二章 刃を持つ戦闘機
31.クマさんはリア充だった
二章 刃を持つ戦闘機
31.クマさんはリア充だった
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草だった。
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草がいっぱい生えていた。
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見渡す限りの大草原だった。
私はそこに一人寝転がっていた。
懐かしい。
頬をなでる風。土の匂い。柔らかい草の感触……と、何か腕がこそばゆい。
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しばし熟考し、そして腕を持ち上げて目で確認すればいいのかと思いつく。
ああ、そんな事も忘れていたんだ。などと感傷に浸る気分は、腕から落ちるまいとしがみついている蜘蛛さんによって消し飛んだ。
うぇーい!!!?
反射的に潰そうとしかけて思いとどまる。確か、蜘蛛って益虫だっけ? ニホンでは軍曹って呼ばれてるってマサヨシは言ってたね。マーズランキング9位らしいけど、このマーズランキングがなんなのかは知らない。何のランキングなんだろう? たまにマサヨシはよく分からない言葉を使うのね。
マサヨシというのは私達の中心にいた人。指導者? リーダー? ……どう言うのが相応しいのか分からないけど。決まってマサヨシはそんな呼ばれ方を嫌っていた。『俺には何も出来ないのに。ありえない』って。
そんな事ないのにね。
最後まで残ったみんな。そして、消えていったみんなも。
誰も彼もがマサヨシが好きだった。大好きだった。
ああ、そうだ。
マサヨシを探しにいかなきゃ。
私は腕にしがみついたままの軍曹をおろした。指を離すと逃げるように軍曹は草陰に消えていった。
立ち上がり見渡すと、地平線まで続くかのような大草原。もう元の世界には、こんな光景は残っていない。人の生きていける領域は戦場に消えていった。
私は来たんだ。マサヨシのいるこの世界へ。
私は語りかける。私をこの世界へと連れてきた意思へと。
ドラゴン、マサヨシの居る所は分かる?
『儂はガイドさんじゃと言っただろう。エリカ。この世界ではもう悪魔ではなく、お前の一スキルに過ぎん、と』
そんな事はどうでもいいから。マサヨシはどこ?
『まったく』
ため息をつくような意思が返ってくる。言葉ではなく意思でのやり取りなんて、以前は当たり前だったのに、今は不思議とそれが新鮮に感じる。
『詳しい位置まではまだ分からん。が、ジョロウグモがよこした報告では拠点にしている街があるらしい。その街の位置情報なら――』
十分だ。
私はドラゴンの意思を遮った。
ドラゴン、ナビお願いっ!
『何度も言わすな。儂はガイドさんじゃ』
あーもー。
分かった分かった。じゃ、ガイドさん。マサヨシ達がいる場所を教えて。早く!
それは言葉ではなく。
文字でもなく。
映像ですらなかった。
『やれやれ。本来なら、
ダイレクトに届けられた情報に私は地を蹴った。すがりついていた重力の手が、足から離れていく。
私に翼はすでにない。人間にはそんなものはないからだ。でも、私は新たに見えない翼を手に入れた。これがこれからの私の刃。
悪魔に願ったのは一つ。マサヨシの元へ。
マサヨシに私の決断を預ける為に。
そして、私は大空に舞い上がり加速する。
目指すはマサヨシの居るはずの街。アルマリスタ。
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ゴブリンの村を襲った悲劇から一ヶ月以上が過ぎていた。
その後、俺こと
望んでねーし。んなもん。
鮭を求めてダンジョンに入ったり、鮭を求めてダンジョンに入ったり、鮭を求めて……。
あー、うん。実は延々と〈常闇の森〉で、鮭を求めて往復を繰り返してました。だって、でねぇし。
〈常闇の森〉の分岐の終着点の一つである、アッシュベアの楽園。そこを流れている川には、稀に鮭の群れが出現する。まぁ、産卵の為に遡上した鮭はおいしくないらしいが、こちとら究極とか至高とか争ってる人達みたいなグルメじゃないし。それにその鮭の群れはあくまでダンジョンが魔力溜りから生み出した存在であって、まずいとも限らない。
だが、肝心の鮭がなかなか出なくて、そのエリアの守護者であるアッシュベアの素材がかなり溜まっていった。
そこまでして食いたいものなのか、とカイサルさん達に呆れられた。
だって、俺。この世界来てまだ食った事ねーし。なぜか漁村の網にも鮭いないんだよねー。川魚扱いになってるのだろうか?
そんな訳でダンジョンにもぐる時は〈常闇の森〉に入っていた訳だが、あいにくと毎日という訳にはいかない。
ダンジョンは特大の魔力溜り。この世界では万物に魔力が宿っているそうで、それは人体であっても同様。ただ、それでも濃すぎる魔力溜りに身を晒し続けると健康障害が発生する可能性がある。まぁ、俺の場合、魔力が高すぎるので逆にダンジョン汚染すんじゃね? って思わなくも無い。
ただ、この時、俺はギルドのランク付けを無視してたのだ。アッシュベアの楽園はCランクに設定されたエリア。そして、俺はDランク。始めのうちはカイサルさん達に同行をお願いしてたので良かったのだが、一向に鮭が出やがらねぇ。さすがにカイサルさん達を、俺のわがままに何度もつきあわせるのは悪いので、ソロで延々と繰り返すはめになった訳だ。俺の場合、ソロでもスーちゃん達がいるから頭数には困らない。
これで、ギルドが設定したエリア難度に満たないランクのギルド員は行ってはいけない、という規約があれば俺も考えたかも知れない。しかし、俺の行動は規約違反ではない。ただし、ギルドはそれを推奨しているはずもない。だったら、ダンジョンのエリアにランクなんて設定しない。あくまで黙認しているだけだ。
さすがにそれに加えて、一度ダンジョンに入ったら、次に入るまで日を空ける。通称オフ日までブッチするのはまずい。さすがの俺もそう思うし、カイサルさんにも釘を刺されていた。
それもこれも鮭が出てこないのがいけないのだ。おのれ、鮭!
ネトゲのガチャ一等ランクの確率設定してんじゃねーよ。あれもこっちも、ハズレを引いた時に余計に熱くなるのは同じなんだよ。
そんな訳でダンジョンに入ってない日もあったんだが、そんな時はたいてい図書館でお勉強をしていた。
〈赤い塔〉でのミスリルゴーレム戦で、思うところがあったからだ。
スーちゃんのステータスははっきり言ってデタラメだ。俺の魔力と幸運度もたいがいだが、スーちゃんの場合。はっきり言って桁違いの上にスキがない。ステータスがまんべんなく高いのだ。
にもかかわらず、だ。苦戦とまではいかないまでも、ミスリルゴーレムには手を焼いた。
同じ桁違いステータスを持つケンザンは物理無効化と思われるスキルに踊らされた。
この世界においてステータスは絶対ではない。
あの一戦を振り返り、俺がたどり着いた結論がこれだった。
どれ程の高いステータスがあっても、敵のスキル構成によっては崩されかねない。
この世界においてスキルこそが生き残る鍵となる。
そもそも、この世界の住人は職業とスキルのせいで、個人の能力差の上下が激しい。俺が居た元の世界は質で数の差を埋めるのはほぼ無理だったが、この世界では違う。俺を例にあげるのは極端すぎるが、カイサルさんだって相手がミスリルゴーレムみたいな無茶な相手じゃなければ、普通に単騎無双できる。冒険者ランクがCでも、Cマイナスとかでなければ、並の街兵士や街警員なら部隊単位で投入しなければ、押さえ込めない。
ステータスはあくまで基本値であり、スキルという出力装置によって多大な結果を出せる。ステータス単体が無力とまでは言わないが、それでゴリ押し出来るほど、この世界は単純ではなかったようだ。
一番分かり易い例はニーナさんが持つ即死効果だろう。スーちゃんの生命力は10000あり、これに自然回復が加わると削りきれる存在など思いつかないが、即死効果の前にはこの10000という数値は無力だ。
あくまで即死効果は伝説級のシロモノ。他に使える存在はいないと思いたいが、ミスリルゴーレムの物理無効化もあった。
高ステータスにあぐらをかいていたら、それが命取りになる可能性もありうる。だから、図書館で、冒険者に必要と思われるものは片っ端から目を通した。以前に斜め読みしたものも再度目を通した。
スーちゃんは目を通した本は完璧に覚えてるし、結局そっちを頼る事も多いだろう。しかし、とっさの判断というのは、俺本人の経験と知識がものを言うだろう。冒険者としての経験は、これからつんでいくしかないので、せめて知識でもと思った訳だ。
ダンジョンで鮭が出ない事に落胆しては、図書館に通う日々。
だがしかし。俺はついに当たりを引いた。
アッシュベアの楽園の守護者がレア守護者になってた。
……ちげーよ!
そっちじゃねぇ。俺が求めてるのはおめーらじゃねぇって!!
チェンジチェンジ!
てか、レア守護者よりも確率低いのか、鮭って!!?
俺の心の叫びも聞こえないかのように襲い来る魔物達。って、まぁ普通は心の声なんて聞こえないよね。
アッシュベアの楽園というのは、アッシュベアという魔物が守護者であるところからついた名だ。アッシュベアは通常はDランクの魔物。単体ならの話だ。それが8体前後。
通常守護者は単体で、後は同種族の下位種を取り巻きとしている場合が多いのだが、これは比較的珍しいパターンだ。〈海岸〉別荘地下の家具ズの例もあるが。
アッシュベアの特徴はその皮膚(体毛?)だ。アッシュベアのアッシュは
スーちゃんが状態異常持ちなので、状態異常のヤバさを知っているのだが。
【状態:過熱】は接触していると熱いという、言葉にすると大した事がないように思える。が、これが鎧ではふせげない。鎧に接触された時点で肉体が熱せられる。鎧が加熱したせいで肉体が火傷するわけではないのだ。防ごうと思ったら耐性ポーションなどのアイテム、あるいはスキルを使うなどの対策が必要になる。状態異常スキルは物理現象ではなく、一種の呪いに近いのだ。
ベア系モンスターはほとんどが怪力でタフだが、それに加えて状態異常である。そして、複数。これで弱いわけがない。
それ故のエリア難度C。それもパーティ推奨とされている。
俺だって、甘く見ていたつもりはない。スーちゃんは信用しているが、だからと言って準備を怠る理由にはならない。
収納ポーチに各種耐性ポーションを用意してあったし、オフには図書館通い以外にも、イージスの杖の能力、【盾】を使う訓練もしてきた。
だが、さすがにレア守護者は予想外だった。
ちなみにその時に出たのは上位種のアークアッシュベア。それが30体前後。そして、アッシュベアからのユニーク個体と思われる黒毛と白毛のペアが。
アッシュベア1桁からこれは反則ではと思わなくもなかったが。まぁサハギンクィーンの件もあるしな。
そんでまぁ、そいつらと戦ったわけだが……。
あー、うん。別に苦戦しなかった。
前言を翻すようだが、スーちゃんのステータスを考えたらね。念の為にケンザンも召喚したのだが、必要なかった。
ただ、ちょっと想定外の事態が起きた。
恐らくこの集団のリーダーと思わしき黒いユニーク個体が降伏したのだ。
魔物が降伏する。それ自体は別にない訳ではない。分が悪くなれば逃げるのもいるし、知力が高い奴は降伏して命乞いするケースもある。
だが、それは通常の魔物の場合だ。守護者は普通、降伏しない。
え? 家具ズは守護者じゃなかったかって?
やつらは守護者の自覚が無さ過ぎ。連中のケースは例外……と思いたい。
黒いユニーク個体にしても自分の命欲しさだったわけじゃなかった。俺の前で地に伏せ頭を前に出した。
獣の場合、降伏の印は仰向けになって腹出すのがパターンだし、獣型の魔物の場合も同様なんだが。これはつまり、このユニーク個体の知力が高い。そう判断した俺は【無:念話】を使った。
【無:念話】は言葉を解さずに意思のやり取りが出来る、いわゆるテレパシーが使えるスキルだ。【契約魔法:召喚契約】でも似たような事は出来るのだが、相手が契約を了承してしまうとまずいのだ。【特殊:無限契約】があるので契約数的には問題はないのだが、相手が勝手に了承してしまうと【神:進化の導き】が発動し、最悪パワーアップに耐え切れずに死ぬという事態につながりかねない。
しかも、このスキルに限ってオフに出来ないという……。神明様、この仕様なんとかして欲しいんだが?
という訳でハウスさんの例もあるし、魔物や精霊と交渉するのに必要になるかもと教わった。
ニーナさんから。
逆に言うと、ニーナさんは【無:念話】を持ってる。……なんであの人、こんなスキル持ってるのに霊とは言葉で会話するんだろう? 理解出来ない。
まぁ、それはさておき。
【無:念話】で意思を確認した所、なんとこの黒いユニーク個体。自分の命と体を差し出すと言い出した。体を差し出すって事は、自分の死体を素材にしてくれって事で。
だから、
うぇーい?
油断をしていい所ではないのだが、この時、俺の頭は真っ白だった。
妻? ワイフ? 奥さん? 未亡人? ってそれはまだだよっ。
え? 何? このユニーク個体ペアって
黒いのの後ろを見やれば、必死になってこちらにこようとしている
これは間違いなく嘘じゃないよなぁ。
冒険者ギルドの。そして、元の世界のエレディミーアームズ。その中で『結婚出来なかったんじゃない。しなかっただけだ』とかほざいていた奴に告ぐ。
お前ら、クマに負けてんぞ!!!
なにこの勝ち組クマは!? よく見たら
まぁ、この時点で俺は戦いを続行させる気は失せていた。
基本的に魔物素材は上位であるほどいい値がつく。だからといって自らの命を代償にし、自らの死体を差し出そうとしてまで仲間を助けようとしている奴まで殺せるか?
無理。
綺麗事なのは分かってた。俺は鮭を求めて数え切れないアッシュベアを狩っていたし、黒いのの仲間である、アークアッシュベアの半数はすでにスーちゃんによって殺されている。いまさら、黒いのを含めて見逃した所でその事実は変わらない。
ただ、なんというかね。その
こいつなら、ユニーク個体だし【神:進化の導き】の
自分は守護者だから無理だ、と。自分を殺さなければダンジョンの脱出用魔法陣は出ない。それ以外の方法ではダンジョンから魔物素材などは持ち出せない、と。
おんや?
この黒いの。もしかして、ダンジョン事情に詳しいっぽい?
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