6
「あのね、駒浦くん」
沈黙を破ったのは、彼女だった。その一言に、諭すような響きがあったのを、俺は聞き逃さなかった。
「あなたの気持ちは、嬉しい。それくらい私のことを思ってくれる人は、そういない。私って幸せ者だ。
でも、君なら知っているでしょう?私はみんなとは違うし、生きるのが不器用なの。私と一緒にいたら不幸になるって、分かってる」
「そんなことない、俺が……」
「守ってくれるの? 嬉しいな。私はそうやって、一緒にいる人を盾にして生きていくことになるかもしれない。そう何人も、一緒にいたいと思う人を作れない。私が、不器用だから」
触れていた手が、そっと解かれた。おそらくもう二度と、触れることはないだろう。
「駒浦君は頭もいいし、社交的でうらやましい。私にはちょっと、真似できない。
今の私があるのは、望道と、たくさん話したから。……いい? 今駒浦君が好意を寄せている私は、望道がいなかったらありえなかった私なのよ」
彼女の言わんとすることはわかった。つまり俺は、
「だから、ごめんね」
フラれたってわけだ。
ざざ、と涼やかに葉が鳴る。外の暮らしと隔離されたような、緑色の空間。
思い出したように――本当にこの時思いついたことだったんだが――俺は彼女に尋ねた。ただの世間話として聞いてもらえればよかった。
「そういえば、中間テストあんまりよくなかったんだって? 噂だけど」
俺は確実な噂しか収集しない。
「ああ、別に気にしてない……っていうと嘘になるからな……。恥ずかしいな」
いやいや、そんな恥ずかしがる事じゃないさ。
そんな感じの、慰めの笑顔のつもりが。
「あ……駒浦君はもう勘付いているよね」
は、何の事だか見当もつきませんが。
「望道のこと考えていたら、勉強が手につかなくなっちゃって。
今は、うん、もう大丈夫だから、期末で挽回を狙っています」
俺はため息しかつけなかった。俺の笑顔は、たとえ何があろうとも、微笑ましいお二人を祝福するためのものでは決してないからだ。
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