4.これからの事を考えた

4.これからの事を考えた






「率直に聞こうか。俺達のクラン、《自由なる剣の宴》に入る気はないか?」


 ストレートに勧誘された。率直すぎて清々しい。

 だが……。


「えーと。すぐに返答しなきゃダメですか?」

「ふむ」


 コリコリと軟骨っぽいのを口に運びながら、カイサルさんが思案してるっぽい顔でおとがいをなでる。


「まぁ、即答する必要はないが。理由を聞いても?」

「俺はあなたのクランの事を良く知らないからです」


 嘘デース!!


 だって、スーちゃんのラスボススペックがばれたら問題視されるの目に見えてるじゃん。俺はスーちゃんと別れる気はさらさらないし。

 それに俺自身のステータスにも問題はある。他はともかくヤケクソ気味に盛られた魔力が知られたら、どうなる事やら。スーちゃんと違って俺は人間だから狩られる事はないと思いたいけど、ここは異世界。元の世界と常識が違う可能性も捨てられない。


 だが、カイサルさんは俺のそんな考えを見透かしたように目を細める。


「つまり、良く知ってから判断したい、と?」

「ええ、まぁ。そんなところです」


 キョドらないよう、精一杯虚勢を張るがたぶんばれてるだろうなぁ。人生経験が違うだろうし。どうしたものか。


「お話、終わったっすかー?」


 と、そこへハリッサさんが乱入。なぜかその腕にはスーちゃんがぬいぐるみよろしく抱えられている。契約魔物というより、もはやペット扱いになってるな……。


「まぁだいたいはな。続きは明日にでもするか」


 助かった。――というよりも、見逃してもらえたのかな?

 クランに入る。それ自体は悪い話ではないと思う。カイサルさんとは今日会ったばかりだけど、悪い人とは思えない。案外、訳を話せば俺とスーちゃんの秘密を守ってくれるかも知れない。



 しかし、そんな保障はどこにもないんだ。



 俺は元の世界では、高校生だった。それは覚えてる。一介の学生だったに過ぎない俺が、遥か年上の人間を信頼に値するかなんて、見抜けるはずもない。

 そして、この世界はゲームの様であるが間違いなくゲームではない。食堂に漂うアルコールやソース類の匂い。料理の味。全てリアルだ。

 VRヴァーチャルリアリティ、つまり仮想現実と呼ばれる技術もあるが、それだって、視覚聴覚レベルがせいぜいだ。

 つまり、これは現実なんだ。決してゲームのようにやり直しはきかない。だから、万が一にも選択肢を間違える事は許されない。


 今の俺が信用出来るのはスーちゃんだけだ。そこを増やしていくかどうかはまだこれからだ。今はまだ情報を集める段階なんだ。


「よぉよぉ、しょうねーん。しけた顔しないで飲もうよぉー」


 ……結構真面目に考えていたんだが、それをぶち壊すようにハリッサさんが絡んでくる。

 む、背中にやわらかい感触が。しかし、ラッキーすけべではなく、俺とハリッサさんの間で、サンドイッチ状態になったスーちゃんだった。


「いや、俺未成年なんで、お酒は――」

「んー。いくつよ」

「えーと、16ですが」

「じゅうぶん、大人じゃんかー。のめのめー」


 まぁ、このありがち中世風ファンタジーな様子だと、成人年齢はニホンよりずっと低いんだろうな。って、うわっ。ジョッキ押し付けてくるっ!


「あれ? さっきまで入ってた気がするんだけど」


 ハリッサさんが首を傾げる。ジョッキの中身が空だったからだ。

 しかし、俺は見た。緑の触手が一瞬だけジョッキの中に入ったのを。ナイスフォローだ、スーちゃん。

 ハリッサさんは、給仕を呼び止めてさらに追撃の注文をしようとしたが、見かねたのか男性陣が押さえにかかる。


「すまんな。どうも、こいつは酒が入るとテンションが上がりすぎて、歯止めがきかなくなるんだ」


 すまなそうに男性陣の一人が謝るが、俺はどう返していいか分からずあいまいに頷いた。その後は、カイサルさん以外も交えて会話をしながら、食事を続けた。





□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□




 食事の後、カサンドラに案内された部屋は思ったより立派だった。

 これが初心者ルーキー部屋なのか?

 ベッドにサイドテーブル。その上にはランプらしきもの。作業机もあり、服をかけるクローク。水差しまである。さすがに風呂まではなかったが、ちょっとしたビジネスホテルのような感じだ。

 これ、カイサルさんみたいな常連客用の長期滞在を前提とした部屋なんじゃないか?

 やっぱり、先程見せた魔石がまずかったのかな? 俺には魔石のグレードは判断がつかない。そもそも比較対象となるような別の魔石がない。カイサルさんもカサンドラも一目でわかったという事は、それだけ違いが分かりやすいものだという事だけど。

 俺は思わず額に手をあててため息をついていた。

 情報が足りない。常識が足りない。なんとかしなきゃ。

 当てた手をそのままにベッドに腰掛ける。心配してくれたのか、スーちゃんもベッドに飛び乗って横についてくれる。


 ん、大丈夫。ちょっと考える事が多くて処理が追いついてないだけだから。


 食事をとったからか、多少眠気はあるが、寝る前に今後の行動の青写真を描いておかないと。

 明日、冒険者ギルドに行って、登録する。これはすでに決定事項。問題はその後だ。

 案としては。



1.図書館に行く。

2.服と今後必要になりそうな物を買う。

3.働いてお金をかせぐ。



 1は勿論、情報を集める為だ。賢者ギルドが運営しているって言っていたけど、一般公開はしてるのかな? 場合によっては賢者ギルドにも登録しなきゃいけないかも。

 あ、もしかして図書館は有料? ニホンならともかく、この世界で無料公開してるって方が変か。何のメリットもないもんな。

 何にしろ、一度きりではなく何度も通う事になると思うから、そのあたりの事を冒険者ギルドで聞けたらいいな。


 2は服が汚れているのと、後は元の世界の服なので目立たないようにする為。もっとも、カイサルさん、鎧を着たままだったし、ハリッサさんやカイサルさんの仲間の人達も、独特の服装をしていた。というかやけに厚みがあって硬そうな感じだったので、あれも防具の一種だったのかもしれない。そう考えると俺の服装も多少変に思われても、冒険者だからで通りそうな気がしないでもない。でも、やっぱり着替えいるよな。

後は生活必需品だけど、何がいるか分からないから、明日にでもカイサルさんに聞いてみよう。


 3は今後の生活の為。お金が全てじゃないけど、お金がなければ全てじゃない。

 このアルマリスタで暮らしていくには、衣食住全てにお金がかかる。

 元の世界への帰り方は分からないし、元の世界に帰る方法が存在しているのかすら分からない。何より、元の世界へ返るべきなのか――記憶のない俺には分からない。

 可能性の話だが、実は俺は元の世界では虐げられていた存在だった可能性もある。

 もちろん可能性の話だ。実は大金持ちの一人息子で、何不自由ない気ままな生活を送っていた可能性だってなくはない。

 ただ、不思議と帰りたいという気持ちが沸いて来ない。

 何よりも。実は断片的な記憶とは別に、はっきりと残っている記憶がある。記憶というか、それは感情に近いもの。



 俺は何かを見捨てる事を選択した。



 その事が現状につながっているのか定かではない。ただ、胸に刺さる小さなトゲのように……疼く。

 ――いや、今は現状だけを考えるべきだろう。

 とにかく、俺はここで。この世界で暮らして行く。そのためには生計を立てる手段が必要だろう。

 幸い、俺にはスーちゃんがいる。明日、冒険者ギルドで登録すれば、晴れて冒険者になる訳だが、魔物を倒したり魔物から素材を取ったりは、すでにアルマリアの森で経験済みだ。

 どうも、さっきのカイサルさんとカサンドラの様子から、訳ありげな様子だったが、一応素材はギルドで換金出来るようだ。それがどれほどの額になるかは分からないが、生活するに足りないようだったら、食費は魔物の肉を食べて節約するという方法もある。


「こんな所かな」


 俺はスーちゃんに手を添えて、ベッドにもたれこんだ。

 うむ、相変わらずスーちゃんの手触りは、ひんやりしてすべすべで気持ち良い。


 とりあえず、明日以降の方針は固まった。後は寝るだけなんだが。ふと、思い出した事があって、スキル【無:ステータス解析】を実行した。前に見た時、恐らくスーちゃんと契約した結果なんだろうけど、魔力が減っていたのだ。あれって回復するのだろうか。



【無:ステータス解析】


 名前:丸井正義

 種族:人族

 職業:召喚師


 生命力:15/15

 精神力:20/20

 体力:15/15

 魔力:66666/66666


 筋力:8

 耐久力:8

 知力:10

 器用度:10

 敏捷度:10

 幸運度:5


 スキル

  【無:万能言語】

  【無:ステータス解析】

  【契約魔法:召喚契約】

  【召喚魔法:召喚】

  【召喚魔法:召還】

  【召喚魔法:送還】

  【召喚魔法:強化】

  【召喚魔法:守護】

  【特殊:便利で素敵なヘルプさん】

  【特殊:無限契約】


 召還契約:1



 うん、魔力は回復してる。そして、ヘルプさんのスキル名が変わっていたが俺は突っ込まない。また使えなくなっても困るしな。

 しかし、スキルの結果は謎お告げ形式だが、職業パックを実行した時のようなスクリーンがないのはどうしてだろう。


『結果表示画面は、職業パックの機能です』


 ヘルプさんの返答が返ってくる。なるほど、どうやらあのスクリーンは職業パック専用らしい。

 せっかくヘルプさんが復活したので色々調べてみるべきだろう。考え事を続けていたせいで眠気が強くなっていて、若干意識が怪しいが。


 とりあえずは一番の謎ステータスである魔力かな。なんでこんなに魔力が多いんだ?


『魔力は、本人の魔力の現在値と最大値です。スキルの使用、状態異常などで低下し、時間経過やアイテム使用で回復します』


 異常魔力の原因は分からなかったが、魔力が回復した原因は分かった。後、ヘルプさんが対話形式になってる気がするのだが?


『気のせいではありません。進化した影響です』


 スキルも進化するのか……。まぁ、対話形式の方がありがたいな。

 俺の魔力が異常なのはなんで?


『【無:ステータス解析】は解析対象のステータスを調べるものでしかありません。その各項目がどういったものかは回答可能ですが、現状の理由については回答できません』


 つまり、ステータスの数値に関しては分からないって事か。

 でも、スキルは前の時にも調べられたから大丈夫だよな。せっかくだから、前回調べられなかったスキルを調べてみよう。



『【無:万能言語】

 現在使用されているあらゆる言語を読み書き出来る。

 失われた言語に関しては無効。

 暗号に関しては無効』


『【無:ステータス解析】

 指定した対象のステータスを解析出来る。

 本人以外を対象にした場合、対象の許可がないと、レジストされる可能性があります。レジストに成功されると、対象に解析を使用した事が知られてしまいます』



 レジストってのはスキルに抵抗する事だろうな。

 まぁ、ここまではいいだろう。問題は次だ。



『【契約魔法:召喚契約】

 契約を結ぶ事により召喚魔法の対象になります。

 この契約は、契約を結んだどちらか片方が契約破棄を宣言した時点で無効になります。

 契約の際に条件が付加されると、契約が存在する間はその条件は自動的に履行されます。

 契約は維持出来る数に限りがあり、それはステータスに依存します』



 つまり、スーちゃんが俺を見限ると契約を破棄される可能性がある、と? 気をつけよう。そう思ったら、スーちゃんに触手でぽんぽんと肩を叩かれた。心配するなって事かな?

 後、契約出来る数に限りがあるのか。まぁ、スーちゃんだけでも過剰戦力なんだが、俺の契約出来る最大契約数っていくらなんだろう? ステータス表示には現在の契約数しかないけど……。

 考えつつ、俺は他のスキルも調べていく。



『【召喚魔法:召喚】

 召喚契約した存在を距離を超えて呼び寄せる。次元の異なる空間からは不可。

 召還位置は任意の空間だが、術者を中心とした距離が遠いほど魔力を消費する』


『【召喚魔法:召還】

 召喚契約した存在を空間を超えて呼び寄せる。結界や対抗魔法を無視して行使出来る。

 召還位置は任意の空間だが、術者を中心とした距離が遠いほど魔力を消費する。

 また、【召喚魔法:召喚】よりも多くの魔力を消費する」


『【召喚魔法:送還】

 召喚魔法で呼び出した存在を送り返す。召喚契約した存在が拒否した場合は無効化される。

 送り返す先は、元いた場所か、スキル使用者があらかじめ指定した場所になる。

 また、魔力の枯渇及びスキル使用者が意識を失った時は自動発動される』



 たぶん、この三つのスキルは俺の根幹となるものだと思う。何せ、スーちゃんにかかわるスキルだし。

 まず【召喚魔法:召喚】は予想通りの呼び出しスキル。そして、【召喚魔法:召還】は前者の強化版と思われる。次元の異なる空間なんて、そんなものあるのかと思ったが、俺自身が異世界の出身だったわ。後は【召喚魔法:召還】は妨害不可というのがでかい。ぶっちゃけスーちゃんがいればどうとでもなるものな。

 【召喚魔法:送還】は送り返すスキルか。スーちゃんだとアルマリアの森かな。説明では別途場所を指定出来るっぽいが……。まぁ、後で実験してみるか。

 意識を失うと自動発動ってあるけど、森で過ごした時、俺が寝ていてもずっとスーちゃんが守ってくれたのは、たぶん送還を拒否してくれてたんだろうな。本当に頭が上がりません。



『【召喚魔法:強化】

 召喚契約した存在に魔力を注ぐ事により、対象を強化する事が出来る。具体的な効果は対象の特性による。また、強化の度合いは注いだ魔力に比例する』



『【召喚魔法:守護】

 召喚契約した存在に魔力を注ぐ事により、対象が受けたダメージを軽減する。具体的な軽減割合は注いだ魔力に比例する。ただし、ダメージの完全無効化は出来ない』



 ………………。

 うぇーい。スーちゃんをさらに強く出来ると?

 さらに俺の魔力量を考えると、スーちゃん。魔王を超えて大魔王になるんじゃないか?

 今のはメラゾーマではない……メラだ。とか言っちゃう? 言っちゃうの?


 いや、落ち着け俺。とりあえず、より俺の相棒ほごしゃが強くなったと歓迎すべきだろう。


 そして、最後に実の所一番気になっていたスキルだ。

 ドンッ!



『【特殊:無限契約】

 最大契約数無限。

 最大召喚数無限。

 召喚維持コスト100%削減』



 これもとんでもスキルだった。ステータス表示に最大契約数がなかったのはこれのせいか?

 契約し放題、呼び出し放題。そして、呼び出しっぱなしでもコスト無し?

 これ、召喚師って職業。実は無茶苦茶強いんじゃなかろーか。でも、カイサルさんは俺の職業を聞いても、特に驚いたりしてなかったな。

 実はそんなに凄いスキルでもないのか? でも、例え弱い魔物でも数をそろえれば、格上をねじ伏せるなんて事も可能なはずだけど。

 それとも、これは俺だけのスキルなんだろーか?


 そしてそれからしばらく、俺はうにうにと悩んでいたが、いつの間にか寝入っていたらしく、そのまま翌朝を迎えていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る