第11話

腹減った

何か食って帰るか

駅前の牛丼屋が目に止まった

金ないしコレでいいや

カウンターに座って食券を渡し水を飲んだ

これからしばらく此処で飯食って帰るのが

お決まりのコースになるのかな

「お待たせしましたぁ」

店員の女の子が持ってきた牛丼に紅生姜を乗せてかき込んだ

店内はそこそこ混みあっていて、

カウンターの中では女の子がパタパタと忙しそうに

厨房と客の前を行き来している

元気なその子とは対称的に客たちは

黙って食券を渡し、牛丼をかき込み、水を飲み干すと

席を立つ

ベルトコンベアーに載っけられた商品みたいだと思ったら可笑しかった

一体どちらが商品なんだか

丼をカラにして、水を飲んで席を立つ

あれ 僕も商品じゃん

何か悔しい気持ちになったが、女の子の

「ありがとうございましたー」

という元気な声を聞いたら、

どうでもいいかという気持ちになった


電車に乗り家に帰る

部屋に入って電気を付けてテレビのスイッチを入れる

何個かリモコンでチャンネルを切り替えてみたけど

たいして見たい番組ないな

ベッドに身体を投げ出すと

ホッとしたのか急にものすごい疲労感に襲われた

やっぱり緊張してたところもあったのだろう

でもまあ、初日にしては上出来だろ?

自分で自分を褒めて納得させた

寝てしまう前に風呂入っとくか

せっかく今日上手くやれたんだ

疲れたからと明日遅刻とか洒落にならねーし

シャワーを浴びてアラームをセットして

早めに休むことにした


ベッドに入って目を瞑った時

ふと今朝の電車の中にいた子のことを思い出した

人形のようだったあの子

明日もいるかな…?

アラームの時刻を30分早めた





目覚ましのアラームが鳴り響く

昨晩は早めに休んだおかげで疲れはあまり残っていないようだ

ベッドから出て洗面所で顔を洗う

着替えて菓子パンを齧りながらテレビを付ける

番組のお天気コーナーのお姉さんが

今日は暖かくなります!と嬉しそうに言っている


考えてみれば、暖かいというだけで少し嬉しくなるのも不思議なものだ

冬の寒さを耐えたからこそ感じる感覚なのか

確かに「寒い、冷たい」よりも「暖かい」の方がいい

温もりを求めるのは人の性か

気温も、心も


コーヒーをすすってテレビを消し、

昨日と同じ電車に乗るために駅へ向かった

その途中で考えた

確かこの時間だったよな

何両目だったっけ?

いや、でも今日もいるとは限らないだろ

降りたのはオフィス街だった

通勤してる風ではあったが

電車に乗ってるとしても、同じ場所に乗るとも限らないのか?


いっぺんに色んなことを考えながら僕は

何で彼女がまた同じところに乗ってると思ったんだ

と自分の単純さに呆れた

まぁいいか 乗ってなかったらなかったで、それでも仕方ない

ただ少し興味があっただけだ

人形のように見えた彼女が、今日もそう見えるのか

それを確かめたかっただけ






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