レイン、満載

「「「うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」…


 海に逃げ出した者、陸に取り残された者――その全てを吸収して生まれ変わった港の町は、あっという間に純白のビキニ衣装の美女によって覆い尽された。どこまでも同じ建物が続く通りだけではなく、その建物の屋根も壁も、その周囲に広がる空間も、あらゆる場所が黒と肌色、そして白に覆われてしまったのである。当然だろう、レインに完全に乗っ取られ、彼女が海から楽しく戻るための物体になっていたかつての箱舟、現在の『レイン・シップ』があっという間に分解され、何千兆人もの新たなレインへと生まれ変わったのだから。

 前後左右のみならず、上空までもが自分と同じ姿形の美女でいっぱいになる、もうレインたちはこの光景を何百何千、いや何万何億回と経験し、そして記憶に刻み込んでいたかもしれない。だが、彼女たちにとってこの快感は何度経験しても飽きるどころかますます体験したくなる素晴らしいものであった。四方八方から自分の柔らかい胸や太ももが体中に触れ、時には麗しい唇の感触まで頬に次々とやってくると言うお祭り騒ぎのような時間こそ、まさにレイン・シュドーにとって理想の時間であり、そして彼女の欲望を全開し続けるものだったのかもしれない。


「あぁん、レイン……♪」うふふ、レイン……♪」海からもレインがいっぱい来るなんて最高ね……♪」本当ね、ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」…



 そんな自分だらけの場所でたっぷりと純白のビキニ衣装という天国に酔いしれていた時、すべての彼女の心の中に全く別の場所――ここから遥か遠く離れた、とある内陸部の山沿いの場所から、これまた嬉しそうなレイン・シュドーの声が響いてきた。海沿いの町をすべて人間たちから奪い尽すことに成功した、という大きな一歩に対しての祝福の言葉を投げかけたのち、そのレインもまた面白い報告をこちらのレインたちに届けてくれた。

 最後の勇者、そしてすべての人間たちにとっての除け者になり果てた男、トーリス・キルメンをまたも弄り回す事に成功した、というのである。


「「「え、トーリスが……?」」」

『『『『そうなのよレイン、まだ彼方此方をうろついてるみたい……』』』』


 もう少し惨めな彼の様子を見るべく、時たま変装して彼にわずかばかりの食料を供給しているのは確かに自分たちであるが、それを抜きにしても未だに生き延びていると言う彼の見上げた根性にある意味感心しつつ、今回はどのような形で彼を混乱の極致に陥れたのか、レインたちは楽しみにしながら相手からの報告を待った。そして、少しづつ彼女たちの心の中に、先程まで経験した『レイン・シップ』の帰還とほぼ同じ時刻に遠くの場所で起きた、楽しい出来事の記憶が宿り始めた。

 そこに映っていたのは、おびただしい数の全く同一の少女たちの笑顔であった。四方八方からトーリスの名を呼び、逃げ惑う彼を楽しく取り囲むように追いかけ回すその光景は、レインたちにとってまさしく滑稽であった。しかもその『少女』は、トーリスにとってある意味ではレイン以上に恐怖を味合わせる姿形をしていたのだ。



『うわあああああ!!!!助けてくれえええええ!!!!』


 レインたちは、自分に宿った記憶を何度も思い返しながら、喉が裂けそうなほどの悲鳴を上げる無様な『勇者』と――。


『うふふ、トーリスさーん♪』待ってください♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』トーリスさん♪』…


 ――どこまでも彼を追い駆け続ける、すでにこの世にはいないはずの勇者、ライラ・ハリーナの大群に思いを馳せていた。

 勿論、何万何億と増えながら無邪気な笑顔でトーリスの名を呼ぶこの少女たちは、レイン・シュドーが魔術を駆使して姿を変えた存在である。かつての彼女にとって、ライラは光り輝く浄化の魔術を駆使する手の届かない存在であったが、今のレインたちは当時のライラを呆気なく超えるほどの実力を身に着けていた。だからこそ、彼女は簡単にかつての戦友に成りすまし、本物の彼女の命を奪った憎き男に対しての復讐を代行できるほどにまで成長したのである。


 そして、這う這うの体で命からがら逃げていく男の醜態を見送る記憶を味わいながら、改めてレインたちは現在の自分の状況を思い直した。今や、彼女に征服されていない人間たちの町――ライラの存在すら忘れ、トーリスの嘘も見抜けないまま堕落の一途をたどる者たちが蠢く場所は、残り数か所。その中で大規模な町は、たった1つしか残されていないのだ。ライラの命が奪われ、自分という存在が抹消されたという真実を知ったあの日からここに至るまで、良くも悪くも実りある毎日を過ごし続けたレインたちは、少しだけ感慨深い思いに浸った。


「「「そうか……あと少しで……」」」

『『『『そうね……すべての命が、レイン・シュドーになる……』』』』


 そして、改めて彼女たちは欲望に踊らされ過ぎた自分を払うかのように首を大きく振り、改めて自信満々な笑みを見せた。言葉に出さずとも、数日後には人間たちが暮らす最後の大きな町をレイン・シュドーで埋め尽くす決意を固めながら。あの町もまた、この港町同様、ダミーレインにすべてを託し、彼女を散々こき使い続けた場所である。じっくりと作戦を練り、自分が満足する形での征服を成し遂げるのが最善の手段だ、と。



『『『『じゃ、レイン、頑張ってね♪』』』』

「「「「「「そっちこそねー、レイン♪」」」」」」



 そして、レインたちは互いに交信を切った。まったく別の場所にいても、思いが通じ合うというう嬉しさを噛みしめながら。



~~~~~~~~~~~~~~~~~


「「「「ねえ、レイン……?」」」」

「「「「どうしたの、レイン?」」」」



 一仕事や興奮する時間を終え、空中も地上も埋め尽くしながら一息ついていた時、海を眺めていた一部のレインからある疑問がすべてのレインに伝わり始めた。

 あの時、この場所から大海原へと逃げ出した者たちは、口々にこのようなことを言っていた。勇者レイン・シュドーが、この海の向こうに新天地が待っていると告げていた、と。当然そのような事をレインが彼らに助言したことは一度も無かったが、改めて考えると少しだけその言葉が気になってきたのである。

 彼女たちが知る『世界の果て』の光景の多くは、海とは正反対の方向にどこまでも続く、命の気配が1つもない荒野であった。レインがどれほど数を増やしても一向に果てが見えず、彼女の想像も及ばないほどに無限の地平線が続く空間は、今もなお彼女たちにとって自分が無敵の存在ではない、と戒める良い光景でもあった。もしかすると、この『海』もまた、新天地など無くどこまでも延々と青い光景が続くだけの空間なのではないか、とレインたちは考えたのである。



「「「「……それもそうよね、レイン……」」」」

「「「「『島』って言うのかな?そういうのが全然無いのよね」」」」


 レインと同じ肌、同じ意識を持ち、幾らでも新たなレインを創り出すことができる『レイン・シップ』に乗りながら辺りを見回した彼女たちは、あの時の人々の思いがあまりにも楽観的、短絡的なものである事を思い知ることになった。新天地などあるはずもないのに、他人に責任を押し付けてまでそれを求めようとするのは、それほど人々が恐怖に耐えられなかったからなのかもしれない、とレインたちは改めて考えた。彼らが目指していたであろう素晴らしい楽園が、こんな傍にあることに全く気付かなかったという彼らの愚かさを嘲り笑いつつ。


 そして、改めてレインたちは、海を見つめながら誓い合った。いつか本当に、世界が真の意味でになった時、この海の果てまでもレイン・シュドーで埋め尽くしてみよう、と。

 ただ、その前準備とも呼べるものは、既に進行し始めていた。もう一度一息ついたレインたちの心に、再び海の向こうから『レイン・シップ』に乗る大量のレインたちの嬉しそうな声が響き始めてきたのだ。それも1つだけではなく、2つ、3つ、10個と次々に数を増しながら。そう、単にレインはあの『箱舟』を自分好みの構造物に変えただけではなかった。未来永劫、その物体が次々にこの場所へと帰還し、町が毎日新たなレインで賑わうように仕立て上げたのである。


 そして、レインたちは互いに笑顔を交わしながら、この街をより盛り上げるために行動を開始した。空間を更に歪めて港を大きくしたり、通りを無尽蔵に増やしたり、壁をびっしりと埋め尽くすのに良いレイン・シュドーの絵柄を模索したり、やる事は沢山あるのだ。彼女たちばかりではなく――。



「「「「おーい、レインー!!」」」」



 ――水平線をびっしりと埋め尽くしながら港目指して次々に現れる、何千何万、いや何億隻もの『レイン・シップ』と、それらに満載されたレイン・シュドーのために……。



「「「おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」…

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