服にブルマ。どう考えても俺と同じ世界の出としか思えない。念の為にスーちゃん情報で検索したが、ブルマに該当する装いはこの世界に存在しない。というか、俺の高校時代にすでに三次元では絶滅しており、二次元やコスプレ界隈で辛うじて生存確認されていたはず。
俺と同じ世界の人間、そしてブルマ。どちらを先に突っ込むべきかと悩んでいると、先にブルマが――もとい、女の子が口を開いた。
あ、咳き込んでる。
そりゃ、あんだけ派手に着地したら土煙も相当なもんだ。
「ケホッ、何よこれぇ」
女の子は苦情らしきものを言ってるが、むしろあれだけのスライディング着地かましといて、結果をなぜ予測できんかったのかと言いたい。
ちなみに、俺達は出番少ないけど有能なニコライさんの防御魔法で、ドラゴン族は自前の羽で土煙をブロックしている。
「もうっ。煙たーい!」
土煙が一瞬で女の子の周りから霧散する。
む、スキルか? でも、レーダー型スーちゃんから魔力が検知出来なかったが。
『あれは、スキルではありません。いえ、それよりも問題は――』
ヘルプさんの
「あ、ジョロウグモだ。ってことはキミがマサヨシね!」
え? 俺? いや、それよりもヘルプさんの
『その通りじゃ、久しぶりですの。マサヨシ様』
俺の意思にヘルプさんとは別の知っている意思が語りかけてきた。
俺と意思でやり取りできるのは、ヘルプさん、俺と召喚契約した存在、そして【無:念話】対象。それぞれで微妙に波長は違う。六甲のおいしい水と富士山のバナジウム天然水くらいにさがある。
だが、この相手はヘルプさんの使ってる波長とまったく同じだ。
『使ってるチャンネルが同じですので当然でしょう。で、これはどういう事ですか? ドラゴン』
ここでヘルプさんが言ってるドラゴンというのは当然、ドラゴン族ではない。相手の悪魔の名前。
そう、悪魔。それも俺も知ってる
通称、タケノコの盟主。菓子類に目がなく、特にニホンの菓子にはまって、エレディミーアームズのタケノコ派閥を悪魔でありながら乗っ取った
カリカリしたあのクラッカーの食感がいいんだよ! タケノコ派の人にはそれが分からんのです!!
ちなみにニホンが消滅して、もっとも落胆したのはこの
『今の儂は、エリカのスキルに過ぎん。ガイドさんと呼んでもらおう』
『それについては分かりました。が、私も今はマサヨシ様のスキルです。ヘルプさんが今の名です。エリカさんもそう呼んで下さいね』
『えー、めんどくさい。なんで悪魔ってそういうところにこだわるのかな?』
『そういう種族なんです』
間違いない。じいさん――もとい、ガイドさんとヘルプさんの会話の間に混じってる意思は、かつてエレディミーアームズのリンクシステム内で交わした
なんで、あのエリカがここにいる!?
というか、よく見れば、黒目黒髪。日本人顔。お前はドイツ人だろうが!!
『マサヨシに合わせたんだけど』
それでいいの!? お前、自分の身体に執着とかないの!!?
『ないよ?』
あっさりと即答。
ああ、そうだった。
エリカはそういう奴だったな。忘れてたわ。
『ヒドイ! マサヨシッ。私の事忘れてたの!?』
やかましいわっ。問題を起こすことの方が難しい
あー、それとな。
俺はこっそりと周囲を見渡す。
うん、目立ってるね。俺達。なんせ、意思のやり取りが出来るのは俺達だけで、傍目にはただ見詰め合ってるだけにしか見えないからな。
聞こえた所で意味不明の会話だろうが。
『とりあえず、周りの目もあるので普通に会話してくれ。って、エリカ。お前、こっちの言葉を喋れるのか?』
『たぶん大丈夫。なんか【無:万能言語】ってスキルがあるから』
【無:万能言語】持ちか。こいつ、すでに職業に就いているのか?
ちょっと、【無:ステータス解析】で見てみるか。個人情報保護の観点から、人様に使って良いスキルじゃないが、こいつなら大丈夫だろ。
【無:ステータス解析】
名前:エリカクラウゼン
種族:人族
職業:戦闘機
生命力:40/40
精神力:10/10
体力:50/50
魔力:50/50
筋力:15
耐久力:25
知力:15
器用度:10
敏捷度:25
幸運度:0
所有
絶対矛盾
スキル
【無:万能言語】
【無:ステータス解析】
【無:渋いガイドさん】
【戦技:格闘技】
【戦技:バッシュ】
【特殊:高速飛行】
実績
職業パックを使用
戦闘機
………………。
うぇーい。
お前ぇい。よりによって、それを職業にチョイスするのか。しちゃったのか。まぁ、そういうのも含めてこいつなんだが。
ガイドさんのスキル名はわりとどうでも良い。
空飛んでたのは【特殊:高速飛行】か。
【無:万能言語】は確かにあるので、こっちの言葉でも問題ないな。
「で、なんでお前がここにいるんだ? エリカ」
「もちろん、マサヨシに会うためよ!」
エリカが正面から抱きついてきた。俺の胸に柔らかい感触が。だが、甘い!
それはとっさに間に入ってサンドイッチ状態になったベーススーちゃんの感触だ。
グッジョブ、スーちゃん。
ラブコメな展開などスーちゃんがいる俺には不要なのだ!
「あれ? これってもしかして……」
「もしかしなくてもスーちゃんだよ」
視線を下に落とすエリカに説明する。まぁ、すぐに気付かなくても無理はない。向こうの世界のスーちゃんの姿はスライムといっても、リアル方面の
まぁ、俺はさして気にしてなかったが。言っちゃうなら脳みそだけの状態にされ、さらに薬物で変質膨張させられてる俺もたいがいな
「やっほー、ひっさしぶりねー、スーちゃん」
ベーススーちゃんを顔の高さまでに抱え上げるエリカ。普通に馴染んでるな。
後、レーダー型スーちゃんが、まるで恋人を寝取られたような表情をしているリズさんを確認する。
いやいや、スーちゃんは俺のだからね?
「おい、そいつは何者だ」
様子を伺っていたドラゴンの一人が、エリカを指差す。
あ、いけね。
……でも、何者になるんだろうな、この場合。
「マサヨシ?」
カイサルさんも当惑した様子を隠せない。
そりゃそうだ。俺ですら予想外の乱入者だ。
「俺の故郷の知り合いです。名前はエリカです」
うん、嘘はまったく付いてない。そして、今の俺にそれ以上説明できる事もない。が、周りの疑惑の視線が止む気配はない。
いったい俺にどうしろと?
そして、そんな周りの空気をものともせず、スーちゃんを抱えながら俺に再び抱きつこうとするが、行動を読んでいたので【盾】でガード。
エリカは障壁に顔面から突っ込んだ。
「ふぎゃ!」
「いいから、落ち着けお前。いまちょっと話し合いの最中なんだ」
しかし、俺の声を意にも介さず。
「ひどいね。せっかくマサヨシが前に好きだって言ってた服着てきてあげたのに」
さらっと
………………。
えーと、リズさん? その汚れたモノを見る目つきはなんですか?
ハリッサさん。そのあからさまに『続きを早く』な表情は止めてください。
男性陣は俺と視線を合わそうとしない。
え、何? 体操服は別に破廉恥な格好じゃないでしょ? ブルマだって廃止されたとはいえ、元はニホンの正式な指定体操着だよ!?
ドラゴンの集団がいるところに来たんだから、
言っとくけど、俺が体操着はブルマに限るとか言ったのは、ただのネタだからね。エレディミーアームズの女子学生組に、しばらく変態呼ばわりされたのは認めるけどっ!
『まぁ、開き直って男は特殊な性癖の一つや二つくらいもってるもんなんだ、とか言っちゃったのもまずかったでしょうね』
ヘルプさんまで追い討ちかけないで!!
想定外の事態。そして、爆弾発言で俺は動転していた。何よりも一ヶ月以上も会っていなかった事もあって、エリカの本質を忘れていた。
「おい。お前達。いつまで族長達の前で騒いでるつもりだ」
先ほどエリカを指差したドラゴンが近づいてきた。そして、騒ぎの発端となったエリカのすぐ前に立つ。
「おい、こいつも街の関係者なのか?」
「い、いや。そうじゃないが……」
聞かれたカイサルさんが、どう答えたものか言葉を濁す。
ここで俺は失敗している。
すぐさま、適当な言い訳を並べて事を収めるべきだったんだ。あるいはエリカにこれ以上何もさせないか、だ。
「カロロス。控えぬか」
族長であるサンドロスさんが止めようとするが、カロロスと呼ばれたドラゴンは苛立っている様子を隠そうともしない。
「族長。こいつらの態度。あきらかに我らが氏族を嘗めています。すぐに我らの下につかぬのは、仕方ないでしょう。こいつらにも、こいつらなりの面目はある。下の者への説得の時間も与えぬわけにはいかないでしょう」
下につくの決定済みかい。
「しかし、この女が乱入してきて挨拶の場を乱し、謝罪の一つもない。本来なら街の重要人物全てが、膝を折って赦しを請うべきでは?」
無茶言うな。
しかし、サンドロスさんもセレーネさんも、微妙に唸るのみ。
え? この人の言う事を真面目に受け止めてる? 確かにすぐ謝罪はするべきだったけど、言ってる事無茶苦茶だよ!?
「しかしだな。カロロス」
「族長! これは氏族の体面の問題なのです!」
さらに言い募ろうとしたカロロスさんの声を遮って、エリカが。
「ねぇ。状況は良くわからないんだけどさ。その我らの下につくって話。マサヨシも入っているの?」
「マサヨシ?」
問い返すカロロスさんに、エリカは俺に指先を向ける。
「……? 当然だろう。そいつも街の住人なんだから」
「へえ?」
エリカと離れていた時間は思っていた以上に、俺を腑抜けにしていたらしい。向こう側にいた時は、エリカの扱いは
次の瞬間。カロロスさんはエリカに片手で突き飛ばされていた。数メートル体が浮き上がり、地面を土煙を上げながら滑っていき、数十メートル離れた場所で木に激突して止まった。
……おい。
今エリカが、どうやってドラゴンの巨体を突き飛ばす、などというありえない事を実現したのかは分からない。だが、問題はどうやってではなく、やった結果だ。
友好的とは言えない挨拶の場だったが、それでも敵対とまではいってなかった。
今までは。
突き飛ばされたカロロスさんが立ち上がるのが見えた。大した怪我もないようだった。人間だったら、死んでいただろう。無事でなによりだ。
だが、カロロスさんは天に向かって咆哮をあげる。それに呼応して、俺達の周囲のドラゴン達も咆哮をあげる。
それは凄まじく重い大きい音。きっとアルマリスタまで届く程。
今、この瞬間に、アルマリアの森に住み着いたドラゴン族と、アルマリスタが敵対関係になった。
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「私は時間をかせいでとは言ったけど、ゼロにしてと言った覚えはないんだけど」
冒険者ギルドの会議室でシルヴィアさんはペンを回していた。すでに風切り音の領域を超えて超音波のように耳に響く。
「すまん、シルヴィア。言葉もねぇ」
「いやっ。カイサルさんのせいじゃないですよ! 俺のせいです!」
これに関しては完全に俺の
本来なら、エリカが勝手にやった事だが。だからこそ俺の責任になるのだ。
忘れていたが、エリカは刃で俺はその所有者。その刃がやった事は、俺のやった事も同じだ。
この会議室にいるのはシルヴィアさんとカイサルさんと俺だけだ。
エリカは今、冒険者の登録手続きをしている。
「まぁ、すでに問題が大きくなってしまった以上、その責任追及は後回しね。マサヨシ君。その子とは同郷なんですって? どんな子なの?」
「問題を起こす危険人物です」
俺は即答した。
決してこれはウケ狙いじゃない。言葉通りだ。
エレディミーアームズで、あいつよりも性能的に上の奴はいる。だが、人物的に最も危険な奴はと聞かれれば、誰もがあいつだと言うだろう。エレディミーアームズには軍人や犯罪者などがいたにもかかわらず、だ。
「あいつは物事を判断する基準が人とずれています。だから、故郷にいた時は俺が決断を預かってました」
「決断を……預かる?」
シルヴィアさんのペンが止まり、首を傾げる。カイサルさんも疑問を感じたようだ。
「はい。重ねていいますが、あいつの。エリカの判断基準は俺達のそれとは違います。そして、あいつ自身もそれを理解しています。自分の判断能力は問題だと。だから、俺があいつの決断を預かったんです。俺の、普通の基準で行動する為に」
「でも、マサヨシ君が命じた訳じゃないのに、ドラゴンを突き飛ばしたのよね?」
シルヴィアさんは首を傾げたままだ。
「誰かと口論していて思わず手が出そうになる事ってありますよね? でも、たいていの時は理性がストッパーになる。今回の場合、その理性に当たるのが俺だったんです。あいつが行動に移す前に、止めなければいけなかったんです」
なぜ、あいつの事を忘れていた。
他の連中はともかくとして、あいつだけはどんな手立てを使ってもこっちに連れて来なきゃいけなかったのに。
今なら分かる。あいつがここに来たのは、俺に決断を預ける為だったんだ。なのに何やってんだよ俺は。
「エリカさんはユニーク職業との事よね。彼女を冒険者ギルド員にするというのは、マサヨシ君の
シルヴィアさんの心配も当然だが。
「俺があいつの決断を預かっている以上、出来る限り一緒にいないといけませんから。たとえ、ギルドが登録を拒否しても、俺がこの街にいる限り、あいつもこの街に留まるでしょう。危険な奴なのは認めますが、だからこそ俺の手元においておかないといけないんです」
かつての脳みそだけの状態ではなく、今はあいつの意思で動く肉体を持っている。しかも、ドラゴンを突き飛ばすという離れ技までやってのける。
スーちゃんから見て、あの時エリカから魔力を感じなかったらしい。どんなスキルも、使えば魔力を消耗する。そして、スーちゃんの【強化:気配察知】はそれを見逃さない。
つまり、あれはスキルじゃない。……まぁ、カラクリはだいたい分かっているが。
あれが俺の想像通りなら、ますますあいつは放置出来ない。
「問題を起こしておいてからですから、説得力がないかも知れません。ですが、今一度チャンスを下さい。あいつの事は俺に一任して下さい」
俺は頭を下げた。元Aランク冒険者に脅しや懐柔が通じるとは、はなから思っていない。
シルヴィアさんは目を伏せてため息をついた。
「……いいでしょう。飛行スキルを持っている以上、街全体で拒絶した所で侵入は難しくない。だったら、彼女の面倒をマサヨシ君に見てもらうのがベターかもね。でも、やった事がやった事だから、次があったらどうしようもないわよ」
「ありがとうございます」
困ったように微笑むシルヴィアさんに、俺は再度頭を下げた。実際、ただでさえ手が回らない状況なのに、これ以上問題を抱えたくないのが本音だろう。
「それで、話をドラゴン族の事に戻すけど。間違いはないのね?」
シルヴィアさんの言葉は俺ではなくカイサルさんに向けられていた。
「ああ。
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