34.ドラゴンと話し合いましょう
34.ドラゴンと話し合いましょう
カイサルさんとは、冒険者ギルド舎のロビーで一度別れた。
とある理由でハウスさん家で集合になってる。
カイサルさんは真っ白になったクラン員達に声をかけてたが……。あれの
後、ハリッサさんが何かえたいの知れないモノと
とりあえず、俺は俺でやる事を進める。一足先にハウスさん家に到着。
ハウスさんに裏庭に繋げてもらい、エトムント村長に作物の件を伝える。
多く出しても、後からアルマリスタで食材が仕入れられるなら問題ないとの事。まぁ、予定通りだ。
リガスによって酷い目にあわされたとはいえ、街自体に悪感情がないのか。それとも悲劇の連鎖をおこさせない為かな?
まぁ、ないとは思ったけど、これ以上街に振り回されたくないとか言い出されなくて良かったよ。聞けば、エトムント村長の息子達も奥さんもすでに亡くなっていて、そして残された孫二人も殺された。この状態で説得しろと言われても無理ゲーすぎる。
そういえば、エステルとエドガー君の霊って成仏したのかな? この件が終わったら、村の端に作った共同墓地に何かお供えしておこう。
裏庭からハウスさん家に引き返す。
とりあえず、今回はまず交渉からだから、連れて行くのはスーちゃんだけだ。いざとなったら戦力を召喚するけど。
ハウスさん家の俺の部屋で着替えようとして、部屋に入る前に、ハウスさんが別の部屋から出てくるのが見えた。
あれ? あの部屋って使ってたっけ?
ハウスさん家の空き部屋率は異様に高い。まぁそもそも
基本、ハウスさん家の掃除は行き届いているが、それはハウスさんの持つスキルである【支配:家具操作】によって、掃除道具を
そもそもハウスさんの実体はハウスさん家そのものであり、メイド姿はあくまでインターフェース。俺達とやりとりする為のツールにすぎない。その意味ではハウスさんが、ハウスさん家内でウロウロする意味はない。
例外があるとすれば……。重めのスキルを使う時か。
【建築:増改築】や【工芸:家具作成】を使う時は、メイドハウスさんがコントロールを担うらしいけど。
何か、新しい家具でも作ったのかな?
別にハウスさんに限らず、俺は契約魔物、契約精霊に対しては普段は好き勝手にしてもらってる。さすがに街に出る時は契約魔物を示すタグをつけてもらうが。
だから、ハウスさんが新しい家具を作っていても不思議ではないのだが……。なんか気になるな。
先日のリバーシ大会のせいか? あれもハウスさんが悪いわけじゃないんだよなぁ。俺が不注意だったのもあるし、この世界にあちらの文化や技術を持ち込んじゃいけないって法もない。……あるわけないか。
気にしすぎかもしれないが……。バタフライエフェクトっていうんだっけ? 小さな変化であっても、それが起こした結果が巡り巡って大きな変化を引き起こす。
エレディミーの運用技術。それがこっちに伝わるのだけは避けたいのだが、これは考えすぎなのかどうか。
――なんて、考えはハウスさんが出てきた部屋のドアを開けた瞬間に吹っ飛びました。
うぇーい!!?
部屋ぎっしりの麻袋をかぶった人影。いや、人じゃない。人形?
体のパーツがそろってない奴もある。シュールすぎる光景だ。心臓に悪い。
一部の奴はチェーンソー――らしきものを持っている。これってもしかしなくても。
ハウスさん、なんでこんなに
え? 平穏な日常にささやかな変化を? いや、こんな変化いらないからね? ホラー要素はニーナさんで足りてるから。
何? 発案者は
スプラッターハウスごっことか何考えてるの!?
ハウスさんもこのピギーマンの残骸を片付けといてね。
がんばって【工芸:家具作成】で作った? いや、これを家具とは認めないからね? ピギーマンのカテゴライズは絶対家具じゃないからね!?
まさか、他の部屋にも何か作ってたりしないよね?
……え?
ゲートさん! ジェニファーさん呼んじゃダメだって! もう、呼んじゃってたら送り返して!!
ゲートさんは進化してスケルトン以外も召喚出来るようになった。
そして新たに得たスキルである【特殊:可能性ノ世界】。それは異世界とか平行世界とかそんなものじゃなく、伝承や物語などの架空世界から、その世界の存在を呼び出せる事が出来るというもの。
たとえ、向こうの世界にあったゲームのキャラでも召喚出来る可能性がある。ワリと本気でシャレにならないスキルである。
だが、俺の待ったにゲートさんが首を傾げる気配。
名前が違う? ジェニファーじゃない?
……いったい、誰を呼んだの? シェリルって女の子?
違うから。それ
後、【特殊:可能性ノ世界】は気軽に使っちゃダメだからね! それ本気でヤバイスキルだから。色々な意味で。俺だって赤い弓兵を召喚して欲しいの我慢してるんだからさっ。
俺はぐったりと自室のベッドに倒れこんだ。
あーもー。ドラゴン様と相対する前に疲れてどうするよ。まぁ、変な気負いは取れた気はするけどね。
結果おーらい?
ただ、ゲートさんの【特殊:可能性ノ世界】だけは本気で注意してもらわないと。使い方次第でエレディミーの運用技術をこの世界に持ち込み出来てしまうかも知れない。
『無理ですね。【特殊:可能性ノ世界】はあくまで存在が確定していないモノしか呼べません。エレディミーの運用技術のような実在した存在は呼び出せません』
お、ヘルプさんだ。
それは【特殊:可能性ノ世界】の説明の時に聞いたけどさ。この世界の住人であるゲートさんにとって、エレディミーの運用技術は架空の存在にならないのか?
『無数に存在する平行世界のどこかで、存在が確定された時点で、【特殊:可能性ノ世界】の対象外です』
うーん、わかったようなわからんような。結局、エレディミーの運用技術がこちらに渡る事はないんだな?
『架空技術としてエレディミーの名を冠した何かなら召喚可能でしょう。あのスキルは形式こそ召喚ですが、本質は創造です。そして、創造である以上は結局魔力量に左右されてしまいます。貴方が積極的に協力でもしない限り、召喚されるのはエレディミーの名を冠したガラクタでしょうね』
そっか、ならいいんだが。
あ、ついでだから聞いておくか。
『何ですか?』
いや、今関わってるドラゴンの件って、あの
『それはさすがに気の回しすぎかと。彼の名と種族名が同じだからといって彼が関わっている事にはなりません。この世界に無数にいるスライムのする事が、彼女の意思ではないのと同じ事です』
そうだよな。まぁ、聞いただけだ。
それにじいさんなら俺に敵対する理由もないしな。
『それにこの世界で活動するならなんらかの手段が必要になります。彼女のように自身を
そもそも、向こうの人達をこちらに呼び寄せる話も、まだ手段の模索段階です。
ああ、ちゃんとその話を進めてくれたのか。
『……疑っていたのですか?』
いえ! 疑ってません! だから、好感度下げないで!
『その潔い態度に免じて、今回は見逃しましょう。次はありませんよ?』
はい!
……て、なんで俺、自分のスキルに怯えなきゃいけないんだろう。
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ハウスさん家のエントランスに面子が集合した。
ニーナさん以外の〈赤い塔〉30階攻略組だ。
さすがのニーナさんも、ダンジョン改変期という大事にかかりきりでこっちに来れないようだ。あの人にも不可能があったんだな……。
「じゃ、出発しますか。ハウスさん、繋いで」
俺が頼むと何も無かった壁にドアが浮き上がる。
ハウスさんの持つスキル【特殊:空間接続】。それがハウスさん家を集合場所にした理由だ。
アルマリアの森にゴブリン族の村はもうないが、実は
カイサルさん、ハリッサさん、ニコライさんの三人はすでに【特殊:空間接続】の存在を知っている。ヴィクトールさんとリズさんにしても、〈赤い塔〉で色々見せたしな。【特殊:空間接続】だけを隠す理由もないだろ。
ドアを開けるとそこは空気が違った。
そこは森の中にあって開けた更地となっていた。
「本当に一瞬だな」
ヴィクトールさんの平坦な声。一見驚いているようには見えないが、犬耳がかすかに震えている。
俺に続いてみんながぞろぞろとドアから出てくる。とりあえず何かあったら困るので、ハウスさんに【特殊:空間接続】を遮断してもらった。
何かって?
ドラゴン族がアルマリアの森にやってきました。さて、どこを拠点とするでしょう?
快適な住まいを作るため、本来ならば木々の伐採が必要だっただろうが。なんと、森の中央に都合の良い空き地があった。
そう、かつてゴブリン族の村があった場所は、今はドラゴン族の住まう地になっちゃってる訳だ。
いるよ、いるいる。地面にも空にも。
この世界で最強の獣種。力の信仰者。
姿はトカゲよりも、ウロコのある人型種と言った方が良いがやはりサイズがでかい。コウモリ型の羽を広げたら、上位ゴーレム種数体分あるんじゃないか? 個体差はあるだろうけど。かなり簡素だけど服らしきものも着ている。男女の差は、外見からは分からないけど。
……あ。もしかしたら、ドラゴン族には勝てるんじゃないか?
向こうもこっちに気付いている。なんせ、石塊は元村の敷地内に置いてあったのだ。何の遮蔽物もない村の跡地に、急に俺達が現れたのだ。気付くし……警戒もするだろう。
恐竜じみた叫び声で威嚇までしてくる奴もいたが。……そもそも矢文なんぞで来いといったのはそっちだよね?
俺はカイサルさんに目で問うと、カイサルさんも頷いた。
「俺は冒険者ギルド員、Aランクのカイサルだ。そちらの長であるサンドロス殿の文を受けて挨拶に来た。長はどなただ?」
一触即発とまではいかないまでも刺々しい空気の中、カイサルさんは張りのある声を上げた。
うん、Aランクになったばかりだと言うのにすでにその風格がある。俺だとこうはいかないだろう。……Cランク返上してぇ。
カイサルさんの声を受けて、明らかにワシが長ですと言わんばかり風格を漂わせたドラゴン族が片手をあげる。それを合図に空を飛んでいた連中も地面に降り、俺達に張り付いた耳目はそのドラゴンへと向かう。
「貴方がサンドロス殿か?」
「いや。我はセレーネ。族長は今、
……違うのかよ。後、さらっと乙女用語つかってんじゃねぇよ。いや、これって差別になるのかな? でも、ドラゴンが花摘みって違和感がありすぎるんだが。
「待たせてもらっても?」
「かまわぬ。だが、用向きが文の件だと言ったな。ならば長にかわって我が承るが。我はサンドロスの娘、セレーネ。族次長だ」
女性だったのか、この
族次長ってのはたぶん、族長に次ぐ地位って事なんだろうな。
カイサルさんは、このセレーネさんが相手でもかまわないと判断したのだろう。収納の背負い袋から、布包みを取り出した。あれは、冒険者ギルドが用意したドラゴン族への手土産。中身は光物。つまりは宝石類。ドラゴンはそういったモノに目がないそうだ。ただ、宝石類の金銭的価値ではなく、純粋にその美しさに価値を見出すために、人との価値観に差はあるようだ。まぁ、商人ギルドに無理言って用意させたものだ。少なくとも失礼にあたるものではないだろう。
「まずこれを受け取って頂きたい。アルマリスタの代表として、貴方の氏族と友好的に付き合っていきたい。これは街のそういう気持ちだ」
まぁ、言葉を丸めちゃいるが意訳すると、『これやるから、大人しくしとけ』。うん、言葉って便利だよね。
セレーネさんは当然とばかりに布包みを受け取った。中身の確認すらしない。なんつーか、街が差し出せる最上のモノであって当然といった感じがアリアリすぎる。
あー、これ。引き伸ばして、マスター権限者の誰かに引継いでもらうのがよくね? 双方の意識差が大きい。
ふと、ヴィクトールさんと目が合うが、彼も無言で肩を竦める。どうやら、俺と同じ考えっぽい。とはいえ、カイサルさんの性格だと引き受けた以上は可能な限りは努力をするだろうな。そもそも、セレーネさんの様子は事前想定の範囲内だろうし。
カイサルさんは苦笑しながら、言葉を続ける。
「率直に言おう。アルマリスタは友に上下はつけない。文には氏族の下につけと強調されていたが。アルマリスタが従うのは法とマスター権限のみだ。
この森はアルマリスタの管理外なので住むのはかまわない。だが、街に高圧的な干渉はやめてもらいたい。無論、友として街に接してくれるなら両手を広げて歓迎するが――」
「我が氏族の下には付けぬと。そういう事だな?」
つまらなそうにセレーネさんは言う。
まぁ、こっちがこういう態度を取る事は向こうも予測していただろう。……いたんだよね? いくら
「お前は友と言ったな? 我らは獣ぞ? 人の心など知らぬ」
自分で獣と言っちゃいますか。徹底してるな。
ドラゴン族は戦闘力の高さを恐れられているが、実は面倒なのは別の部分なのだ。人と同等の知能を持ちながら、自らを獣と貶める事も意に介さぬ力への依存心。アイデンティティと言ってもいい。
お前らには従えません。それに対して、はいそうですかは、自身の否定に近い。
セレーネさんの言葉は挑発ではない。素で言っているのだ。だからこそ、始末が悪いし従う街も出てくる。下についたからと虐げるような種族ではないからだ。無茶振りはしてくるが。それだって彼らの守護の代価と考える事も出来る。
もっとも、小さい街ならまだしも、アルマリスタのような大きな街で彼らの守護は必要ないのだ。
最初から分かっていた事とはいえ、妥協点が見出せそうにない。かといって無闇に争うと後に禍根を残す。彼らは魔物ではない。魔物は魔力溜りから発生するが、彼らは人と同じ雌雄で子を成す存在。争いは後々の代まで禍根を残す。かつてここに住んでいたゴブリン族のように。
ちなみにクロさんとシロさんは
うーん。カイサルさんが困ってるのが分かる。
この展開も事前に予測できたが、だからと言ってどうにもならない事もある。
まだ、マスター権限者なら何らかの譲歩も出来るだろうけど、カイサルさんはAランクとはいえ一介の冒険者だ。
やっぱ、引き伸ばし作戦になるよなー。
と、そこへ割って入る声があった。
「何事だ」
正直ドラゴンの年齢は分からないが、周囲のドラゴン達の対応で、声の主こそがこの氏族の族長であるサンドロスさんなのはわかった。
セレーネさんも人に比べたらでかいが、サンドロスさんはさらに一回り大きい。族長といっても年寄りには思えない。全身から無駄にエネルギッシュオーラをみなぎらせている。
あー、これ。無理。絶対、無理だろ。俺は考えを曲げねぇ臭がぷんぷんする。マスター権限者でもこの人いたらどうにもならん気がする。
「族長。街より人間の使者が来たのだが。我らの下にはつかぬ、と」
「つまりは儂らの力を疑っているという事か」
違うって。と、突っ込みたい所だが。街の代表者であるカイサルさんは黙っている。というか、何も言えない。
そう、彼らは確かに獣だ。
実際、ドラゴンと相対するのはカイサルさんも初めての事。ここまでとは思ってなかったんだろう。俺もびっくりだよ。やはり本の知識と現実は違うね。
となると、結局行き着く先は――。
そこで実は俺の肩にずっといたレーダー型スーちゃんが、空からこっちに向かって飛んでくる存在を感知。
ドラゴンじゃないのかなと思ったが、違うとの事。
ハリッサさんに目を向ければ、彼女も空を見ていた。【特殊:第六感】を持つ彼女からの警告がない以上、敵対存在ではないんだろうけど。ドラゴンじゃない空を飛ぶ存在ってなんだろ?
「む?」
「儂らの同胞ではないようだが……」
どうやらドラゴンの氏族2トップも気付いたらしい。さすが戦闘民族。
その場の視線が一方向に集まる。
俺にも見えた。確かにこちらに何かが飛んできている。
それは豆粒ほどの大きさだったが、近づくにつれてその姿がはっきりしてくる。してくるのだが。おかげで余計に正体が分からなくなった。
うぇーい!
うぇーい!!
うぇーい!!!?
飛んで来てるのがブルマと体操服を着た女の子にしか見えねぇんだが……。誰か嘘だと言ってくれ。
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