第10話

僕の職場は娯楽産業

所謂パチンコのメーカーだ

ここで晴れて採用を勝ち取り

念願の企画の仕事が出来る……と思っていたのだが

いきなり新入社員が企画に入れるわけもなく

二週間の社内研修のあと店舗で働かされる

まずは現場を知れ

というのが方針らしい


こうすれば間違いない、というような答えなどない

定番になるような商品でも作れれば話は別なのだろうが

時代と共に流行も人の興味もあっという間に移ろっていく

だから、世間に受け入れられるにはその時々の流行り廃りを

敏感に感じ取るアンテナが必要不可欠なんだとか

と言うことで今日からはこの遊技場が僕の職場だ

「おはようございます!」

店内に入り、店長に挨拶する

「おはよう 今日からだっけ?よろしくね」

早速事務所に案内され、業務内容の確認をする

「おはようございまーす」

「おはようございます」

バラバラと数人事務所に入ってくる

どうやらバイトの子たちのようだ

僕と同じくらいの歳か?

中にはひと回りは年上そうな人もいるな

この人は社員かな

「朝礼始めます」

店長が前に立ち、向かい合うようにして社員たちが整列する

店長に呼ばれ、僕は簡単な自己紹介をする

最後によろしくお願いしますと言って頭を下げた

「じゃあ、そっちに一緒に並んで」

と言われ、列に加わる

それから基本挨拶などの声出し

お辞儀の角度の確認

本日のイベントの段取り

業務連絡があって、15分程で朝礼は終わった

「開店作業、急いでー」

「入場整理行ってきまーす」

みんなバラバラな場所に向かうのだが

一斉に動き出す様子は一体感があると思った

「はい、これインカム 耳に付けて」

渡されたインカムのイヤフォンを耳にあてる

「今日はホールに入ってね」

パチンコ屋では学生の時にバイトしたことがあるので、

何となく要領はわかっていた

「即戦力だね」

と店長は笑った

「5分前でーす」

カウンターの女の子の声が響いた

ホールの入り口に整列してお客様を迎える

今日は何やらイベントがあるとかで、

入り口前にはたくさんの人が並んでいた

店内に大音量の音楽がかかりはじめる

「開店しまーす」

自動扉が開き、開店を待ちかねた客たちが飛び込んで来る

「走らないで下さーい」

「はい 次50番の番号札をお持ちの方ー」

「100番の方からはもう少しお待ち下さーい」

目当ての台めがけてみんな必死に走っている

みんな期待に満ちた顔をしている

いい大人たちが、子供のようだ

好きな玩具めがけて駆け寄って行く姿と何ら変わりはない

「次150番の方ー」

これだけの人を夢中にさせるモノを作れる人が

すごいと思った

小分けにしながら客を入場させると

すぐに遊技台は人で埋まり、

店内はものすごい量の音で埋め尽くされた

インカムで指示を拾いながら、店内を動き回る

箱の上げ下げ

玉詰まり

どれも覚えのある作業だったので戸惑いは無かった

身体を動かしている間にあっという間に時間は過ぎた


夕方18時、早番の交代の時間だ

「お疲れ様」

店長が僕に声をかけた

「お疲れ様です」

「今日はもう上がっていいよ どうだった?」

「ホールに入ったのは久しぶりだったので…

明日はもう少し動けるように頑張ります」

「ははは よく動けてたと思うよー?

また明日もよろしく頼むよ!」

「ありがとうございます よろしくお願いします」

もう一度お疲れ様でした、とお辞儀をして事務所に戻った

着替えて店を出る

なんとなく身体が痛い

筋肉痛になるかもな、と思った

嫌な疲労感ではなかった

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